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シティ日本法人代表インタビュー

独占告白2「私たちが中国ではなく、日本を選んだ理由」

2015/3/18
利重孝夫(とししげ・たかお)、シティ・フットボール・ジャパン 日本代表マネージング・ディレクター。読売ユース出身で、東京大学在学中はア式蹴球部でプレー。卒業後は日本興業銀行(現みずほファイナンシャルグループ)を経て、2001年に楽天株式会社に入社。常務執行役員を歴任し、クリムゾンフットボールクラブ(Jリーグ・ヴィッセル神戸の運営会社)の取締役も務めた。2014年11月から現職。(写真:福田俊介)

利重孝夫(とししげ・たかお)、シティ・フットボール・ジャパン 日本代表マネージング・ディレクター。読売ユース出身で、東京大学在学中はア式蹴球部でプレー。卒業後は日本興業銀行(現みずほファイナンシャルグループ)を経て、2001年に楽天株式会社に入社。常務執行役員を歴任し、クリムゾンフットボールクラブ(Jリーグ・ヴィッセル神戸の運営会社)の取締役も務めた。2014年11月から現職。(写真:福田俊介)

国境を越えたチャレンジ

マンチェスター・シティを傘下に置く『シティ・フットボール・グループ』が昨年5月に横浜F・マリノスの株式を19.95%取得し、今年から本格的にマリノスの強化・経営に参加していくことになった。

しかし、「言葉」と「距離」の壁がある中、そんなことが可能なのだろうか?

同グループの日本法人『シティ・フットボール・ジャパン』の代表に就任した利重孝夫氏に、マリノスとシティの共同作業について訊いた。

共通語はバッドイングリッシュ

――本国イギリスとの仕事の進め方に興味があります。言葉の壁もありますし時差もある。どういうふうに実行されているんですか。

利重「マリノスさんはビデオ会議のために、数百万円もする機器を導入しました。イギリスの朝、つまり日本の夕方にビデオ会議や電話会議を行なってます。オフィスにいなくても、移動しながら電話で参加できるシステムになっています。いつ会議が入るか分からないので、夕食のアポイントを入れられなくなりました(笑)」

――そんなに密に連絡を取り合っているんですね。

利重「私の場合、ニューヨークと関わっていないからまだいいですが、イギリスにいる人間は大変ですよ。クラブがニューヨーク、メルボルン、横浜にあって、アブダビにも連絡しなければなりませんから。まさに多国籍企業です。『シティ・フットボール・グループ』のCEO(最高経営責任者)であるフェラン(ソリアーノ)とも、そうやってやり取りしています。

会議の参加者は、マリノスの強化部長、監督、私、それから向こうの分析担当、スカウト…。ほぼ毎週のように会議をやっていますね」

――通訳がいて、訳してくれるんですか?

利重「必要な場合はそうします。ただ基本的には通訳なしです。よくフェランが言うんですけど、『我々の共通語はバッドイングリッシュだ』と。

言葉は通じればいいんです。ある意味、これはスペイン人がトップのメリットです。CEOのフェランも、最高財務責任者(CFO)であるホルヘ(チュミラス)もスペインのカタルーニャ出身。英語が母国語ではありません。

彼らがすごいのは、会社では絶対に英語でしか話さないということ。そこは徹底しています。2人だけでしゃべっている時も英語です」

――それはすごいプロ意識ですね。

利重「そこがブレしてしまうと、コンセプトが実行できないという強烈な危機感があります。あの姿を見ていると、彼らについて行きたいと思いますよね」

――強化の会議だけでなく、マーケティングの会議もあるんでしょうか。

利重「あります」

――マリノスのスタッフは英語での会議に困惑していませんか?

利重「考えてみてください。日産の場合、トップがゴーンさんですよ? 10年以上前から社内で英語が使われています。日産からマリノスに来られている方の英語のレベルはすごく高い(マリノスの親会社は日産自動車)。

そういった意味でも、提携先としてマリノスを選んだ部分がありました。すでに国際化されていましたから」

――今後、マーケティング面でシティが持っているノウハウが生かされると思いますか?

利重「そこはより長期の話になると思います。やはり一番分かりやすいのは、選手や監督の獲得。インパクトも大きい。一方、マーケティングあるいは営業や事業に関しては、これからジワジワと効果を出していけると思います」

――例えば、どんな効果が期待できますか?

