20150320_SAP????

特別対談・中竹竜二 × 馬場渉 第3回

発想を変えれば「ガラパゴス化」は武器になる

2015/3/27
今、テクノロジーの力によってスポーツの世界が劇的に変わろうとしている。日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹竜二と、SAP社のChief Innovation Officerの馬場渉は、この変化をどうとらえているのか? NewsPicksにおける2つの人気連載、『マネジメントシフト』と『スポーツ・イノベーション』の著者が7回にわたってパラダイムシフトを語り尽くす。
第1回:ビジネスもスポーツも、データが人間の思考を上回る時代になった
第2回: PDCA的思考は限界。これからは「いいね!」の新感覚

型がなければ、型破りも生まれない

馬場:今治FCのオーナーに就任した岡田武史さんが2月下旬に行った「リスタートカンファレンス」で、「型があるからこそクリエイティビティが生まれる」という話をしていました。日本の伝統で言う、守破離ですね。そもそも型がなければ、型破りなんて生まれないという話です。制約のなかから新しいクリエイティブが生まれることって、ありますよね?

中竹:人間の視点のみから判断すると、型があるのに実は気づいていないっていうことはあるかもしれないですね。意外と自由に見えるサッカーも、データをとってみると、「実はこういうパターンがある」と。本人たちは無意識でやっていても、意外とそれが型になっているケースってありますよね。

馬場:共通の物差しに「きょうせい」されるか、されないかは、やり方次第だと思います。「きょうせい」というのは「adjust(矯正)」と「force(強制)」の両方の意味で。何らかの物差しがたたき台としてポンと提示されれば、議論は起こりますからね。スポーツの世界でも、共通の物差しつくりが必要だと思います。

それはビジネスの世界でも同じことです。「うちの会社はユニークだ」というのは、標準なり、外の世界が分からないと、根拠を持って言えません。それが世界で見たときなのか、日本で見たときなのか、業界の中で見たときなのか、分からないですよね。

中竹竜二(写真右)、41歳。32歳のときにサラリーマンから早稲田大学ラグビー部の監督へ転身。2007年と2008年に早稲田大学を全国大学選手権連覇に導いた。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務めている。また、企業にマネジメント・トレーニングを提供する『TEAMBOX』を運営している。

中竹竜二(写真右)、41歳。32歳のときにサラリーマンから早稲田大学ラグビー部の監督へ転身。2007年と2008年に早稲田大学を全国大学選手権連覇に導いた。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務めている。また、企業にマネジメント・トレーニングを提供する『TEAMBOX』を運営している。

「うちは特別」は言い訳の始まり

中竹:私はいろんな会社とマネジメントの仕事をしていますが、「うちの文化は特別」という言葉が出た時点でチェックをつけています。「うちの会社/業界は特別」って言っている時点で、次に起こることに対する布石を打っておいて、「しょうがないですよね」というエクスキューズになっている。

馬場:そう思いますね。

中竹:だからスポーツのノウハウって、昔は「しょせん、スポーツだろ?」と。特に日本では、スポーツのやり方はビジネスでは通用しないという感じでした。

でも、僕はほとんど一緒だと思っています。スポーツにはビジネスの知識が意外と落ちてきているけど、スポーツのマネジメントのノウハウはビジネスのそれより発展しているのに、あまり伝わっていない。それがTEAMBOXを起業したきっかけなんです。もっとビジネスサイドにスポーツを落としていけば、イノベーションが起こるのではと思っています。

馬場:本当にそう思いますね。ビジネスのように標準的なメソッドがあるかといえば、スポーツはそれほどマネジメントされていない気がします。でも、局所的には異常に発達しているじゃないですか、何かが。例えば、モチベーションやチームビルディング。僕らからすると、ビッグデータの一部も異常に発達している。

中竹:個人のコンディションとか、すごいデータです。

馬場渉(写真左)、37歳。SAP社のChief Innovation Officer。ドイツ代表のブラジルW杯優勝によって同社の高いIT技術に注目が集まり、馬場氏に日本の各スポーツ界から問い合わせが殺到中。3月にはドイツを訪れ、バイエルンやホッフェンハイムの取り組みを視察した。

馬場渉(写真左)、37歳。SAP社のChief Innovation Officer。ドイツ代表のブラジルW杯優勝によって同社の高いIT技術に注目が集まり、馬場氏に日本の各スポーツ界から問い合わせが殺到中。3月にはドイツを訪れ、バイエルンやホッフェンハイムの取り組みを視察した。

