大前研一_ビジネスジャーナル_バナー_midori (1)

インタビュー前篇:大前研一『イノベーションを生む教育と出会いの「場」』

「疑問を持つこと」がイノベーションの種になる

2015/3/26
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第三弾である『 大前研一ビジネスジャーナル No.3「なぜ日本から世界的イノベーションが生まれなくなったのか」』(初版:2015年2月6日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。本号では「イノベーションを生みだすにはどうすればよいのか」をテーマに、日本の現状を掘り下げている。今回のインタビューでは、日本と世界の例を引きながら、教育や宗教のような「環境」が人材育成に及ぼす影響を大前氏に聞く。(2014.12.22 取材:good.book編集部)

受験勉強が「自分で考える力」を妨げる

イノベーションとは、今までになかった新しいものを生み出すということです。では、イノベーションを起こす人材はどのような環境で育つのか。イノベーションを生む人材を育てるために必要なものは何か。日本の問題点、諸外国の例を交えながら、いくつかのポイントを具体的にお話ししたいと思います。

大前研一(おおまえ・けんいち)ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

イノベーションを生み出す人材育成という観点では、日本の場合、教育制度にそもそもの問題があります。イノベーションの過程では、問いに対して自分なりに仮説を立てたり、考えることが非常に重要です。ところが日本の教育は、「自分で考える」というプロセスを飛ばして、すぐに答えを教えてしまう。

入学試験で正解することが重視されてしまっているわけです。たとえば3択の中から正解を選ぶという勉強の仕方を続けると、それ以外の選択肢を考えなくなる。今までにないものを生み出すために必要なのは、「いえ、私はこう思います」と4つ目の選択肢を提示する力なんです。

日本の中高生が使っている受験の問題集は、「答え集」なんですね。中には、先に後ろの答えを見て後から問題文を読むという子も出てくる。こういう教育を受けてしまうと、一番大切な「答えに至る道」というものをバイパスして、一足飛びに正解だけを求める癖がついてしまいます。

唯一の正解というものがない問いに対して、自分なりの考え方を出していく。「もしかしたらこれは違うんじゃないか」と疑問を持つ。その「もしかしたら」という発想が、イノベーションを生み出すために重要なのですね。違うとすれば「こういうことが理由じゃないのか」という自分なりの答えを見つけることが、世界的イノベーションにつながるわけです。

戦後日本の成長を支えた「ストリート・スマート」

たとえば、パナソニックの創業者松下幸之助さんは、二股ソケットの開発で知られています。まだ、日本の家庭に電源が1つずつしかなかった時代です。お母さんがアイロンをかけようとすると、電灯を消すしかない。家の中が暗くなるんです。

電灯をつけたままアイロンをかける方法はないかと考えた幸之助さんが、そうだ、ソケットの片側にプラグを差し込む仕組みを作ればいいんだということを思いついた。なぜそんな創意工夫ができたのかと言うと、幸之助さんは受験をしていない。尋常小学校を4年で中退して、丁稚奉公に出ているわけです。
 名称未設定1

戦後の日本で世界に冠たるブランドを生み出した人は、ソニー創業者の盛田昭夫さん以外、ほとんど大学を出ていません。三洋電機をつくった井植歳男さん、シャープの早川徳次さん、ホンダの本田宗一郎さん、皆基本的に受験勉強をしていない。

高学歴で勉強ができる「アカデミック・スマート」に対して、こういう人たちを「ストリート・スマート」と呼ぶことがあります。戦後の混乱した社会を、自らの才覚で生き抜いた「頭のよさ」。唯一の正解というものが存在しない21世紀の世界で、この両者の違いがことさら重要になってきています。

韓国・中国からイノベーションは生まれるか

受験の弊害という意味では、現在の韓国が少し前の日本とよく似ています。猛烈な受験戦争の弊害で、イノベーションが生まれない。韓国の悲願は、ノーベル賞を取ることなんです。韓国はおよそ5千万の人口を擁していますが、ノーベル賞は金大中の平和賞のみです。私に言わせれば、日本よりも徹底した受験勉強をしている韓国で、ノーベル賞を取ることは難しいでしょう。

