AI シフトのパイオニアを目指す Google と、薄くなるアプリケーション

2023年9月5日
全体に公開
久しぶりのサンフランシスコ

先週、サンフランシスコで開催された Google Cloud Next '23 に参加してきました。

私自身は、その中でも「Leaders Circle」と呼ばれる招待制のセッションを中心に参加したのですが、それはさておき。今回は主にキーノートなど一般向けのセッションを中心に、いち参加者としての私がどのように感じたのかをレポートしたいと思います。

※ この界隈の情報を追っている方には既知の情報も多数含まれますがご容赦ください

Leaders Circle には CEO の Sundar Pichai も参加(右端)

AI シフトのパイオニアを目指す Google

まず今回のイベント、AI 一色 だったと言っても過言ではありません。キーノートは最初から最後まで AI の話題でしたし、AI 系のセッションに人気が集中していたように思います。CEO のピチャイ氏も「今は Golden age of innovation だ」と何度も話していましたが、クラウドへのシフトを Amazon がリードしたように、「今度は Google が AI 革命のパイオニアになるのだ」という強い決意を感じました。

実際、Google の AI 包囲網はすごいものがあります。今回のイベントでは「build AI」および「use AI」の 2 つの文脈で彼らの AI に関する取り組みがまとめられていましたが、とにかく全方位的。

「build AI」—— これは彼らのソリューションとしては Vertex AI ファミリーが担当します —— の文脈では、サードパーティーのアプリケーションと接続したり、自社データを安全に繋げて AI アプリケーションを構築できることをアピール。およそ皆さんの「AI でこんなことが出来たらいいな」を実現するための基盤を、着々と構築しています。

このソリューションを使うと、例えば自社データを使って Google 品質の検索機能や対話式のチャットエージェントを簡単に構築することも可能です。つまりデータさえ用意しておけば、あとはデータを繋ぐだけで簡単な AI アプリケーションが作れるのです。

「use AI」—— これは彼らのソリューションとしては Duet AI と呼ばれます —— の文脈では、着実に Google のサービスと AI の統合が進んでいます。個人的には、この分野で Google が圧倒的に強いのが「データ基盤と AI の統合」および「Google Workspace と AI の統合」です。

一例として、BigQuery と呼ばれる DWH(データウェアハウス)と AI がどのように統合されているのかを書いてみます。この DWH では、技術者が SQL と呼ばれる専門の言語を使わなくても、非技術者が 自然言語で データを検索できるようになっていきます。例えば「A 社と B 社の売上推移を四半期毎に出力して」といった具合です。それだけでなく、この DWH には LLM が組み込まれているので、例えば「この記事に集まったコメントを、10 種類の感情に分類して件数をカウントして」と頼めば、なんと AI が分析してくれます。さらに「この結果をチャートにして」あるいは「スライドにまとめて」と言えば、そのまま Google スライドにまとめてくれるのです。このようにデータと AI が緊密に統合され、かつそれらが Workspace の各種アプリと連携することで、業務の大幅な効率化が期待できます。もちろん、Google Docs や Meet・さらにノーコードツールである AppSheet にも AI が統合されていきます。

さらに「build AI」と「use AI」が相互に連携して、エコシステムが強化されていきます。「build AI」で自社データを接続し、「use AI」から使う —— こんなユースケースを包括的にカバーするのが、Google が目指すところのようでした。

Gemini —— Google の希望の星

もちろん、これらの野望を実現していく上では強力な基盤モデルが欠かせません。現在 Google の持つ各種の AI サービスは PaLM2 と呼ばれる LLM に依存していますが、残念ながらその性能は GPT-4 にやや劣るとされています(単純な比較はできませんが)。

そこで現在、Google の子会社 DeepMind の研究者が中心となって開発を進めているのが、Gemini と呼ばれる次世代の LLM です。この新しいマルチモーダルのモデルは 2023 年中にリリースされる予定で、GPT-4 の 5 倍以上の計算能力を投じている とされています。

しかし、それだけの計算資源を投じたからと言って、本当に GPT-4 を超える性能を持つことになるのかは分かりません。これに関してはリリースを待つしかないでしょう。

とはいえ、Google は世界で最も「GPU リッチ」と呼ばれる企業であり、AI プラットフォームのパイオニアを目指す企業です。すべてのサービスの根幹である基盤モデルの開発に関しては、引き続き大規模な投資を続けていくものと思います。

アプリケーションが薄くなる未来

さて、そんな Google のイベントに参加していて強く感じたことの一つが「従来のアプリケーションは薄くなっていく」というトレンドの可能性でした。つまり、特に 参照系の業務であれば、データを AI と接続してしまえばそれで済むのではないか、と感じたのです。

データの入力や更新については、まだそれほど AI の影響は強くありません。せいぜいデータ入力を補助する程度でしょう。しかしデータの参照については、AI に頼めばデータを整形したり、チャートに落としたり、分析したりすることができるようになってくる中で、作り込みが中途半端なアプリケーションは AI に劣る時代が近づいてきています。何故なら AI の方が、はるかに柔軟にデータを見せてくれるからです。

そうすると、例えば B2B SaaS ビジネスのあり方も変わってくるかもしれません。これまでは、ある業種や業務に特化した垂直統合型のバーティカルなアプリケーションや SaaS が大量に作られてきました。しかし AI 時代になると、もしかするとバーティカルなアプリケーションは旗色が悪くなっていくかもしれません。つまり(業務特化型でない)Salesforce や Notion・あるいは Google Workspace のように、広範囲の業務をカバーするワンストッププラットフォームにあらゆるデータを溜め込み、そのデータを AI に接続する —— こんな形の方が、むしろ柔軟にデータを活用していけるかもしれません。

もちろん、まだまだこの時代が来るには時間がかかります。実際には AI に接続できないデータもあるでしょう。今回のイベントで会った世界のエグゼクティブの多くも「AI は業務効率化には使えるが、自社プロダクトに組み込むのが難しい」と言われている方がほとんどでした。それは大雑把にまとめると ① IP(知的財産権の問題)② 特化型ソフトウェアと比較したときの性能の低さ に起因していましたが、② については AI の性能が上がるにつれて解消していく問題だと考えられます。

いずれにせよ、AI がこれだけ進化していく中で、果たして自社ビジネスは将来的に十分な Moat を築けているのか、は問い直すべきではないかと感じました。

余談

最後に少し・・・実はサンフランシスコ滞在中、せっかくなので OpenAI のオフィスを見学したり、Figma のオフィスを見学させてもらったりしていました。

Figma CEO の Dylan Field と

すると、なんと!Figma オフィスを見学中に、CEO の Dylan Field にお会いすることができました!強火の Figma ファンである僕としては、大興奮!本当に今回のイベントでサンフランシスコに行って良かったです。

実は 10 年以上ぶりの訪問だったのですが、やっぱり世界を変えた会社が集まっているサンフランシスコ、これからも折に触れて行きたいですね!




このトピックスについて
NewsPicks の CTO が、ソフトウェアと魔法にまつわるちょっとしたコラムを、趣味全開で気ままに綴っていきます。