【0時限目】もう「勉強」だけでは役に立たない
“正解”の代わりにあるのは、自分で導き出す“納得解”だけ
2015/3/28
暗記中心の「勉強」は、もはや役に立たない。では、かわりに何を学べばいいのか? 世の中のさまざまな問題を学習する「よのなか科」の生みの親である藤原和博氏が、中高生とその親のために書き下ろした新刊、『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)をNewsPicks上で毎日掲載します(第0章、1章を無料公開。第2章以降は有料となります)。
まったくあたらしい授業をはじめよう
遅くなってしまったけど、このへんで簡単な自己紹介をしておこう。
もともとぼくは、教育とはなんの関係もないバッリバリのビジネスマンでした。東京大学を卒業してから、20代のあいだはリクルートという会社で、文字通りに朝から晩まで働きまくりました。成長社会における、ジャパニーズ・ビジネスマンの鑑みたいにね。
でも、30歳を超えたところで過労からメニエール病という病気になり、自分の生き方や働き方を見つめなおすことになります。そして30代後半から約2年半、ヨーロッパに滞在して、長い歴史のなかで築かれてきた「成熟社会」を目の当たりにしました。この経験が大きかった。
たとえば、フランスの一般家庭では、リビングルームにテレビがありません。テレビが置かれているのはベッドルーム。なぜって、リビングルームは食事や会話を楽しむための空間だから。むしろ、テレビのある部屋にお客さんを招き入れるほうが失礼だ、という感覚なんだよね。どうすれば「心の豊かさ」が満たされるのか、熟知しているわけです。
ほかにも毎日の食事からお酒の飲み方、休日の過ごし方まで、挙げるとキリがないんだけど、このヨーロッパ生活は、ぼくの心に大きな変化をもたらしました。
そして40代後半からの5年間、東京都の杉並区立和田中学校で、義務教育分野で都内の公立中学校初の民間人校長になったのです。和田中学校の校長になって真っ先に着手したのが、学校で教わる「知識」と実際の「社会」をつなぐ、「よのなか科」という授業。これは成熟社会に必要な、レゴ型の情 報編集力を身につける授業であり、これからみんなに取り組んでもらうのも、「よのなか科」を再現した授業になります。
ちなみに現在、文部科学省は「アクティブ・ラーニング」(課題の発見・解決に向けた主体的かつ協同的な学び)というあたらしい学びのかたちを推進していますが、「よのなか科」は、その流れに先駆けた授業としても注目されています。これから公教育の現場でもますます導入が進んでいくでしょう。
レゴ型の情報編集力を身につける、「よのなか科」の授業。この授業には、いっさいの“正解”がありません。こっちの答えがマルで、この答えはバツだ、みたいな答え合わせがない。
“正解”の代わりにあるのは、みんなが自分で導き出した“納得解”だけです。
“納得解”とはなにか?
ひと言でいうなら「自分が納得でき、なおかつ周りの他人を納得させられる解」です。客観的に正しい解(正解)は、もう存在しない。だったら、せめて自分が心から「納得」できる解を導き出そう。そしてできれば、周りの人にも「納得」してもらおう、ということ。
ただ、“納得解”って言葉を「なんとなくそう思う答え」のことだとは思わないでほしい。最終的なジャッジを下すのは自分だけど、「これが正しい」と結論づけるためには、それなりのステップを踏まなきゃいけない。なんとなくのフィーリングで導き出した答えでは、周りの人に「納得」してもらうことはできないからね。
じゃあ、どんなステップを踏むのか。具体的に見ていこう。まず最初にくるのが「観察」。たとえば、エネルギー問題について考えることになったとしよう。このとき、火力発電、水力発電、風力発電、太陽光発電、それから原子力発電まで、いろんな発電技術のメリットやデメリットを知っておかないと、安易に「これが正しい」とはいえないよね?
よのなかをしっかり眺めて、自分が考えるのに必要な材料、ものごとを判断するために必要な材料を集めること。これが「観察」になります。
続いて「仮説」。自分が集めた材料をもとに、「こっちがより良いんじゃないか?」「こうすれば問題が解決するんじゃないか?」という仮説を立ててみる。まだ最終的な答えじゃなくていいんです。いくらでも修正可能な「こうじゃないかな?」という仮の答え、つまり「仮説」です。ここでは、周りの意見も参考にすることが大切になります。
次にやるのが「検証」という作業。自分の立てた仮説について、あえて批判的な眼で、穴がないかどうかをチェックする。自分の答えを、徹底的に疑ってみるわけ。感情よりも「論理」を大切にして、どんな反対意見にも耐えられるくらいに、鍛え上げる。
そして最後にくるのが「証明」です。ぼくはこんな答えを導き出した、わたしはこれが正しいと思う、という自分なりの“解”を、周りのみんなに認めさせる。なぜそう思うのか、その意見やアイデアの根拠はどこにあるのかをちゃんと伝えて、みんなに「納得」してもらう。
ここまでできて、ようやく“納得解”が完成します。フィーリングで出した答えとは、かなり違うはずですよね。いまはまだ、むずかしそうに思えるかもしれない。でも、考えてほしい。レゴブロックを組み立てるときだって、自然と似たようなステップを踏んでるはずなんだよ。
材料を観察して、「こうすればいいんじゃないか?」って仮説を立てる。実際に組み立てるなかで「ほんとにこれで大丈夫か?」と検証して、最終的に「どうだっ! ぼくなりの犬の完成形だぞ!」って証明する。
つまりこれって、レゴ型の力、「情報編集力」を鍛えるためのステップでもあるんだ。そして「よのなか科」では、もっと実社会とリンクしたかたちで「情報編集力」を身につけてもらうため、次の五つのキーワードを大切にしています。
・シミュレーション能力
・コミュニケーション能力
・ロジカルシンキング能力
・ロールプレイング能力
・プレゼンテーション能力
意味のわからないカタカナがあっても、いまはだいじょうぶ。習うより慣れろ、の精神で、さっそく授業に入りましょう。この授業が終わったとき、みなさんの生き方や考え方は、ガラッと変化しているはずです。自分にどんな変化が訪れるのか、周りの景色がどんなふうに変わるのか、楽しみにしておいてください。