では中国はどうかと言えば、今、まさに成長期の大混乱の中にいます。ちょうど、終戦後の日本の混乱期と同じです。戦後の日本が加工貿易立国を旗印に急成長したように、中国は今、さまざまな国の真似をしながらキャッチアップしています。中国の場合、北京や上海のような都市部では受験や官僚になるための勉強がきついので、なかなかイノベーティブな発想ができる人材は出てきていません。

一方、主要都市から離れた地方都市で、イノベーティブな人材が生まれている。たとえば、今話題になっているアリババ・グループ(中国の電子商取引最大手)の本社は、南部の浙江省です。このあたりには、商才に長けた「温州商人」と呼ばれる人たちがいます。北京に対するある種の反骨心を持った企業家が集まっているんです。

日本の例で言うと、浜松市をイメージすると分かりやすいかもしれません。浜松からは、世界に冠たる企業がたくさん生まれているんです。ホンダの本田宗一郎も、ヤマハの川上源一も浜松出身。「カミオカンデ」の部品を製造した浜松ホトニクスは言うまでもなく浜松の会社です。

私は浜松にたくさん知り合いがいるのですが、東京も大阪も嫌い、京都も嫌だという人が多いんです。じゃあどうするかと言うと、日本を離れて世界に行こうと。今も、静岡空港からヨーロッパ直行便を飛ばそうという運動があるくらいです。イノベーションを生む人材が育つ背景には、地理的な要因も関わっているということですね。

イノベーションと「宗教」の意外な関係

宗教という観点から言えば、ノーベル賞受賞者が圧倒的に多いのは、ユダヤ教徒なんです。彼らは、「人と意見が一致したときは危ない」と教えられて育つ。皆の言い分が一致しているときこそ「それは違うんじゃないですか」と言いなさいという教育(注)を受けているわけです。この発想が非常に重要なんですね。

カトリックはどうでしょう。実は、自然科学分野でノーベル賞を受賞した人は少ないんです。聖母マリアは「受胎告知」、神のお告げによってイエス・キリストを身ごもったことを知ったと教会で教えられる。近代科学の視点から見れば矛盾しているわけですが、そこは疑問を持ってはいけない、宗教的に一種のタブーなんです。このような教義の下で、イノベーションは生まれにくい。

これに対してプロテスタントは、「それは違うんじゃないか」とカトリックの教義を疑うところから出発している。だから、カトリックに比べてノーベル賞受賞者が多いと言えるんじゃないか、と思います。
 名称未設定3

日本人は無宗教の人が多い。イノベーションが生まれる環境という意味では非常にいいんです。実際、ノーベル賞受賞者の数で言えば、アジアでも群を抜いているわけですから。ところが、長い間経済成長が続くうちに、有名大学を卒業して、一流企業に就職すればいい生活ができるという価値観が根付いてしまった。

これはもう一種の信心、宗教です。実際には、その仕組みは壊れて久しいのですが、多くの日本人がいまだに気づいていません。この「宗教」があるために、本来持っていた自由な発想、創意工夫が休眠化してしまっている。イノベーションを生む人材を育てる上で、大きな弊害になっているわけです。(インタビュー後編に続く)

(注)“devil’s advocate”(悪魔の使徒)と呼ばれ、議論の中であえて多数派意見とは逆の意見を提示することで、矛盾や不整合がないかを検証し、議論を深める方法。

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。

『大前研一ビジネスジャーナルNo.3「なぜ日本から世界的イノベーションが生まれなくなったのか」』の購入・ダウンロードはこちら
■印刷書籍(Amazon
■電子書籍(AmazonKindleストア
■耳で聴く本・オーディオブック(Febe
■大前研一ビジネスジャーナル公式WEBでは、書籍版お試し読みを公開中(good.book WEB
 N00144-cover