2023/9/6

【傾聴?助言?】令和のマネジャーが持つべき対話の型

NewsPicks Brand Design / Editor
 マネジメントの難易度が上がっている。
 企業に多様性が求められ、メンバーの価値観は様々。旧来型の上意下達の指導ではメンバーがついてこないことも明白だ。
 この環境下で、メンバーのモチベーションを高め、能力を最大化するため、あらためて重要視されているのがコミュニケーションだ。
 では、これからの時代、マネジャーに求められるコミュニケーションの最適解とは何か。
 NewsPicks Brand Designはコミュニケーションのプロフェッショナルたちを招き「新時代マネジャーになるためのコミュニケーション原論」をテーマにイベントを実施。
 メンバーの価値観を知る方法や、自発性を促すフィードバックの手法について交わされた白熱の議論を、ダイジェストでお届けする。

メンバーは“他人”だ

西脇 組織に多様な価値観の人がいると、様々な考えや意見が生まれます。
“会社は家族”と言われていた時代の、同質性が高い組織よりも、コミュニケーションを取ることが難しくなっていると思います。
 お二人はどんなコミュニケーションを重ね、メンバーの価値観を見抜いていますか。
藤本 そうですね“見抜く”という表現が気になりました(笑)。
 私がマネジャーになりたての頃「この方法なら成長させられる」とメンバーに自分の価値観を押しつけ、失敗したことがあります。
 日々仕事で関わっていたため、メンバーのことを、わかっていると思い込んでいたんです。
 しかし実際は、どんな考えを持っているのか、日々どんな状況に置かれているのか深く聴くことを怠っていました。
 そもそもメンバーは自分とは違う。この前提に立ち、対話を通じて相手を“知る”ことを今は大切にしています。
鈴木 弊社はベンチャー企業のため、組織の規模は大きくありません。それでも価値観のズレを感じるときがあります。
 特に多いのはビジネスサイドと研究サイドのズレです。
 ビジネスサイドは売れるものを作ってほしい。研究サイドはもっとこだわって作りこみたいと考えている。ここを擦り合わせないと、自社が目指すべきゴールへたどり着きづらくなってしまう。
 それを回避するため、コミュニケーションの機会を頻繁に設けています。また相手の話を聞くだけではなく、自分はこうしたいとしっかり要求することも大切です。
藤本 すごくわかります。メンバーに仕事を頼んだところ、アウトプットが求めていたゴールからズレてしまった経験は一度では済みません。
 現在、外資系企業に勤めていますが、本当に多様なメンバーと働いています。住んでいる国も違えば、文化も異なるため、考え方の基盤が違う。
 例えば、Webサイトの制作業務で“尖ったデザイン”と言っても、何をもってして尖っているとするのか、考え方は、千差万別です。
 ただ、自分と異なる考えや意見に出会ったときは、あの人はこんな考え方なのか、面白いなと、相手に興味を持つことを心掛けています。
 興味のあることは知りたくなる。知りたいことがあれば話しかけやすくなる。考え方のズレや違和感は、コミュニケーションの入り口だと思います。

