中国人観光客がやって来た_3

なぜ日本の商品やサービスが評価されるのか?

【Vol. 3】「爆買」では分からない、中国人の本当の気持ち

2015/3/30

今年の2月19日の春節、そして3月5日の正月終了を告げる元宵節までの間、多くの中国人の観光客が日本を訪れた。昨年の統計では訪日観光客1314万人のうち、中国人は約240万人と台湾、韓国に次いで第3位。前年比183.3%の伸びとなっている(JNTO調べ)。このまま続けば、2015年は確実に台湾、韓国からの観光客数を抜きNO.1になるとされる。

背景には、円安はもちろんだが、賃金の伸びが影響している。上海を例に取ると平均賃金が年間6万元(約120万円)を超える水準に達している(上海社科学院社会調査中心2014年度)。

また経済成長の結果、買物平均額は訪日外国人の一人あたり約5.5万円に対し、中国人観光客は同約13万円とダントツ1位である。

いったい何が中国人の心を動かし、商品を購入しているのか。その背景にある現実を探ってみたい。
Asian Tourists Shopping in Tokyo during the  Lunar New Year Holiday

ケース1:「高級日本製品を購入したい」

会社規模は非常に小さいが、トップが社員のことを信頼しているある会社で、社員が日本に出張した際の事例を紹介しよう。その出張者3人には、「出張予算」として董事長(日本では会長に相当)のポケットから1人50万円が渡されていた。

彼らはまず腕時計を物色、セイコー、シチズンなどの日本のメーカーの腕時計を購入した。日本の時計は中国では非常に人気で、電波時計(標準電波を毎日受信して、時刻を修正する時計)など付加価値の高い製品を集中的に求める。この出張者らは10万円を超える時計を2個購入した。自分と大切な友人のためだ。

売り場に入って見て回り、決断するまでの時間はわずか10分。おそらく日本人には、これほどの金額の買物を即決断という中国人の習慣は非常に奇妙に見えるだろう。

ケース2:中国生産品よりも品質の高い日本生産品を購入する

3人はさらにひげそり、カメラ、血圧計、電動歯ブラシ、化粧品などを買って帰った。それぞれブランドはパナソニック、キヤノン、オムロン、資生堂などのブランドを選んだ。

もちろんこれらのブランドは中国でも生産し、販売している。それにもかかわらず、わざわざ日本製を探す。横には同ブランドの中国製商品があったが見向きもせず、高い日本製品を購入した。購入個数はやはりそれぞれ2、3個だった。

ケース3:ドラッグストアで珍しいものを大量購入

大手メーカー製の、目に当てると暖かくなるアイマスクや、足を冷却し、ハーブ成分をタップリと含むウエットシートなどは単価が安い。友人は10個程度購入した。

これらの製品は、基本機能(マスクは遮光、ウエットシートであれば単なる冷却)に加え、ちょっとした工夫がある製品で、中国ではあまり見かけない。だから、珍しさがある。自分が楽しむのでも、知り合いにお土産にしてもよい。かさがあまりなく、手軽なのも利点だ。

その他、日本の寿司は中国で食べる寿司とは全く違うと、滞在中食べまくる人のこともよく耳にする。

ではいったいなぜこのようなことが起きてしまうのだろうか?

現実その1:人付き合いは投資、お土産を通じて関係強化

日本人に比べて、中国人は一般的に人付き合いを「投資」と考え、他者とのネットワークを非常に重視し、関係づくりや維持に必死だ。よって親しい上司や友人にお土産を買って帰るのは当たり前のこととして捉える。

そんなお土産の購入には、その人物との関係が冷静に判断される。前述した「ケース1」で董事長がポケットマネーを出張者に渡したのは、恩義を感じてもらうための投資というのが背景にある(だが、もし購入した商品の領収書を董事長が要求すれば、恩義どころか「小気」、中国語で「ケチ」と見なされ、逆効果となる)。

