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Chapter 4:消費者を見出す

消費者の新潮流をつかむために企業は何をすべきか

2015/3/23
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第二弾である『 大前研一ビジネスジャーナル No.2「ユーザーは何を求めるか」』(初版:2014年11月28日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。今回はOLさんは電車の中でこう思う…。ペルソナから顧客像を考えるに引き続き「多様化する消費者」について分析する
大前研一特別インタビュー(上):日本でイノベーションが生まれない理由は何か?(2/19)
大前研一特別インタビュー(下):イオニストは“低欲望社会”の被害者(2/23)
本編第1回:中流以下が8割超。「消費者」は過去10年で激変した(2/26)
本編第2回:正社員と非正社員、格差の拡大が止まらない理由(3/2)
本編第3回:パラサイト、パウチ、生涯独身…。多様化するライフコースの理想と現実(3/5)
本編第4回:終活から逆算した残りの人生をイオンに託す(3/9)
本編第5回:今の若者のタイプは、大きく5つに分けられる(3/12)
本編第6回:スターバックス、伊勢丹メンズ館が示す、今の消費者(3/16)
本編第7回:OLさんは電車の中でこう思う…。ペルソナから顧客像を考える(3/19)

「熱狂的なファン」をつくる

今のような成熟市場では、高くても惜しげもなくモノやサービスにお金を払ってくれる「熱狂的ファン」づくりが欠かせません。図-37の左側に示したように、従来の広告と口コミはまず多くの注目とリーチを狙い、結果として一部の人が購入してくれればいい、というものでした。一方、新しい口コミでは、一部のファンが共感して熱心に応援してくれ、ツイッターのフォロワーなどを通じて評判が拡散する、という流れになっています。
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こうした新しい口コミ手法で成功している事例が右側に示した日本コカ・コーラ、ソニー、JR九州です。これらに共通しているのは、非常に狭いセグメントやニッチな市場を狙って商品やサービスを開発し、高付加価値商品を提供し、売り上げを伸ばすというやり方です。

日本コカ・コーラは、各商品に関するツイートの発信元からファンを発掘し、その人だけに向けた発信をして売り上げを伸ばしました。ソニーは、泳ぎながら音楽が聴けるウォークマンを開発し、それがランナーやボート愛好家にも利用されて話題が拡散しました。JR九州は、ななつ星だけではなく、非常にユニークな観光列車をたくさん作っています。阿蘇山の近くを走る列車は、イスが全部外側を向いていているという特別仕様で非常に人気があります。

このように万人向けでなく、あえて機能やターゲットを絞って、顧客が「これは私のためにある」と思う商品やサービスをつくる。そして熱狂的なファンを生み出すことが重要なのです。

「ネスプレッソブティック」の事例

こうしたファンづくりの事例として、「ネスプレッソブティック」があります。インスタントコーヒーで有名なネスレですが、ネスプレッソブティックではコーヒーのスペシャリストがいろいろなアドバイスをしてくれます。

パートやアルバイトではなく、専門の訓練を受けた正社員やスタッフを配置し、最高の環境で「究極のコーヒー体験」ができるのです。ネスプレッソコーヒーメーカー購入者が加入できる会員制度「ネスプレッソクラブ」ではイベントの案内や、24時間対応の電話サービスも行っています。

こうしたお店を世界中で展開し、「高品質な商品を高額でも購入してくれるファン」を増やしているのです。
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ソーシャルメディアの活用

消費者を見出す上で「関心分野別のコミュニティ」を活用することも重要です。これはFacebookが一番得意とする部分です。
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例えば、図-39は「TRAVEL(旅行)」を中心としたインタレストグラフです。ただ「旅行」というと広すぎ、もっと狭く「海」「山」「観光」といったようになるべく分野を狭くしていかないと消費者像が見えてきません。グーグルが良い例です。

「母の日のプレゼント」と検索すると、ありとあらゆる情報が出てきます。そこで、お母さんは紫色が好きだから、と「紫の母の日のプレゼント」と検索すれば、紫色のもの、例えば紫色の花の情報が出てきす。要はジェネリックな訴求ではダメなのです。より絞り込まれた関心分野別のコミュニティに訴求し、それによって購買数を上げるのです。

ソーシャルメディアを活用する時も、このようにナローキャスティングをすることが重要です。「これはあなたのためのものですよ」という訴求の仕方です。
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図-40は「“誘発”を招くソーシャルメディアの活用法」を表にしたものです。「ユーザーに行動を促す」方法としては、「専門家、カリスマ、インフルエンサーのレビューによる誘発」もあります。これは東京ガールズコレクションのように専門家が「これはいいよ」と言うと、地方の女の子もそれを聞いて買う、という流れです。

また「位置情報、需要状況を組み合わせたリアルタイム・プライシング」を行い、生きた情報を提供してユーザーの購買行動を誘発するという手法も非常に今、流行ってきています。

「ユーザーの認識を変える」という方法もあります。これで有名なのはオーストラリアの畜産協会です。「オーストラリアの牛肉は臭いがして嫌だ」というのが20年前の一般的な消費者の意見でしたが、草の根的に商品の良さをユーザー間で紹介することによって、今では「あの赤身は非常においしいし、健康にもいい」と言われるようになりました。今スーパーなどで圧倒的に人気があるのはオーストラリアの赤肉です。

またそうした影響で国産品も、松坂牛よりも岩手の短角牛の赤肉とか、阿蘇の赤肉の人気が出てきた。消費者の考え方や認識は、このようにソーシャルメディアでのユーザーレビュー等によって大きく変わります。特に、社会的に影響力のあるオピニオンリーダーなどが、その商品・サービスの楽しさや良さを紹介すると、その商品やサービスに対する人々のイメージを大きく変えることがあります。

ユーザーは確かに存在する

ここまで述べてきたように、現在の消費者を一言で総括するとすれば、「多様化により、消費者が非常に見えにくくなった」ということに尽きます。
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具体的には「ここ10年で消費者像が大きく変化した」「マクロ統計や平均値では消費者を理解することはできない」「従来の人口統計、社会統計では消費者を理解することはできない」「従来の常識では消費者像は理解できない」といった点が挙げられます。

一方の分析結果として、消費者は消費をしなくなったのではなく、「モノによっては消費する」ということが言えます。つまり、「消費者がモノを買わなくなったのではなく、消費者のほしいモノがなくなった」「消費行動の変化が激しく、企業が消費者ニーズをつかみきれていない」ということです。軽自動車、アウトドア用品など、消費が伸びている分野もあるのです。

こうした現状に対し、企業はどうすればよいのか? 方法は3つです。すなわち、「地道に、細かく、消費者の動きを見ていく」「自ら消費者の声に触れ、掘り下げて、深層心理をつかむ力を磨く」「手法に走らず、消費者の共感を得られる方策を徹底的に考える」。この3つを実践する以外に、消費者の新潮流を的確につかむ方法はないと思います。

【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.4開催)を基にgood.book編集部にて編集】

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。次回から大前研一ビジネスジャーナルNo.3 「なぜ日本から世界的イノベーションが生まれなくなったのか」を掲載します。

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