正しく体を揺らすと健康になる

正しく体を揺らすと健康になる・連載第6回

電車の中で、力んで踏ん張っていませんか?

2015/3/23
肩こりや腰痛は、動きの癖に由来する「体の歪み」に原因がある。ただし、心がけ次第でそれを解消することができる。例えば気軽に行なえるのが通勤電車の中で吊革を使って肩甲骨(および全身)を揺らすことだ。ポイントは「ぶら下がる」のではなく「ぶら上がる」こと。操体法を極めたトレーナーの西本直が独自の健康法を紹介する。

体は人それぞれ違う

前回のコメント欄にも書いたのですが、大変重要なことなのであらためて記しておこうと思います。

健康で快適な生活を送るには、まず自分の体の「仕組み」を知ることから始まります。

私が「万人に合う健康法はない」と言うのは、それぞれの体が違っているからです。その上でこれから提案する、日常生活のさまざまな場面での「体の操り方」を工夫していただくことで、体との対話が始まります。

文字の中からイメージされる動きを、自分なりにやってみてください。正しいも間違いもないのです。正解かどうかは、その時々の体から導かれます。

意識を変えることです。私の提案することは枝葉かもしれませんが、幹や根の部分に思いをはせることこそが、一番大切なことなのです。

頑張って踏ん張っていませんか

さて今回も、これまでの常識や既成概念を取り払っていただきたいことがあります。

それは立っているときに、「両足で踏ん張ってはいけない」ということです。

それは以下のシーンを想像していただくと分かると思います。

例えば信号待ちで立っているとき、無意識に踏ん張って立っていたとしましょう。そのとき誰かに突然ぶつかられたらどうなるか? 力と力のぶつかり合いになって、きっとよろけてしまうのではないしょうか。

今度は揺れる電車の中を想像してください。揺れに逆らって踏ん張って立っているとき、急停車をしたら? 吊革や手すりを強く握って対応しなければならないはずです。

簡単に言えば、踏ん張ってしまうと、外からの力にもろくなってしまうのです。さらに力んでいることで、無駄に体力も消耗してしまいます。

足の裏と頭の先に意識をおいて立つ

ここで発想を変えて、「足の裏」と「頭の先」の2点に意識をおいて、立ってみてください。

その状態で体全体をリラックスさせておくと、外から力が加わっても、体全体が波のように揺れを吸収してくれるはずです。つまり、踏ん張ったとき以上に、楽に対応することができます。

揺れる満員電車の中で、吊革につかまって肩甲骨を揺らせなんてとんでもない、立っているのがやっとですよ──こんな声が聞こえてきそうです。

電車に乗っていると、いわゆる慣性の法則が働いて、体は電車の揺れと一緒に揺れることになります。

そこに1つ吊革という支点があれば、もう1つの支点である足の裏を使って、体全体を波のように揺らすことができます。

このとき、「足の裏」で電車の床を強くふんで踏ん張ってしまうと、体全体に力が入り硬くなってしまうので、電車の揺れに体を任せることができなくなってしまいます。

お手本はスノーボーダー

例えばスケート靴を履いて氷の上に立つとき、転んでしまうことを恐れて体を固くしてしまうと、うまく滑ることはできません。

スケートボードやスノーボードを上手に乗りこなす人を見ていると、体を固くすることなく、くねくねさせてバランスを取っているように見えます。

彼らは吊革などつかまらなくても、ボードに乗っているような姿勢で立っていることができるのかもしれません。

それに対して踏ん張ってしまうと、体の関節を曲げるときに使われる屈筋に力が入ってしまうため、肩甲骨を揺らすことができる状態ではなくなるのです。

一度空いている電車で試してみてください。吊革を軽く持って、足首や膝をリラックスさせ、揺れに任せてすべての関節をわざとでいいですから前後左右に、また腰を回すように動かしてみてください。

最初は左右に揺らす方が簡単だと思いますが、慣れてくると前後の揺れも吸収できるようになって気づけば腰も回っているかもしれません。

こうして揺れている状態を楽しむことで、体のこわばりをほぐし、骨格を正常な形に戻すことができるとしたら、やってみる価値はありそうですよね。体が喜ばないはずはありません。

これが分かれば座らない方がお得です

吊革につかまって肩甲骨から体全体をゆらゆらさせる意識で立っていると、立っていることが苦にならず、それどころか降りる駅に着いても、もう少し揺れていたいという気持ちにまでなってくるかもしれません。

ここまでくると、自分の体のゆがみを揺れによって調整するという、まさに「自己調整の達人」の仲間入りです。

座席に座ったままでも応用できる動きはあるのですが、隣の人との距離が近すぎるためお勧めはできません。両隣が空いている状況ならば、同じように体を揺らしてみてください。ただし揺らしすぎて、横に倒れないようご注意ください。

ぶら下がるのではなく、ぶら上がると楽ちんです

もう一度念のために説明しておきますが、吊革につかまるときの感覚は、「ぶら下がる」のではなく、「ぶら上がる」という感覚です。

「ぶら下がる」とは、読んで字のごとし、体の重さをつかまっている吊革に預けてしまうことです。

終電近くになると、ほろ酔い加減の方々が、座席に座れずやむなく吊革につかまって、何とか体が倒れないようにもたれかかっている状況を目にすることがあります。まさにぶら下がっている状態です。

逆に「ぶら上がる」は、体の中に上下の2つの支点を作るために、ほんのわずかに吊革に触れているという感覚です。強く握ってはいけません。

足の裏も同じです。踏ん張るのではなく、軽く床に触れて下の支点を作っているだけ。これが肩甲骨を中心にして体全体を揺らすコツです。

倒れちゃいけないからと両脚でしっかり踏ん張り、両手で吊革を握りしめ、歯を食いしばっている人もいます。しかし、それは無駄に力を使って疲れるだけでなく、バランスを取ることも難しくしてしまいます。

言葉では伝わらない部分もあるでしょうから、周りの安全が確保できたら、さっそく電車の中で試してみてください。

上手くいけば、今日一日の仕事の疲れの何割かは、帰りの電車の中で解消できるかもしれませんよ。

「ぶら上がる」という感覚、ぜひ自分の体で実感してください。

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載する予定です。