150401_工藤インタビュー

「ビジネスはJリーグを救えるか?」特別編

女性アスリートは経営者に向いているのか?

2015/4/1

EY(アーンスト・アンド・ヤング)が、女性アスリートのために新たなプロジェクトを始めた。

女性アスリート・ビジネス・ネットワーク(以下WABN)と称する、女性アスリートを経営者にするプログラムを立ち上げたのだ。

その名は、『WABNメンタリングプログラム』。

応募を勝ち抜いた女性トップアスリートに対して、ビジネス界で活躍する女性リーダーをメンターとしてマッチングすることで、社会進出をサポートするというものだ。すでに2014年10月に第1期がスタートし、現在第2期の募集が始まっている。

はたして女性アスリートは、経営者に向いているのだろうか?

EYのメンバーファームである新日本有限責任監査法人のプロジェクト担当者、工藤陽子氏に話を聞いた。

全米トップ500社のCEOの多くがスポーツ経験者

──『WABNメンタリングプログラム』とは、どんなプログラムなのでしょうか。

工藤「競技スポーツで活躍した女性アスリートに、起業を含めたビジネスへの挑戦を支援していくものです。内容としては、海外で活躍する女性のビジネスリーダーをメンター(導き手)として結びつけ、アドバイスをもらいながら成功をサポートします」

──どういったきっかけで生まれたのでしょう?

「きっかけは2016年にブラジルで開催されるリオデジャネイロ五輪です。EYがリオ五輪のオフィシャル・サポーターとなりました。

さまざまなリサーチによると『フォーチュン500』(フォーチュン誌が発表する全米企業の総収入ランキング上位500社)に入っているCEOの多くが、過去にスポーツをやっていたんです。女性のCEOもそうでした。

スポーツの世界で、トップまで極めた女性というのはメンタル面も強い。チームワークの面でも優れている。それらはスポーツによって養われた部分が多いと思います。

そこでわれわれは、優れたアスリートをうまくビジネス界にスイッチさせてあげたいと考え、ネットワークを広げていったのが始まりです」

工藤陽子、新日本有限責任監査法人の『WABNメンタリングプログラム』担当者。女性アスリート・ビジネス・ネットワークの日本エリア代表でもある。(写真:福田俊介)

工藤陽子、新日本有限責任監査法人の『WABNメンタリングプログラム』担当者。女性アスリート・ビジネス・ネットワークの日本エリア代表でもある。(写真:福田俊介)

IMF専務理事はシンクロの元フランス代表

──でも、なぜ男性ではなく、女性アスリート限定なのでしょう?

「私どもは長い間ダイバーシティ(多様性)という観点から、ジェンダー・イクォリティを掲げて、男女格差の問題をずっと扱ってきたんです。ダイバーシティに関する他のプログラムも長年手がけてきました。今回は女性+アスリート+企業家というものにフォーカスを当てました。

日本でも世界でも、経済界では女性の活用が喫緊の課題となっています。たとえばワールド・エコノミック・フォーラムでも、女性をもっと活用すれば経済効果が上がると試算されています。

2年半前、国際通貨基金(IMF)・専務理事であるクリスティーヌ・ラガルドさんが来日して講演されました。IMFの試算では、日本において女性の活用が進むとGDP(国内総生産)を4%押し上げると。アジアとかアフリカなど、女性が活用されることによって経済効果が進むといわれています。社会貢献という意味でも、女性の地位を向上させるという意味でも、女性にフォーカスしていることが私どもの特別な戦略なんです。

ちなみにこのラガルドさん、シンクロナイズドスイミングの元フランス代表なんですよ」

応募条件は五輪や世界大会への出場

──プログラムが立ち上がったのはいつですか。

「2013年の3月8日、国際女性デーでした。ちょうど2年前です。今回の第2期生から日本でも募集が始まりました。応募要件は、オリンピックやパラリンピック、世界大会のいずれかに出場経験がある女性アスリート。そして英語によるコミュニケーションができること。年齢や大会の出場年の制限などは一切ありません」

──応募から選考まで、どういった流れでしょう?

「まず書類審査。応募書類を英語で書いていただきますが、論文ではなく『私は何がやりたいか』をエッセイ的に書いてもらいます。自己PRをしていかなくてはならないので、英語で文章を書き慣れていない方には、私たちの担当がお手伝いをします。その後は面接試験。応募期限は今年の6月末、最終決定は9月に出ます。

そこをクリアすると実際のメンタリングが始まりますが、それまでの準備をできる限りサポートさせていただきます。英語力が足りない人は、私どものスタッフにバイリンガルがたくさんいますので、マンツーマンで英語力アップをお手伝いします。

ちなみに費用ですが原則無料です。海外でメンターに直接会う際の渡航費や宿泊費は、最低1回は実費支給します。回数はご相談となります。期間は2015年10月から2016年9月までの1年間となってます」

──募集人員は?

「日本からは2名程度、全世界で25名となっています」

『WABNメンタリングプログラム』の募集パンプレット。第一期生には、女子テニス選手のダニエラ・ハンチュコバ、女子フィギュアスケートのエミリー・ヒューズといったビッグネームが名を連ねた。(写真:Shinya Kizaki)

『WABNメンタリングプログラム』の募集パンプレット。第一期生には、女子テニス選手のダニエラ・ハンチュコバ、女子フィギュアスケートのエミリー・ヒューズといったビッグネームが名を連ねた。第二期の応募に関する情報はこちら。(写真:Shinya Kizaki)

──なぜ、今回から日本での応募が始まったのですか。

「アカデミックに算出された数字があります。現状のペースでは男女共同参画社会が実現するのは80年後、といわれているんです。

世界各国のジェンダー格差を解消するまでのリサーチをしたリポートの数字です。ジェンダー格差をパリティ(等価性)、つまり五分五分までもっていくためには、このペースでいくと80年くらいかかると。特に日本は遅れていて、2014年のOECD(経済協力開発機構)のジェンダー・ギャップ・リポートでは、142カ国中104位でした。

なので、こういったプログラムはウーマン・ファストフォワードといって早送りしなくてはいけません」

──「メンタリング」について、より詳しく教えてください。

「メンタリングを受ける人をメンティといいます。この場合は選考されたアスリートですね。まず、メンターとメンティのペアを決めることから始まります。そこが決まると、年に数回は直接会ってアドバイスや指導を受けます。それ以外はSNSやメールなどでやり取りをします。実はちょうど今日ペアリングが発表されたんですよ。第1期25名のメンターが決まりました」

「日本のミア・ハム」は出現するか

──アメリカの女子サッカー界には、ミア・ハムというビジネス界で成功した元選手がいますね。1996年アトランタ五輪で金メダルを獲得し、1999年に自国開催の女子ワールドカップで優勝し、引退後はビジネス界に転身しました。現在はイタリアの名門・ASローマの取締役などを務めています。

「実は私、1989年から2005年までアメリカにおりました。ですので1999年の女子ワールドカップは今でも鮮明に覚えています。決勝戦が行われたロスに住んでいたので、その時の盛り上がりようといったら…。話していると、あの時の興奮がよみがえってきます」

──今回のプログラムは「日本のミア・ハム」を育てるともいえますね。

「OBの方はもちろん、現役オリンピアンにも受講してもらいたい選手が数多くいます。他にもポテンシャルの高い方がいます。是非いろんな競技の方に挑戦してほしいですね」

──プログラムに関係なく、興味をひかれる女性アスリートはいらっしゃいますか。

「たとえばスノーボーダーの竹内智香さん。競技以外でも地域貢献や育成に携わられていますよね。ああいった女性アスリートがどんどん増えていってほしいです」