20150320_SAP????

特別対談・中竹竜二 × 馬場渉 第2回

PDCA的思考は限界。これからは「いいね!」の新感覚

2015/3/25
今、テクノロジーの力によってスポーツの世界が劇的に変わろうとしている。日本ラグビー協会コーチングディレクターの中竹竜二と、SAP社のChief Innovation Officerの馬場渉は、この変化をどう捉えているのか? NewsPicksにおける2つの人気連載、『マネジメントシフト』と『スポーツ・イノベーション』の著者が7回にわたってパラダイムシフトを語り尽くす。
第1回:ビジネスもスポーツも、データが人間の思考を上回る時代になった

ここ5年、ITに感情が入ってきた

馬場:スポーツ業界における人材の質的変化や量的変化と比べて、IT業界では逆のことが起きています。逆だけど、まったく同じトレンドがあるんですね。

30年くらい前のIT業界では、テクノロジーに長けた人が主流でした。その後、1990年代くらいに増え始めたのが、「テクノロジーはどうでもいいからビジネスだ」という人たち。要は、「テクノロジーによって速くなるとか、一元化されるという価値は、売上にどれくらいつながるのか?」「このテクノロジーでキャッシュフローがよくなるのか?」という人たちが、IT業界に入ってきたんです。

中竹:トレンドとして、スポーツにビジネスの人が入ってきたように。

馬場:そうです。SAPはテクノロジーという波ではなく、ビジネスの波に乗っかっている会社です。だから、テクノロジー業界でのパートナーシップは組まずにいく。テクノロジーのコモディディ化というか、テクノロジーの専門性がどんどん下がっているのであれば、テクノロジーを知っている人にグローバルビジネスを教えるより、「グローバルビジネスを10年以上やっています」という人に最新テクノロジーを教えたほうが早い、ということです。

中竹:なるほど。

馬場:でも10年前くらいから、特にここ5年くらいはトレンドが明らかに違って。スポーツの…人間的な人っていうんですかね。ビジネスでもなく、テクノロジーに詳しいわけでもなく、人間的な…何ていうのか、人間な人(笑)。要はモチベーションとか、感動するとか、そういうエモーショナルな部分が入ってきていて。

馬場渉、37歳。SAP社のChief Innovation Officer。ドイツ代表のブラジルW杯優勝によって同社の高いIT技術に注目が集まり、馬場氏に日本の各スポーツ界から問い合わせが殺到中。3月にはドイツを訪れ、バイエルンやホッフェンハイムの取り組みを視察した。

馬場渉、37歳。SAP社のChief Innovation Officer。ドイツ代表のブラジルW杯優勝によって同社の高いIT技術に注目が集まり、馬場氏に日本の各スポーツ界から問い合わせが殺到中。3月にはドイツを訪れ、バイエルンやホッフェンハイムの取り組みを視察した。

PDCAをITで管理する限界

中竹:人間らしさってことですね。

馬場:人間らしさ。これまでのIT業界やコンサルティングファームとは違う流れです。「ビジネス上、このPDCAが回れば効率がこれくらい上がります。それを担保するために、PDCAの仕組みとしてこういうITを入れて管理します」というようなことをずっとやってきたんですけど、それも限界があるな、と。

中竹:へえ〜、面白いですね。

馬場:今始まっているのは、売上を伸ばすための営業マネジメントということではなく、「楽しく、夢を持って仕事したら、成果高いよね」とか、「お客さんや社員とのエンゲージメント、モチベーションや帰属意識、自尊心をどうやってコントロールするか」というところに、テクノロジーが入り出しているんです。テクノロジーと対立軸のように、「やっぱり人間の感情の方が大事だ」というのとはまた違った話なんですけど。

中竹竜二、41歳。32歳のときにサラリーマンから早稲田大学ラグビー部の監督へ転身。2007年と2008年に早稲田大学を全国大学選手権連覇に導いた。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務めている。

