[YF]東南アジア実況中継_150330

複雑な国境事情に揺れ、国際環境に揺さぶられる

雲南国境「侵犯」事件、ミャンマーがのぞかせる対中距離感

2015/3/30
3月中旬、中国雲南省のミャンマー国境沿いで、ミャンマー国軍のミサイルが着弾、中国人農夫ら5人が死亡した。中国世論はすわ国境侵犯と大騒ぎになったが、政府は抗議こそしたものの、ミャンマー政府に対してあまり厳しい態度を取っていない。ミャンマー国境辺ではすでに2月から多くの難民が流れ込んでいると報道されている。今、ミャンマーでは何が起こっているのか。

皆さんは、ミャンマーがどこにあるのかご存知だろうか? 昨今ではその名を耳にする機会こそ増えたが、地図上におけるミャンマーの場所を知らない方も多いのではないだろうか?

ミャンマーは、東はタイ、ラオス、北は中国、西はインド、バングラデシュと、実に5つもの国と陸続きとなっている。人口世界最多の中国と、世界で2番目の人口を抱えるインドの2カ国と接し、地理的にも注目される。日系企業から見れば、自動車産業を中心とした多くの企業が進出しているタイと隣接している点も見逃せない。

130もの少数民族を抱えるミャンマーの武装勢力

ミャンマーは2011年3月に国名を「ミャンマー連邦」から、「ミャンマー連邦共和国」へ改めた。ここから単一化された国家ではないことが分かる。国民の7割ほどがビルマ族で、残る3割は135もの少数民族が占める。政府と少数民族との間にはさまざまな事情があり、大きな懸念を抱えている。

というのも、イギリスからの独立を果たした1948年以降、実に20ほどの少数民族が、独自の軍隊をもつ武装勢力として存在しているのだ。ただ、この武装勢力すべてがミャンマー政権・ミャンマー国軍と戦っているわけではなく、国軍に協力している勢力がいる一方で、政府軍と停戦に合意したとニュースが流れても、すぐにまた戦闘を開始する勢力があるのも事実だ。

少数民族で最も多いのがシャン族で、ミャンマー総人口の9%を占める。彼らが暮らすシャン州はミャンマー北東部にある。そのさらに北東部の中国国境付近には、ワ族が住んでいる。

世界最大の麻薬生産地の「ゴールデン・トライアングル」という名前を耳にしたことがある人もいるだろう。そこで生産された麻薬で資金を稼いでいるのが、このワ族である。ワ族の支配地域では、ミャンマー政府との停戦合意交渉時の条件としてその自治が認められてきた。地図を見ると、国境に面したエリアが自治区域となっている。

ミャンマー地図

さらにいくつかの中国やタイとの国境付近では、少数民族が国境貿易を支配している。ミャンマー政府による正規の国境、税関のすぐそばに少数民族による別の国境や税関が公然と存在している場所もあるという。

そこでは正式な国境貿易の統計に出ないような、相当数の「密輸」が行われ、麻薬や武器がやりとりされていることは予想に難くない。だが、政府がこうしたエリアの取り締まりを本格化させれば、少数民族との内戦が始まってしまうかもしれない。民族問題と「密輸」という両面が密接に絡みついているのである。

ミャンマー政権は現在、今年の末に実施される大統領選挙をにらみ、武装勢力との停戦合意に向けてめまぐるしい動きを繰り返している。昨年9月に続き、今年3月17日から22日にかけても停戦合意に向けて武装派勢力との会談が行われ、合意には至らなかったものの、改めて3月30日から交渉を再開する。停戦合意がなされれば、民主化への動きも取りやすく、また国際社会へ仲間入りを目指す上でも、その影響は大きい。

これまでの親中体制から、明らかに欧米との関係改善へと動いている。

中国とミャンマー、そして欧米も絡んだ、少数民族勢力との微妙な関係

こうした中、中国との国境エリアが激しく動いている。2015年2月9日から始まった、国軍と漢民族系少数民族コーカン族の武装勢力との戦闘が3月末現在も続く。戦闘の死者は200人を超えたとの報道もある。

