メディアのこれまで (1)

第1回:NHK取材班が見た、米国メディア業界最前線

バズフィード急成長の秘密と、迎え撃つ老舗メディアの変貌

2015/3/18

今年、日本は放送開始から90周年を迎える。その節目を記念して、NHKで「放送記念日特集  放送90年  歴史をみつめ未来を開く」(3月21日午後11時~総合テレビ)が放送される。当連載では、本番組の取材陣、出演者への取材などを通して、4日連続でメディア・ジャーナリズムのこれまでとこれからを考える。

第1回目と第2回目のテーマは、海外のメディア最新事情。NHKの番組取材班は、本年2月下旬~3月上旬、激変する米国メディア業界の最前線を追った。第1回目は、BuzzFeed、ロイター、ニューヨーク・タイムズなどを取材した上松圭ディレクターに、現地取材で実感したことなどを率直に語ってもらった。
 BuzzFeed ホームページ

BuzzFeedの記事は“人”でなく“機械”が選ぶのか?

この10年、放送業界は“ネットの躍進”によって自らの存在意義を問い直されることになりました。さらに、スマートフォンの普及によって、人々は放送局が設定した時間、空間を超えてコンテンツを楽しめるようになっています。

電波による放送が今後も価値ある社会インフラであり続けるために、改革すべきこと、守るべきことは何か。そのヒントを得るため、今年2月下旬から3月上旬にかけて、アメリカで急成長を遂げるインターネット系の新興メディアと改革を急ぐ伝統メディアを、取材してきました。

ネット系新興メディアの中でまず注目したのが、ユニークビジター数月間約2億人の一大メディアとなったBuzzFeed(バズフィード)です。

同社は、猫の動画やリスト記事などエンタメ系のコンテンツが有名ですが、最近では調査報道部門にも力を入れています。大手新聞社からピューリッツァー賞を受賞した記者が移籍するなど、急速に社会的メディアとしての認知も高めているのです。

バズフィードはAI(人工知能)やアルゴリズムを使っているというイメージがあるかもしれません。確かにアルゴリズムでキュレーションするニュースアプリは最近増えてきましたが、オリジナルコンテンツを主とするバズフィードが、どうアルゴリズムなどを使っているのか、我々は、この点に大きな興味を持っていました。

果たして、実態はどうなのか。取材したところ、実はソフトが記事自体を選んでいるのではなく、ソフトは別の形で使われていました。

記者はSNSの動向などから自分が興味を持ったネタを選び、記事を書きます。記事をつくるプロセス自体は、大手メディアと同じように“人力”の部分が大きいと言えます。
 BuzzFeed本社㈪(ニューヨーク)

シェアを“最適化”する技術とは?

しかし、実はこのあとの配信段階で、興味深い“自動化ソフト”が出番となるのです。

記事は見出し、写真、本文という構成ですが、本文はそのままで、見出しと写真は最大12パターンも作ります。そして、そのすべてのパターンを配信し、数時間モニタリングします。最もクリック、シェアされたパターンが判明すると、記事をそのパターンにすべて差し替えるのです。これらのプロセスは、すべて自動化されています。

また、例えば「この記事はSNSの中でも特にツイッターで支持される」という予測をソフトが出すと、記事の横に通常より大きなツイッターのシェアボタンが自動的にアップされます。これでシェアが2倍になったそうです。

AIやアルゴリズムなどの技術は記者の創作を縛っているわけではなく、流通の部分でシェアを最適化することに役立っているわけです。これによって、あれだけ多ジャンルの大量な記事を配信することが可能になるのでしょう。

記者たちは屈託なく、ソフトが選んだタイトルを受け入れています。自分の一押しの見出しが選ばれなかったとしても、むしろ「勉強になりますね」と楽しんでいます。

「自分たちが読みたい、見たいと思う方向にメディアが歩み寄ってくれることを今の消費者たちは望んでいる」と、若い記者たちは口をそろえます。消費者に技術を持って限りなく歩み寄る──そんなメディアの新しい形をバズフィードは見せてくれました。

追われる老舗メディアにも変化の兆し

このような新しいメディアの勃興に応じる形で、老舗の大手メディアもまた変化しつつあります。世界最大の通信社ロイターは、この2月「ロイターTV」をスタート。iPhoneをデバイスとして多ジャンルの動画ニュースを配信し始めました。
 ロイターTV

ロイターには以前から動画クリップはあったのですが、今回彼らがこだわったのは、5~30分まで視聴時間を設定できること、さらには興味のない項目はフリックで飛ばせることです。

これによって、一人ひとりのユーザーの好みを集積・分析し、次回からその人好みのパーソナライズされたニュースを短時間に凝縮して配信するという仕組みです。

ロイターが強調するのは、「時代が求めているのは、いつでも、どこでも見られる、パーソナライズされたニュースだ」ということです。

ただし、消費者が好むものと編集者が必要と思うものの取捨選択は、常に緊張状態にあるといいます。ブルームバーグはこのようなネットによる動画配信で先行していますが、伝統ある老舗の大手メディアが動き出した事例として注目に値します。
 ニューヨークタイムズ本社

同じ老舗の大手メディアの事例では、ニューヨーク・タイムズが朝の編集会議で、150年以上続く伝統の「1面構成会議」を本年2月最終週でやめたという動きもあります。これまで朝の編集会議は、紙の1面の構成を決めることが目的でした。それが今回、ウェブ版に出すニュースを決める会議に様変わりしたのです。

面白いニュースは即座にウェブに出していく方針へと変わったわけです。1面の構成は、夕方の会議のサブテーマに降格されました。
 ニューヨークタイムズ 一面

新聞社にとって、紙面の1面は会社の顔であり、編集者の主張です。その伝統をある意味、捨てたのです。

新聞社にとってもニュースは編集者がプッシュするものではなく、ユーザーが選んでいくものになる──。ニューヨーク・タイムズがそう意図しているかどうかは分かりませんが、そういう時代の流れを読み取ることができました。

(構成:栗原昇)

※明日掲載の第2回目では、若者の間で絶大な人気を誇る「Vice」のジャーナリズムをレポートします。

番組ロゴ

【生放送予定】3月21日(土)

第一部 午後11:00〜11:59 NHK総合

第二部 午前 0:10〜1:00 ラジオ第1

番組HP:http://www.nhk.or.jp/kinenbi90/

放送90年。ラジオから、テレビ、そしてネットへと進化する放送の過去、現在、未来を徹底生議論。テレビの前のあなたが番組の進行を左右できる生特番。

<ゲスト>

田原総一朗(ジャーナリスト)
 テリー伊藤(演出家)
 ハリス鈴木絵美(署名サイト「Change.org」日本代表)
 速水健朗(編集者・ライター)
 藤代裕之(法政大学准教授/ジャーナリスト)
 柳澤秀夫(NHK解説委員)