正しく体を揺らすと健康になる

正しく体を揺らすと健康になる・連載第5回

毎日の通勤中に行う、お手軽肩こり解消法

2015/3/19
肩こりや腰痛は、動きの癖に由来する「体の歪み」に原因がある。ただし、心がけ次第でそれを解消することができる。例えば気軽に行えるのが通勤電車の中で吊革を使って肩甲骨(および全身)を揺らすことだ。操体法を極めたトレーナーの西本直が独自の健康法を紹介する。

ホームで待っているときに正しい姿勢をチェック

健康法というと、どこか構えてしまうところがあるかもしれませんが、それでは長続きしません。

いつでもどんな状況でも手軽に行うことができれば、日常の一コマに健康法も割って入ることができるでしょう。

まずはこんな状況でいかがでしょう。

ホームで電車を待っているとき、あなたは自分がどんな姿勢で立っているかを意識したことがあるでしょうか。

電車に限りません。バスを待っているとき、また街角で信号待ちをしているときの何気ない立ち姿勢を思い浮かべてください。

子どもの頃に習った、「気をつけ、休め」の姿勢で言うと、「休め」の姿勢で、明らかにどちらかの足に重心がかかり、反対の足を斜め前に出して立っていませんか?

背骨が地面に対して真っ直ぐ立っていれば、重心はおのずと左右均等にかかり、前後のバランスも整うことで、下から膝・腰・背骨・肩甲骨と必要最小限の体の関節を伸ばしてくれる伸筋が程よく働きます。

そうなれば、多少の待ち時間なら疲れることなく立っていられるはずです。

それが片足に体重がかかりすぎてしまうと、骨盤が傾きます。それに伴って背骨がまっすぐに立っていられなくなり、肩のラインも傾き、6キロとも7キロともいわれる頭を支える肩や首の筋肉は、大きな負担を感じることになります。

そのために重心をかけている足を変えたり、体をねじったりと、なんとなく落ち着かない姿勢が続きます。

このことは椅子に座っているときにも言えることで、足を組んだり組み替えたりが多い人は、骨格のバランスが良くないことの証明と言えます。

体の使い方の癖が歪みを生む

ちなみに私が施術を行うときに、被施術者がベッドに横たわっている姿勢から、多くのことが分かります。

この体は基本的に右足に重心がかかりすぎていて、信号待ちで歩きだすときには左足からしか歩き出せないだろうなとか、階段を上るときに踊り場があって、次の階段に足を乗せるときには、無意識に歩幅を調整して左足から一歩目の階段を上るようにしているんだろうな、などということが分かってしまいます。

こうして普段の体の使い方がいつの間にか「体の癖」になり、そのことが繰り返されて、骨格を支える筋肉のバランスを崩し、「歪められた骨格」が不快感を生み、不定愁訴と呼ばれる肩こりや首のあたりの痛み、そして腰痛や膝の痛みにまでつながっていくのです。

自分の立ち姿はいかがでしょうか? 

重心の位置、体の傾き、そのものが体の歪みであり、痛みを生む元凶になっていたとしたら、なんとなく立っているでは済まされない問題です。

自分の立ち姿を意識し始めると、今度は他人の立ち姿が気になってきます。

私から見て合格点と言える人は、なかなかいません。

皆さんそれぞれ癖のある立ち姿で、二本足で立つことの難しさを痛感させられます。

吊革につかまり「肩甲骨」を揺らしてみましょう

私が通勤電車に揺られていたのは、25年近く前のことです。

おそらく通勤地獄の状況は、変わっていないのではないでしょうか。

よほどの偶然でもない限り、朝の通勤電車で座席に座れるようなことはありませんでしたし、もし空いたとしても、健康な若い男が喜んで座っていられる状況ではなかったです。

両足が浮いてしまうほど混むときもあり、さすがにその状況ではこれからお話しすることもできません。ですが、吊革を持って立っていられるくらいまでの混み具合なら、以下のように肩甲骨を揺らすことで肩こりの軽減が図れるかもしれません。

まずは肩甲骨の位置を確認

前回書いたように、腕というのはある角度を超えると、肩甲骨の協力なくして肩の高さ以上に上げることはできません。

ためしにどなたかの後ろに立って、その方の肩甲骨に手の平を乗せてみてください。肩甲骨はちょうど手の平で覆い隠せるくらいの大きさです。

相手に腕を伸ばしたまま、肩の高さまでゆっくり上げてもらってください。

腕が地面と水平の高さ近くまでは、手のひらで触れている肩甲骨に動きは感じませんが、水平に近づく一歩手前くらいの高さから、肩甲骨の下の方が横に開くように動いていくのが感じられるはずです。