日々の変化に“気づかずして”成長なし

西脇 メンバーの価値観を知った上で、モチベーションを高め、成長を後押しするのがマネジャーの役割ですが、どう実践されていますか。
鈴木 まずはメンバーの日々のモチベーションを知るべきです。これはサッカー選手時代に学んだ手法ですが、「ルーティンのコミュニケーション」を弊社では取り入れています。
西脇 ルーティンのコミュニケーション?どのようなものですか。
鈴木 ある監督が、練習前に必ず選手全員にハグをして「調子はどうだ」「家族は元気か」と同じことを聞いていました。毎朝、必ずです。
 ある日、私をハグした後に「ケイタ、何かあったか?」と監督が心配そうな顔で言ってきた。実はそのとき、私の子どもの体調が悪く、気持ちが沈んでいました。
 同じコミュニケーションを欠かさず行っていたため、監督は私の日々の変化に気づいた。つまり、変化のバロメーターを測る物差しを持っていたんです。
 この出来事を参考にして弊社では、握手をし、声をかけるようにしています。
藤本 面白いエピソードですね。たしかに、プライベートや仕事に関わらず、悪い出来事が少しでもあると感情が揺れ、モチベーションに影響がでます。
 そもそもモチベーションは、“日々”変わるものだと考え、変化に早く“気づく”ことが重要ですよね。メンバーとどうコミュニケーションを取るべきか考える余白が生まれます。
西脇 なるほど。藤本さんはどうやって、変化に気づいているのでしょうか。
藤本 メンバー全員と毎週30分ずつ1on1を実施しています。
 1on1を実施する目的は、定期的なコミュニケーションを通じて、メンバーの状況や考えを知るためです。
 そのため、メンバーから求められない限り、1on1で私から何かを伝えることはありません。
 メンバーに「1on1はあなたが自由に使える時間です」と伝え、話すテーマも向こうから提示してもらっています。雑談や業務相談、キャリア相談、バラエティに富んでいますね。
 また、テーマが思い浮かばないと相談された場合は、他のメンバーの例を提示し、テーマ設定のヒントを与えるようにしています。
鈴木 とても勉強になります。メンバーの日々の変化を知ることができ、メンバーの考えに寄り添いながら成長支援もできる。一石二鳥ですね。
 また、そうしたコミュニケーションを重ねていけば、メンバーの強みや弱みを深く知ることもできそうです。
 私は、相手がここは苦手だと、弱みを見せてくれたときに、信頼関係が築けていると感じ、手助けしたくなるタイプです。
 何ならマネジャー自身が苦手な部分を補ってもらうために、弱みを見せることももっとあっていいと考えています。
藤本 たしかに、誰かの弱みを他の誰かが補っているチームは、強いチームですよね。マネジャーが補ってもいいですし、メンバー同士で補完し合うようお願いしてもいい。
 価値観が多様化していくと、個が持つ能力にエッジが立ってくると思います。チームの力を最大化するためにも、まずはコミュニケーションを通じて、メンバーを深く知ることを欠かないよう習慣化していくべきですね。

何でも言い、高め合える関係性を

椎野 三村さんが代表を務めるコンカーでは強みも弱みも言い合える「フィードバック文化」が定着しています。なぜ定着できているのでしょうか。
三村 二つあります。一つは経営者である私がトップダウンでフィードバックを導入し、実践しながら組織に浸透させたこと。
 ボトムアップから実施しても全社的な導入にはなかなか至りません。フィードバックは強みも弱みも言い合うため、導入したらハレーションが起きそうだと考える部署がでてくると、導入が止まってしまいます。
 またもう一つは、何でも言い合える状況、つまり心理的安全性を担保していることです。
 当社が実施したアンケート調査では、心理的安全性の高い職場は、低い職場に比べてフィードバックが5倍も多いことが明らかになっています。(※1)
(*1)フィードバックに関する調査:2023年2月コンカー調べ
調査形式:インターネットリサーチ:日本企業で働く会社員600名に対し2023年2月22日~2月27日に実施)。書籍『みんなのフィードバック大全』執筆時の調査。
椎野 すごい数値ですね。どうすれば心理的安全性を高められるのでしょうか。
三村 基本的なことですが、社員同士が互いに敬意を持つ。これを徹底しています。例えば私も全ての従業員と「さん付け」で呼び合いフランクに話しています。
 職位が高いから偉いわけではありません。会社を離れれば、人と人です。この前提を基に敬意を欠かないようにしています。
岡本 とても共感します。個々の成長には、チームとしての「心理的安全性」を徹底的に高める必要があります。
 三村さんの「さん付け」とはアプローチが異なりますが、心理的安全性を高めるため、私は「ちゃん付け」を推進しています。
 昨年、コミュニケーションスクールを立ち上げ、校長と講師を兼任していますが、受講生から「純ちゃん」と呼んでもらっています。
 なぜなら、生徒と私は対等の立場であると感じてもらいたいからです。私が「教える」彼らが「教えられる」ではなく、共に学ぶ関係性なのです。
 上意下達で、一方的に教え込まれるだけでは、自ら考え、行動変容を起こしていくことは難しいんです。
 また日本人のコミュニケーション力が低い要因に「恥をかくのを恐れる」というものがあります。
 恥はかいた分だけ、成長できるし、コミュニケーション力も上がると思いますが、皆さん「恥の壁」の前で躊躇してしまう。
「心理的安全性」とは「このメンバーの前でなら、恥をかいても、怖くない、挑戦してもいい」と思える感覚だと思います。
 その感覚を構築するためには、対等な環境、つまりお互いが言いたいことを言い合える環境が必要であり「ちゃん」はまさにその一つの実験なんです。
 安心して、自分の鎧を外せる環境だからこそ、皆、脱皮ができる。そうすると、驚くように、変わっていきます。

