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Weekly Briefing(ワークスタイル編)

「8割は課長にさえなれない時代」到来か

2015/4/8
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、注目ニュースをピックアップ。水曜日は、ワークスタイルに関わるニュースをコメントとともに紹介します。

「働かないオジサン」に「部下なし課長・部長」──。今年以降、そんな言葉は死語になるかもしれない。管理職が“厳選”される時代が、いよいよ本格到来する兆しがある。

Pick 1:ソニーの管理職比率が4割から2割に

ソニー、管理職比率2割に半減 年功要素を完全撤廃” 日本経済新聞(2015年4月5日)

ソニーは、正社員の4割を超えていた管理職の比率を2割に半減する。年功要素をなくし、「現在の果たしている役割」のみを評価する。

「役割給」といって、一つひとつの仕事の難易度、重要度などを測り、それに対する対価を支払う給料体系に変わる。そして、「部付部長」や「担当部長」といった、実際には部下を管理していない部下または管理職は、一掃されることが見込まれる。

日本には「激変緩和措置(移行措置)」といい、給料をいきなり半減するなどといった極端なことはしないが、これにより、数年をかけて、給料が半減する人材が続出するかもしれない。それほどのインパクトがあるニュースだ。

Pick 2:パナソニックも「役割給」導入を決定

パナソニック、社員7万人対象に新賃金処遇制度-現在の仕事・役割を重視” 朝日新聞(2015年3月2日)

役割給を導入するのは、ソニーに限った話ではない。パナソニックも「現在の仕事・役割」を重視する給料体系に刷新。2014年10月から、管理職約1万5000人には導入済みだが、残る一般社員(非管理職)5万5000人には4月から適用する。

また、日立製作所も「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成して、職務格付基準を7段階に統一。給与は、それぞれのグレードと、本人のパフォーマンス(評価)、グループ会社の給与水準や各国の労働市場水準に基づいて決定する仕組み」に変更済みだ(参照:「世界32万人以上の従業員を一括管理し「職務内容」で格付。研修も人事異動もボーダーレスに」)。

日立の場合、同じ「役割」なら子会社、海外拠点をまたいで同じように処遇する「グローバル人事統一」の考え方を徹底させることで、研修も人事も国をまたいだボーダーレスを目指す。

このように、電機各社は完全に「年功給」の考え方からオサラバした感がある。もっとも、そもそも論を言うなら、これまで日本の男性サラリーマンの給与が、年齢とともに上昇していたことに不自然があった。

年功給とは、建前的には「人は年々スキルが上がるもの」という考え方に立脚している。だが、それはあくまで大義名分にすぎず、育児や教育などに金がかかる世代には、手厚く支払う「生活給」の考えに基づいていた。

しかし、現在の大手企業は、激しい国際競争にさらされ、企業の業績は右肩上がりとは言い難く、従業員に高い給料をやすやすと支払う余裕はない。

さらに、若年層より給料の高いミドル、シニア層が多く、人口構成がいびつになっている。加えて、育休や時短勤務などの整備で女性従業員の離職率は年々減少。このような理由から、年功制の素地となる定期昇給を維持することは、現実的ではなくなっているのだ。

Pick 3:「同一労働・同一賃金」は日本で受け入れられるか?

統一地方選が近づく中、民主党は「同一労働・同一賃金」の政策を打ち出す。ご存知の通り、同じ職務内容なら雇用形態や性別などで差をつけてはいけないという労働政策だ。

自公民、統一選で初の子ども向け政策集 将来への布石” 朝日新聞(2015年4月4日)

同一労働・同一賃金は、「給料の違いは『仕事が違う』か『同じ仕事でもスキルが違う』かでしか発生しない」という原則に基づく。年功制や定期昇給の考えとは相いれない。

イケア・ジャパンなどの一部外資系企業では、すでに適用するケースもあるが、今後、この考え方が広がった場合、仕事のスキルが向上する一定の時期を過ぎたら、給料はまったく上がらない時代が到来することを意味するに等しい。

現在の状況では、この法案が国会をすんなり通るとは考えにくい。だが、ソニーやパナソニックの先の事例を持ち出すまでもなく、年齢を重ねれば、管理職のようなポストが用意されて給料が上昇する時代は、完全に終わりを迎えるといっていいだろう。

なぜなら、中高年の給料の負担増は企業の経営を圧迫し、国際競争力も下げる要因になりかねないからだ。

では、今後、少ない管理職ポストに就ける人とはどのような人か? 私が、多くの人事関係者を取材した限りでは、大体、以下のような要件をクリアする必要があるという。

(1)管理職に空きポストが発生したとき、社内公募に自ら「私にやらせてください」と手を挙げる人

(2)そして、その選考をパスできる人

(3)あるいは、空き管理職ポストができたとき、あの人にやらせてみようと真っ先に候補に挙がる人

(4)33歳前後の従業員を対象に行われるマネジャー研修に声が掛かっている人

つまり、早期の段階で「管理職候補者人材プール」に名前がリストアップされている人、あるいは、強いコミットメント意識と積極性を持つ人のみが昇進する時代になりつつあるといえる。

企業の人事関係者の多くは、現在「管理職空きポスト」を増やすためには、「『偏在管理職だがパフォーマンスを発揮していない人』をどんどん降格させるしかない」と指摘する。

もっとも、大幅な降格や減給措置を実施することには、さまざまな抵抗があることが予想される。人事部と管理職の“仁義なき戦い”が火ぶたを切るかもしれない。だが、それができないと、「追い出し部屋」の設置など、上からたたきつぶすかたちで中高年をリストラするしかなくなる。

ひと昔前まで、日本企業は同じ仕事一筋でクオリティを高めたシニアをありがたがったものだ。ドラマ『ハゲタカ』などでも、カメラレンズの研磨技術の匠(たくみ)が、企業買収のカギになるようなストーリーが展開されていたことからも垣間見える。

だが、ロボットや人工知能(AI)の発展など技術革新が目覚ましい時代では、そんな匠の技術は、すげなく新しい技術に置き換えられる可能性が高い。

そうなると、ヒトが行うあらゆる仕事の中身が、より高付加価値な方向に置き換えられていくだろう。今後、私たちが直面しているのは、同じ仕事が一生もつかというシビアな現実だ。

会社が手放したくない人はどんな人なのか常に考え、一生勉強していかない限り生き残れない時代──そんなタフな時代が、もう目の前に迫っていると感じずにはいられない。

※Weekly Briefing(ワークスタイル編)は毎週水曜日に掲載予定です。