上述のワ族同様、シャン州のコーカンも特別区として認められている。中国大陸から中国共産党軍に追い立てられた中国国民党軍やその家族たちが移り住んだこのエリアでは、いまだに内戦時代に逃れてきた蒋介石派(中国国民党軍)の残党が暮らしている。

その一部はそこから中国雲南省に攻撃を仕掛けた。しかし、その後、中国政府とミャンマー政府による共同包囲攻撃を受けて敗走、ビルマ政府の支配が希薄なシャン州の山間部に逃れた。

その彼らを率いたのが「麻薬王」クンサーだ。クンサーは、国民党兵士の父とシャン族の母との間に生まれ、当初は国民党軍に参加したものの、その後シャン族独立ゲリラと大々的にアヘンを栽培。そして、メコン川を境にタイ、ミャンマー、ラオスの3国が接する山岳地帯が「ゴールデン・トライアングル」となった。

クンサーはアメリカの支援を受けて、シャン族独立支援を名目に「モン・タイ軍」を結成、大規模な麻薬生産ビジネスとともに勢力を築く。しかし、その後アメリカが「麻薬撲滅」を掲げてクンサーを国際指名手配したため、タイからミャンマーへと拠点を移し、1996年まで活動し続けた。投降後は、麻薬で稼いだお金を元にヤンゴンで真っ当なビジネスを立ち上げて大財閥を築き、2007年に死亡している。

この世界最大の麻薬供給地帯も現在は経済成長や取締り強化により、生産が減少傾向にある。一方いまだにミャンマー北部で生活している国民党軍の末裔(まつえい)は「共産中国」の影に違和感を覚え、他の少数民族のように政府の指揮下に入る事を拒み続けている。

ミャンマー国軍は、中国と国境を接する地域一帯を解放区としたが、現在はワ族が支配する、ミャンマー政府公認の自治区域となっている。中国雲南省南部と国境を隔てているという地理的条件もあり、ワ族は輸出入などを通じて中国から経済的な援助を受けつつ、一方では相変わらず麻薬生産を続けている。しかし、今や各国からの麻薬撲滅への圧力などを受け、その地位は失われつつある。

「ミャンマーと大局を維持」と中国外相

現在、中国とミャンマーの国境で起きている戦闘状態において、ミャンマー政府と中国政府は直接戦火を交える気はないようだ。

中国雲南省の村がミャンマー軍機に爆撃されたという報道に対して、ミャンマー政府は「国軍の空爆ではない」と真っ向から反論している。武装組織の仕業ではないかとも言われ、中国・雲南省当局とミャンマー国軍が共同調査に乗り出したことも発表された。

「ミャンマーとの関係発展の大局を維持する」との王毅・中国外相のコメントに、中国としてもビジネスにおいて重要な位置にあるミャンマーとの関係を荒立てるつもりはないことが見て取れる。また3月20日、ミャンマーのテイン・セイン大統領は英・BBCの取材に応じ、シャン州で続く戦闘について「中国には(この問題を)解決する手立てはない。ミャンマーが自ら解決しなければならない」と中国に介入しないように暗に求めている。

今回の騒ぎは、少数民族コーカン族の武装勢力である「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)の存在が原因だ、とミャンマー国軍は非難する。武装勢力側が中国人元兵士を雇い入れているといった噂や、押収した銃器などから中国雲南省との結びつきの強いシャン州のワ族武装勢力の関与も指摘されている。

一方で、現在のコーカン族とミャンマー国軍の戦闘によって、紛争地域の一般住民3万人から6万人とも言われる人々が中国に避難しているとの情報もある。

なぜ3万人が国境を越えて中国に行くことができるのか? 実は、このコーカン自治区には昔から数万人単位の中国系住民が暮らしているのだ。2009年8月にコーカン地区で起きた戦闘でも、1万人以上の住民が中国側に越境しており、あらゆる面で中国と非常に近い。

ここでのもめごとにより苦しい立場に追い込まれることは、欧米との関係を改善して国際的な信用を勝ち得たいミャンマーはもちろんのこと、経済面で利益を得ている中国としても避けたいはずだ。

いずれにしても、中国人民解放軍とミャンマー国軍の直接衝突といったような事態に陥ることなく、平和的解決がなされることを望むばかりである。

※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。