特殊生物には強みがある

馬場:僕はね、「ガラパゴス」っていい言葉な気がするんです。悪い意味でしか使われないんでしょうけど、少なくとも局所的には発達していますからね。「日本の常識ってブルーオーシャンのグローバルマーケットでは通用しません」っていう文脈だから、ガラパゴスは悪いのであって。どこかでアプライできればいいわけですよね。

中竹:そうですね。

馬場:ガラパゴスって、「普通の世界にはない変な条件がそろったから、生まれた」というのが因果関係ですよね。スポーツには「こういうルールがあるから」とか、特有な理由があるので、ビジネスでは生まれようがない生き物がいっぱいあるな、と(笑)。生き物というか、その成果ですよね。スポーツは胸を張っていいと思います。

中竹:なるほど。

馬場:問題はスポーツ業界向けのテクノロジーって、けっこう閉鎖的なマーケットなんです。何かを批判しているわけではありませんが、グローバルプレーヤーやジェネリックなプレーヤーがいないんですよ。ビジネスでいうマイクロソフトやIBMみたいな人たち。

スポーツはスポーツ専門の会社があって、ビジネスはビジネス専門がありますよね。好奇心を持ってその壁を乗り越えてみると、「同じじゃん!」ってなるわけです。「テクノロジーをどんどん汎用化させて、ビジネスで使われているこれをスポーツでもやりましょう」とか、「スポーツでやっているこのガラパゴスをビジネスでも導入しよう」と、人やノウハウ、テクノロジーの交流が始まると、すごくいいと思います。

中竹:本当にそう思いますね。

忙しすぎると新しいことを追えない

馬場:スポーツのもうひとつの問題は、本当に忙しい。ビジネスだって忙しいかもしれないけれど、暇な人もいっぱいいますから。

中竹:(笑)。

馬場:スポーツのいろいろな代表チームに帯同し、時間を一緒にするようになってよく分かりました。このサイクルで年間働いていたら、新しいことをキャッチアップできるわけない、と。素人発想でいうと、バレーボールはサッカーから学べるし、スポーツ以外からも学べるんだから、「勉強したら?」と思います。でも、実際には無理。バレーボールなら、アメリカとブラジルのリサーチをするくらいが精一杯。それくらい忙しい。

中竹:僕自身はラグビーを教えていますけど、TEAMBOXの仕事ではビジネス企業の他にプロ野球のコーチにコーチングを教えています。ラグビーは週末に試合があるので1週間サイクルで物事を考えますけど、プロ野球は連戦。同じスポーツでも、サイクルが違う。こんなに早いサイクルなら、多分、シーズンが始まったら何もできないなと感じてしまいます。

馬場:そうですよね。

中竹:スポーツは選手寿命が短いので、その間にいろいろなイベントを起こさないといけない。そう考えると、一般のビジネスパーソンとは日々の生活がまったく違うものになっていくと思いますね。

馬場:そう思いますね、本当に。そうじゃないと、なかなか進化しづらくなりますよね。

カオス体験が生み出すイノベーション

中竹:TEAMBOXのサービスでは、クライアント組織内にわざとカオス体験をつくるようにしています。人の成長って、カオスを味わわないと絶対に起きないというのがコンセプトです。教室で聞いている安全地帯というより、予想のつかないカオスに入れると、人はイノベーションを起こすという発想でやってきました。

そういう意味で言うと、ビジネスの世界ではわざわざカオスに陥れない。実はそこに、マネジメントのヒントがあるのではと感じました。

馬場:意図して、その環境をつくるべきですよね。企業や組織はいかにうまくやるかというものなので、ロジカルに考えれば考えるほど失敗が減っていくじゃないですか。つまり、カオスを避けるようにたたき込まれているということですね。だから、そうとう意図してつくらないと難しいと思います。

中竹:ラグビーでは今、GPSでどれだけ走ったかを計測して、カオスをつくっています。ゲームのデータを測ってみると、練習のほうが、強度が低かったりするんですよね。データを見て、初めて「試合の強度がこういう値ということは、練習では今の1.5倍でやらなければいけないのか」と分かります。そういうところからラグビー文化として、カオスをつくるよさに気づいて、強度を上げるためにデータをとるということをやっています。

(対談進行:中島大輔、撮影:福田俊介)

※本連載は連載『マネジメントシフト』と連載『スポーツ・イノベーション』の特別編として、毎週水曜日と金曜日に掲載する予定です。