中竹竜二、41歳。32歳のときにサラリーマンから早稲田大学ラグビー部の監督へ転身。2007年と2008年に早稲田大学を全国大学選手権連覇に導いた。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務めている。

「いいね」と言われる社員をどう評価するか

中竹:そういった部分にテクノロジーが使えるんですね。すごく面白い。

馬場:例えばフェイスブックで「いいね!」って100個くらいつくと、うれしいかも、みたいなことです。それはテクノロジーがなければ、暗黙のフィードバックがないわけじゃないですか。例えば、人事システムにおける上司と部下のフィードバック。いろんな人から「いいね!」と言われているのに、上司からのフィードバックを見ると評価はそうでもない、という人がいるじゃないですか。

中竹:いますね。

馬場:「そういう人は無能ですか?」というと、そんなことはないですよね。人付き合いがいいとか、社員からの信頼が厚いとか、何かあるはず。確かに数字上のファイナンシャルのパフォーマンスは決してよくなく、上司のフィードバックもあまりよくない。「では、周囲から『いいね!』と言われるのは、何なんだ?」っていうのはあるじゃないですか。

だから、その人間が発する評価、上司がつけた評価、数字が示す評価をそれぞれフェアに見る必要がある。人間の価値観、テクノロジー、ビジネスの左脳の世界は、トライアングルで見る必要があるなっていう気がしますね。

中竹:スポーツと同じトレンドというのは、そういうところですね。

馬場:そうです。スポーツは、人間の価値観を見るところはかなり長けていると思います。「今年はあいつ、『何か変える』と言っているので、期待できる」ということがあるじゃないですか。

で、「もう少し数字で見ていきましょう」という管理方法は、嫌がられながらも、体育会のなかで少しずつ普及し始めた。その後、サイエンスでもなくエモーショナルでもなく、テクノロジーが出始めてきている。イメージとしてITは左側から進化して、スポーツは右側から進化して、ようやく両者が出会ったというか、すれ違ったというか。ちょっとずつオーバーラップしている感じは受けますね。

ビジネスもテクノロジーも人間も大事

中竹:実はコーチングの世界でも、ヒューマンスキルが見直されてきています。例えばアメリカのPCA(Positive Coaching Alliance)という団体が、「ダブル・ゴール・コーチング」を発明しました。

以前は「勝利至上主義ではダメだ。人間的にも成長しなさい」という人たちと、「甘やかすな。結果がすべてだ」という人たちが対立していたんです。それがPCAによって、「ダブル・ゴールを掲げたほうが、パフォーマンスが上がる」というセオリーができた。「Better Athlete, Better People」という考え方が流行したんです。

ラグビーの世界でいうと、ニュージーランドのオールブラックスでもそういうことがありました。20年くらい世界ランキングがずっと1位だったけど、ワールドカップでは勝負どころで勝てなかったんですね。そうしたとき、あるヘッドコーチが「Better People, Better All Blacks」と言い始めました。ゲームのパフォーマンスだけでなく、「笑顔であいさつする」「サインにはちゃんと受け答えする」「相手と握手する」「負けたときこそ笑顔で」というようなことをやって、勝利を収めたんです。

人は根源的に、そういうアプローチが大事だと気付いているんでしょうね。そこにテクノロジーがいいシナジーになり始めたのかな、という気がします。

馬場:そんな気がしますね。テクノロジーがダメな理由を挙げようと思えば、いくらでも出てきます。逆に「人間のほうがいい」という論理を成立させようと思えば、いくらでもファクトは埋められる。

結局、ビジネスもテクノロジーも人間も大事。三つどもえをうまくいかせるために、「人間の感情にさえもテクノロジーが寄与する」とか、「ビジネスのファクトベースと人間の直感的なものが共存・共立し得るのか」と、探していく努力はしなければいけないんだろうなと思いますね。

(対談進行:中島大輔、撮影:福田俊介)

※本連載は連載『マネジメントシフト』と連載『スポーツ・イノベーション』の特別編として、毎週水曜日と金曜日に掲載する予定です。