そうです、この肩甲骨の協力なくして腕は肩以上の高さに上げていくことはできないのです。

上腕骨部分から先が腕だと思いがちですが、実は肩甲骨まで含めて一つのユニットになっているのです。

四十肩・五十肩という症状も、実はこの肩甲骨と上腕骨の連係不足によるものがほとんどなのです。

ということは腕の大本である、この肩甲骨が本来の働きをまっとうしていれば、肩こり自体にも良い影響があると考えることはできないでしょうか。

ぶら下がるのではなく、ぶら上がるイメージ

吊革につかまって肩甲骨を揺らす。なかなかイメージしにくいかもしれませんね。

昔どこの家にもあった「ぶら下がり健康器」、今はよくて洋服掛けとしてかろうじて捨てられずに存在しているかもしれません。

使われなくなったのにはわけがあります。

大人になって体重が重くなってから、鉄棒や公園にある「うんてい」にぶら下がったことがありますか?

子どもの頃なら何の苦も無くぶら下がれたはずなのに、腕が伸びてしまって体を支えられず、あっという間に落ちてしまう人が多いと思います。何度試みても同じで、こんなはずじゃなかったのにと、筋力の衰えにがっかりさせられます。

「ぶら下がり健康器」は、文字通りぶら下がることで、自分の体重をおもりにして背骨を伸ばして、体の歪みを元に戻そうという発想で作られたものだと思います。

しかし、「ぶら下がり健康器」に足がつかない状態で鉄棒のようにぶら下がってしまうと、肩周辺の筋肉や靭帯が引っ張られ、自分の重さに耐えられなくなって、生理的な範囲以上に伸ばされてしまうのです。

これが原因で、肩に痛みを訴える人が後を絶ちませんでした。重くなってしまった体でぶら下がることは、もうできない方がほとんどなのです。

ですが、何でも物は使いようです。

完全にぶら下がってしまうのではなく、足をついたまま安定した状態で、程よく肩や背中をストレッチさせることを目的として使えば、まだまだその存在価値は十分にあります。

その感覚を生かして、上手に「電車の吊革」を使ってやってみませんかというのが私の提案です。

日本語としては間違っているかもしれませんが、私は、「吊革にぶら下がるのではなく、ぶら上がってください」とお願いしています。

吊革を使った上手な肩甲骨の揺らし方

ぶら下がってしまうと、肩甲骨も肩関節の周囲も引き伸ばされてしまい、どうにも身動き取れない、ぶら下がり健康器と同じ状況になります。

ですが、足をついたまま吊革をつかんで、腕は高く上げているけれど、肩甲骨も肩関節の周辺部分も自由に動かすことができる状態のことを、「ぶら上がる」と呼んでいます。

吊革につかまるというよりも、吊革に軽く手を添えている状態で、肩甲骨から肩周辺を揺らしてみましょう(ぎゅっとつかまると、屈筋が働いてしまいますから。程よく伸筋を使うのが大事です)。

吊革に触れていることで無理なく肘が肩より高い位置にありますから、肩甲骨が驚くほど自由に軽く動いてくれます。

片手持ちでも、両手持ちでもできます。

肩甲骨や肩関節だけを揺らすという感覚は難しく、実際には足元から体全体が波のように揺れますが、まずは肩や肩甲骨周りを意識して揺らしてみてください。

「全身への連動」は次回以降に詳しく書くとして、ここでは簡単なイメージだけ紹介しておきましょう。人体というのは、足の先から頭まで、無数に小さな関節でつながっています。その小さな関節一つひとつに波がゆっくりと伝わっていくようなイメージで揺らせると、揺らすことの気持ち良さを感じられるはずです。

吊革を強く握ってしまうと、筋肉が硬くなって上手く揺らすことができないので、本当に触れているだけで十分ですから注意してください。

気持ちが良いからと、首や顔も揺らせていると、周りの人の視線が気になり、ちょっと恥ずかしいかもしれませんので、電車の揺れに任せて何気なく揺れていることを装うのがコツかもしれません。

慣れてくると実に気持ちがいいものです。もう空いていても座席に座りたくなくなるかもしれませんよ。

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載する予定です。