利重「スポンサーですね。おそらくシティが連れてきたんだろうな、というスポンサーが、今後出てくるでしょう。出てこないといけないと思っています」

シティの練習場に貼られたマリノスのロゴマーク

――これからさらに連携が進みそうですね。

利重「面白いのは、シティから全員に届くメールですね。4つのすべてのクラブの最新情報が書かれていてグループ報のようなものです。トップチームだけでなく、ユースのことまで書かれています。これは親近感が湧きますよ。フェランはこのメールにかなり力を入れて、CEOの直轄プロジェクトにしているそうです」

――グループ全体に仲間意識を持たせようとしているわけですね。

利重「フェランはそこにものすごくこだわっていますね。例えばマンチェスター・シティの練習場に行くと、あちこちにマリノスを含めた4クラブのロゴが貼られているんですよ」

――利重さんの名刺の裏にも、4つのクラブのロゴが入っていますね。

利重「グループ全体の書類にも入っていますよ。ロゴの位置など、全ての面でこだわりを持っています」

ニューヨークとメルボルンとの共通点

――グループ内の他クラブのことも訊かせてください。アメリカには13年5月に設立したニューヨーク・シティFC、オーストラリアには14年1月に買収したメルボルン・シティFCがありますね。

利重「アメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)は伸び盛りのリーグで、まだまだ若い市場です。元々ニューヨークには、ニューヨーク・レッドブルズというチームがあるんですが、スタジアムがあるのはニュージャージーなんです。

つまりニューヨーク市には、サッカークラブがありません。地元のニーズに応える意味もあって、ニューヨーク・ヤンキースと共に新クラブを設立しました。

オーストラリアに関しては、さらに若いリーグです。チームも設立されたばかりでした。買収の際は地元から若干の抵抗はあったでしょうけど、その形の方がベターだと判断しました」

――グループの戦略として、クラブを置くのは大都市と考えていますか?

利重「それは間違いないですね。誤解して欲しくありませんが、地方のクラブを否定しているわけではありません。リーグにはいろんなクラブがあるべきです。

ただ、どのリーグにも全体を引っ張っていくビッグクラブが必要です。そこに『シティ・フットボール・グループ』の存在意義があります。日本で言えば、横浜、東京、大阪でなければ、『シティ・フットボール・グループ』は興味を持たなかったと思います」

なぜ投資先がマリノスだったのか

――そう考えると、北京ではなく、よく日本に来てくれましたね。

利重「私もそう思います、よく来てくれたなと。逆に言えば、日本市場はそれだけ優れているということです。サッカーファンは気がついていると思うんですが、最近ヨーロッパのクラブのアジアツアーでは、日本は素通りされてしまいます。『ジャパン・パッシング(通過)』とでも言いましょうか。それは市場として魅力がないから。日本企業が置かれている立場と一緒です。

ただし、短期的なビジネスの対象ではなく、長期的な投資対象として見た場合、こんなにしっかりとした体制で運営されているリーグは他にアジアにはないんですよ。

日本人は意識したことはないでしょうが、海外の人間に言わせると、こんなにしっかりと、またクリーンに運営されているリーグはないと。

また、見方を変えると、現在は成長の踊り場にあって、まだまだ成長することもできる。やりようによっては、もっともっと成長できる。彼らはそういう捉え方をしています」

――国内では悲観論が多いですが。日本のサッカー市場はまだまだノビシロがあると。

利重「正直言ってビジネスだけ考えたら、中国とかインドネシアの方が、人口も多いし、お金をいっぱい落としてくれます。ユニフォームを売るならそちらの方がいいし、テレビの放映権で収入を上げるのもそちらの方がいいでしょう。でも、その国に根を下ろし、その国の市場と共に、自分たちもクラブもリーグも成長していく発想だと、やはり日本が一番なわけです。まだまだ魅力的だし、他の国ではなく日本を選んだ理由はそこにあるんです」

――先ほどビッグクラブという言葉が出ましたが、マリノスに対してもそういったビジョンで臨んでいますか。

利重「クラブが成功するということは、そうなっていくことと同義語です。『シティ・フットボール・グループ』にとって、クラブ経営はイコール、ビッグクラブの経営です。だからこそニューヨークであり、メルボルンであり、横浜なのです。

大事なのは、正の循環です。投資をして、チームが強くなって、サポーターが増えて、それが入場料収入につながる。さらにスポンサー収入、放映権収入が増え、選手の強化や育成を後押しできます。その正の循環をつくれれば、自ずとビッグクラブになると考えています」

※本連載は毎週水曜日に掲載する予定です。