成長のため、答えは“あえて”教えない

椎野 フィードバックで、褒めることはできるものの「叱る」「指導をする」のが苦手という声をよく耳にします。ネガティブなフィードバックはどうすればうまくできるのでしょうか。
岡本 そもそも「叱る」「指導」は相手を萎縮させてしまうだけでもはや機能しません。まずは厳しいことを言わなくてはいけないという先入観を捨てるべきです。
 愛情を持って、相手に直してほしいポイントを、ポジティブな表現に言い換えてあげればいい。
 そういう観点の下、近著『世界最高の伝え方』でも紹介している「SPECIAL」という言い換えの法則を私は実践しています。
 例えば、メンバーの行動を指摘する際に「○○しなさい」という命令系をやめ、提案や問いかけ(Proposal)にすれば相手は萎縮しにくくなります。
 また「なんでこんなことしたの?」と過去を糾弾しても何も始まりません。「どうしたいのか」「どうするのか」と未来の選択肢(Elect)にして、自ら選び取ってもらう。
 その上で、また「私は(I)こう感じる、なぜならば(Cause)」という視点で自分の意見をしっかり伝える。相手も私は、なぜこうしたのだろうかと、自分の頭で考えるようになります。
 この7つの言い換えを組み合わせながら、考えを押しつけるのではなく、相手が自分から行動変容を起こしていくようにサポートしていけるといいですよね。
三村 まさにそうですね。「ここが悪いので、こうしなさい」という指摘は相手が考える余地を奪ってしまいます。
 また岡本さんがおっしゃった通り、フィードバックは、人の行動を変え、成長に導くために行うものです。
 弊社では行動を変えるため「ソラ」「アメ」「カサ」という方式論を用いています。
三村 相手と表層課題を共有し、深層課題に気づいてもらい、その上で解決策へと導いていきます。
 例えば「資料にミスが多い」というメンバーがいたとします。
「資料にミスが多い」という表層課題を共有した上で「その背景にはどんな課題があるか」と問いかけていきます。
 そうすると「上司のレビューを受けていない」「自分でチェックする習慣がない」といった深層課題があがってくるので、今度はどうすれば改善できるか問いかけるのです。
 その際のポイントは「必ず上司のレビューを受けなさい」とか「チェックする習慣をつければいい」とこちらが答えを示さないこと。
 解決策の押しつけになり、メンバーが自己決定感を得られないまま対話が終わってしまう。
 あくまでも自ら考えてもらい、解決策にたどり着くことがメンバーの成長につながるのです。

マネジャー自身のコミュ力を可視化する

椎野 フィードバック文化を定着させていく中で、マネジャーによってフィードバックが得意な人と不得手な人がでてくることはないのでしょうか。
 実際問題、フィードバックや1on1の実施後に、マネジャー自身が、自身のコミュニケーションスキルを客観視したり、改善したりする機会や仕組みがどの組織においても乏しいと感じています。
 私が所属しているKAKEAIでは、1on1を円滑に進めるためのツール「Kakeai(カケアイ)」を提供しています。
「Kakeai(カケアイ)」では、マネジャーが自身のコミュニケーションスキルを客観視・改善できるよう、1on1実施後に、メンバーが匿名でマネジャーにフィードバックしています。
三村 おっしゃる通り、マネジャーによって差はでます。そのため、弊社も半年に一度、全社員を対象にフィードバック実施状況調査を行っています。
 またマネジャーがどのようにフィードバックを実践しているのか大まかに可視化しています。
 ポジティブフィードバックはできているが、ネガティブフィーバックはできていない。またその逆。全部できている。全部できていない。これらの4象限で分解し、部署内で公開していますね。
 自分がどの程度できているかを知れば、改善のきっかけになると考えます。
椎野 まさに同じ発想で「Kakeai」のマネジャーへのフィードバック機能も公開できるようにしています。
 近しい部署のマネジャーや、近しい特性を持つマネジャーがどう評価されているかを知り、参考にできるようにしています。
 今のマネジャーは、旧来型のマネジャーよりも、密なコミュニケーションが求められるようになりました。
 ただし、いきなり変われと言われても、戸惑いもあると思います。
 そのため、三村さんの実践されているフィードバックのノウハウや、岡本さんが手掛けているコミュニケーションスクールなどで学びを深めていってほしい。
 その上で、コミュニケーションの最適解とは何か。可視化して個々のメンバーに応じて対応を改善し続ける、そういった発想を持てば、コミュニケーションに悩むマネジャーも減っていくと考えています。