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インタビュー:大前研一『イノベーションを生む教育と出会いの「場」』

異質な人間同士の「出会い」がイノベーションを生む

2015/3/30
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第三弾である『 大前研一ビジネスジャーナル No.3「なぜ日本から世界的イノベーションが生まれなくなったのか」』(初版:2015年2月6日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。本号では「イノベーションを生みだすにはどうすればよいのか」をテーマに、日本の現状を掘り下げている。今回のインタビューでは、イノベーションが生まれる「場」について、大前氏に聞く。(2014.12.22 取材:good.book編集部)
大前研一特別インタビュー(上):「疑問を持つこと」がイノベーションの種になる(3/26)

イノベーションの出発点は「疑うこと」

つまり、イノベーションを生み出す上で非常に重要なのは、既存の枠組み、当たり前とされていることに対して「疑問を持つこと」「疑うこと」なんですね。前回記事のキリスト教の例で言うなら「マリアさんが自然に受胎するのは不思議ですね」というように。

そういう意味では、実は日本も捨てたものじゃないんです。たとえば日本の有名大学の中で、自然科学系のノーベル賞受賞者を一番多く輩出している大学はどこだと思いますか? 東京大学じゃない。京都大学と名古屋大学なんです。なぜ文部科学省がふんだんに予算をつける東大ではないのか。

これはつまり「アンチエスタブリッシュメント」、既に存在する価値観や考え方に対して「本当にそうなのか?」と疑う姿勢があるか否かなんですね。東大には、欧米の学問をそのまま持ち込む「輸入学者」のような人間が多い。「こういうものです」と教えられて「ああそうですか」と思い込んでしまったらイノベーションは生まれないんです。

イノベーションが生まれる「場」

イノベーションを生む人材育成という意味では、ロケーションも重要です。たとえばシリコンバレーには、世界中から異質な人間が集まってきます。本物もあれば偽物もあり、成功する人間もいれば失敗する人間もいるという激戦区です。人が集まるということはとても大切で、シリコンバレーで創業し、成功した企業の歴史を見ると、ほとんどが「出会い」から始まっているんです。

シリコンバレーで設立されたサン・マイクロシステムズ(現在はオラクルに吸収合併)の創業者たちは、スタンフォード大学にあるマクドナルドの2階でミーティングしていた。スタンフォード近辺というのは、出会いを誘発するための場所がたくさんあるわけです。

あるいはイギリスのケンブリッジ大学、トリニティ・カレッジのパブには、優秀な先生やアイディアを持った人が集まって、毎晩侃々諤々の議論をしている。一方、本郷の東大キャンパスにイノベーションを生む「場」があるかと言うと、これはもうそういう意味での出会いはないんだろうと思います。

大前研一(おおまえ・けんいち)ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

イノベーションの根源は「古いもの」と「新しいもの」の結合

イノベーションというのは、まったくの無から有を生むというより、既存のものの新しい組み合わせから生まれることが多いんです。シュンペーター(注)は100年前に「Neue Kombination(新結合)」、古いものと新しいものの結合がイノベーションであるという意味のことを言っています。この場合の「結合」というのは、理論と理論を結合するという意味ではありません。人と人、違う意見を持った人同士の結びつきということです。

イーロン・マスク(米宇宙開発企業「スペースX」の創設者)やジャック・ドーシー(モバイル決済「Square」の創業者)のように、斬新な発想で成功を手にした起業家たちのイノベーションもすべて、古いもの同士、あるいは古いものと新しいものの結合です。誰よりも早く駆け抜けた者がイノベーターと呼ばれるわけです。

(注)ヨーゼフ・シュンペーター。20世紀初頭の経済学者。「イノベーション」を中心とする経済成長理論を展開。

世界中からシリコンバレーに集う起業家たち

シリコンバレーの起業家は、どの国や地域の出身者が多いと思いますか。インド、台湾、そしてイスラエルです。私はインドの会社を経営していたのですが、インドの人はとにかく質問が多い。何でも納得するまでやるんです。ITエンジニアになれば、インドで働く50倍の賃金を得られるということも、大きなモチベーションになっています。

台湾の人は、明日にも国がなくなるかもしれないという危機感を持っています。中国語、英語、日本語と3つの言語を操る人も少なくない。さらに技術系の大学院に行くと兵役免除になるから、エンジニアを目指し、アメリカに留学して頭角を現す人材が多いんです。
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国の外に出たいという動機があるという意味では、東欧のベラルーシも同じです。ベラルーシは「欧州最後の独裁国家」と言われることもあり、その環境ゆえに外国へ出ていきたいと思っている若者が多い。表立って口にすることはできないから、彼らは黙ってITエンジニアを目指すわけです。なぜなら、才能が認められれば外国へ行くチャンスがあるから。その結果、人口1000万人に満たないベラルーシが、毎年約1万8千人もの優秀なエンジニアを輩出しています。

重要なのは自分と違う人間と付き合うこと

そういうふうにして私は世界中を見てきましたが、イノベーションを起こすためには、時と場所、そして人と人との組み合わせが重要なんですね。同じ思想の人と付き合っていても、新しいアイディアは出ないんです。イノベーションを生み出すという意味において、「俺とあいつは考え方もほとんど同じだ」というような相手とは付き合う必要がない。

「あいつはいつも俺の言うことに反対するな」というような相手と付き合っている方が、頭が活性化するんです。自分とは違う人間と付き合うことが、自分にとって最も生産的なことなんです。居心地がいいかどうかは別ですよ。でも、何か新しいことをやろうと思ったら、宗教や国籍、言語などのバックグラウンドが違う、さらに意見や発想も違う、そういう人たちと付き合うことが非常に重要です。

「均質性」が日本の特徴だとすると、これはやはり、イノベーションにとってはマイナスです。極めてマイナス。イノベーションを生み出す人材を育てる上で、この問題をいかにクリアするかが今後の鍵になるでしょうね。

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。

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