今や日本を旅行する中国人は増えているものの、中国人全体からすればまだもの珍しさの域を脱していない。そういう状況の中で、日本観光のチャンスにたくさん商品を購入して「備えておく」ことはなんら不思議ではない。

現実その2:品質不安を払拭するための購買行動

中国の品質不安といえば、2009年に河北省のメーカーが製造し、日本で販売されて起こった「毒入りギョーザ」事件を思い出す人も多いだろう。2007年にも中国製ペットフードにメラミンが混入され、多くのペットが腎不全で死んだため、北米、ヨーロッパ、南アフリカでリコールされた。2008年にはコストを安く抑えるという理由で粉ミルクにもメラミンが混入された事件が明らかになり、中国全土で乳児6人が死亡し、30万人に腎機能障害が残った。

そんな人々を不安に陥れる事件がほぼ毎年のように発生し、中国人の間でも中国製品に対するイメージは非常に悪い。歴史的に人、お上にだまされてきた中国人は、すぐには人を信用しない。きちんとパッケージング・ラベリングされた正規品であっても、まずは疑ってかかる。それほど疲れる日常を中国国内で過ごしている状況で日本を旅行すると、日本人はだまさないし、日本製品は正規品であるというプラスイメージが中国人の間で強く働く。

資生堂の担当者に直接聞いた話だが、中国市場向けに同社が発売しているブランド「AUPRES」「URARA」は中国人のために開発された特に保湿性効果の高い商品である。中国の気候が乾燥しやすいために作られた中国仕様になっているのだ。市場の大きい中国で発売する製品の多くは、中国人ニーズに合わせて開発されたものが結構多い。

にもかかわらず、保湿性が相対的に低い日本製商品(別ブランド)をたくさん購入する。

中国で生産される製品の質が改善されない限り、このようなタイプの消費は当分続くであろう。

現実その3:「日本人のおもてなし=相手の期待を聞き入れる」への評価

日本のおもてなしとは、相手の考えを先回りして考え、事前に察知し、その上でサービス内容を組み立てて提供するものである。よって、中国人がいろいろ注文をつけても、日本のお店ではそれを受け入れてくれる素地がある。

さすがに中国でも20年前のように、商品を購入したおつりを店員がお客さまに投げて渡す行為はほとんど見られない。ただ現在の中国と比べても、日本にあるレストラン、旅館などでの対応に非常に心地よさを感じている。

中国人(客)からのクレーム対応、質問に丁寧に応える日本人や、見えないところで努力している本当の優しさなどに触れることにより、総合的な日本人の「おもてなし」を「驚き」として捉えている。

お寿司の解凍技術(適度な食塩水にお寿司のネタをつけて、ゆっくり解凍しおいしくするなど)や、お店や旅館でメッセージカードを添えることなどは、まさに細かな努力のたまものである。実際中国人の90%の人が日本旅行で満足しているという結果も存在する。

その良い意味での「驚き」が消費・購買行動に対し価値を払ってもよいという気持ちと、それを自分は支払えるという「面子」(メンツ)などが、大量消費につながっていると考えられる。

日中間に横たわる「ギャップ」とは

中国人の約90%以上は、日本の情報をメディア通じて収集している(言論NPO 2014年調査)。収集したメディアの情報は政治や歴史に偏り、日本の経済や文化の情報が正しく伝えられていない。口コミ情報などで情報武装して来日したのに驚きが多いことが、結果として大量消費につながっていると筆者は考えている。

裏返すと、中国と日本の間に存在する現実のさまざまなギャップゆえの行動が「爆買」なのだ。よって、こうした社会背景が存在する限りは、この傾向はしばらく継続するはずだ。「爆買」は彼らにとって文化的、人のふれあいを通じた「本物日本の証」であり、まだ日本を知らない人たちのもとへ持ち帰る、文字通りの「お土産」なのである。

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)