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正念場を迎えたサムスンのスマホ戦争(上)

韓国本社の予想外のいびり

アメリカにおけるサムスンの成功は、韓国本社との不和を生み出していた。アメリカでギャラクシーが評判になるほど、本社との関係は悪化。アメリカのチームは本社にほめられるどころか、非難されていると感じるようになったという。

お互いの不信感がピークに達したのは2012年、テキサス州ダラスのサムスン・テレコミュニケーションズ・アメリカ(STA)に、本社から大量の幹部が乗り込んできて、抜き打ち監査を始めたときだ。3週間にわたる監査で、STAの社員はモバイル機器の販促に使用した一切の資料を提出しなければならなかった。

売上をごまかしているとか、メディアを買収したとかいった根拠のない疑いをかけられ、社内の士気は著しく低下した。結局、不正の証拠は何ら見つからず、本社の幹部はすごすごと帰っていった。だが、この事件がSTAに残した傷跡は大きかったし、韓国本社の疑念も解けることはなかった。

韓国で世界のサムスン子会社の代表を集めた会合が開かれたとき、STAのチームが何百人もの仲間の前で立たされたこともある。STAはサムスンの業績を悪化させている唯一のグループ会社だから、励ましの拍手を送ろうと本社幹部が命じたのだ。出席者の誰もが事実は正反対だと知っていたにもかかわらず、だ。これでアメリカでの成功例を他国・地域に広める可能性は完全に消え、サムスンが世界に発信するメッセージは足並みがそろわないままになった。

そんななかの2013年、サムスンはニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで「ギャラクシーS4」発表イベントを開催した。一般的な製品発表のスタイルを取らず、ブロードウエーのミュージカル仕立てで新製品の特徴を紹介するという、ド派手かつ奇抜な趣向だった。だがミュージカルの時代遅れで紋切り型の女性描写に、多くの出席者が不快感をあらわにした。CNETのモリー・ウッドは、このイベントは「ズレまくりで、衝撃的なくらい女性差別的」と評した。

「主役」であるギャラクシーS4の評価もいまひとつだった。タッチレス操作やアイトラッキング機能、それに誰も使いそうにない(あるいは宣伝どおりには機能しない)無数のカメラモードなど不要な機能が多すぎたのだ。それでもギャラクシーS4はサムスンで最も売れたスマートフォン(スマホ)となり、サムスンは2013年も好業績を維持した。だが、2014年は状況が一変する。

中国メーカーの追撃に苦戦

昨年3月に開かれた携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス2014」で、サムスンはギャラクシーSシリーズの売り上げは過去4年間で1億台を超えたと豪語し、自信満々で「ギャラクシーS5」を発表した。

S5はS4の余分な機能を削ぎ落としたうえで、防水機能など新しい便利な機能を追加。カメラの性能も向上させた。従来どおり本体はプラスチック製で、価格は650ドル前後に設定された。S4の成功を考えれば、S5の大ヒットも確実かと思われたが、そうはいかなかった。

2014年のサムスンの業績低迷には多くの要因があるが、最大の「犯人」は中国のスマホメーカーの台頭だろう。一加(ワンプラス)やシャオミといった中国メーカーは、美しいデザインで高品質ながら、iPhoneやギャラクシーSの半額程度という魔法のスマホをつくる方法を編み出したようだ。

なかでもシャオミの台頭は目覚しかった。昨年中国で最も売れたスマホだとする統計も少なくない。携帯電話からスマホへの乗り換えが急速に進む中国は、各メーカーにとって最重要市場だ。その中国でシャオミが売れているということは、サムスンのシェアが食われていることを意味する。

シャオミのスマホは本体が金属製で、プラスチック製のサムスンよりも高級感がある。高速プロセッサや美しいディスプレー、高画質カメラなどスペック面でも引けをとらない。またシャオミはアンドロイド搭載機だから、機能的にもサムスン製スマホとほぼ同じことができる。

シャオミはマーケティングでも大きな成功を収めている。最大の販促方法はソーシャルメディアと口コミだから、サムスンのように莫大な宣伝費をかける必要はない。それでもシャオミのファンは、アップルの「信者」並みにシャオミの製品を熱狂的に買い求める。

だが、シャオミの台頭はサムスン凋落の一因にすぎない。そもそもサムスンがスマホで成功したのは、ライバル(アップルを除く)よりも早く自社製品を大規模に売り出したからにすぎないと、テクノロジーアナリストのベン・トンプソンは分析する。例えばiPhoneを取り扱う通信事業者は、サムスンのスマホの3分の1しかない。だからアメリカではAT&Tの契約者でないかぎり、サムスンのスマホは一番お得な高機能スマホということになる。

中国では昨年、中国移動通信(チャイナ・モバイル)がiPhoneの販売を開始した。チャイナ・モバイルは契約者7億人の世界最大の通信事業者だ。おかげで中国におけるiPhoneの売上は、世界のどこよりも急速に伸びている。一方、iPhoneを選ばない中国人は、もれなくシャオミやレノボなど低価格機種を選ぶ傾向がある。

「自分の勝因を理解しておかないと危険だ」と、トンプソンは語る。「サムスンが成功した理由の一つは、ノキアなどのライバルとは違う方法でスマホを売ったからだ。だが製品自体に特別なところはないから、価格で競争するしかなくなり、成長が続かなかった。サムスンは中国で高位機種ではアップルに敗れ、低価格機種ではシャオミに敗れた」

だが、サムスンもこのままでは終わるつもりはないようだ。

1000ドル超の最高位機種で勝負

3月初めにバルセロナで開かれた「モバイル・ワールド・コングレス2015」で、サムスンは「ギャラクシーS6」と「ギャラクシーS6エッジ」を発表した。S6は筐体(きょうたい)に従来のプラスチックではなくアルミニウムを使用。S6エッジは昨秋発表された「ギャラクシー・ノート・エッジ」と同じように、パネルが湾曲したデザインだ。

問題は、どちらのモデルも最上位機種の価格であること。S6エッジはモデルによって(64GB以上)は1000ドルを超えそうだ。つまりシャオミのスマホより3倍以上高い。S6のソフトウエアに特別な何かがないかぎり、この価格を正当化するのは難しいだろう。さもなければ、2015年もサムスンにとっては厳しい年になりそうだ。

とはいえ、サムスン自身の経営が傾くとは限らない。同社は食洗機から空気清浄器まで多種多様な商品を製造販売する総合家電メーカーであり、スマホの次の「ビッグ・シング」に乗り換える十分な規模と余力がある(そのビッグ・シングがサムスン発でなかったとしても、だ)。半導体事業は高収益を確保しているし、年内発表予定のiPhoneの次モデルにCPU(中央演算処理装置)を供給することでアップルと合意している。

サムスンが今、注目している重要領域の一つは、モノのインターネット(Internet of Things、IoT)だ。電灯やトースターなどあらゆる日用品をインターネットとつないで多様な遠隔管理を可能にする技術だ。1月にラスベガスで開かれた世界最大の家電市コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、サムスンの担当者は、2、3年後には同社製品はすべてインターネットに接続すると表明している。それが実現すれば、サムスン製品のユーザーはまったく新しいユーザー・エクスペリエンスが可能になる。

それでもサムスンは永久に、アップルと肩を並べた夢のような3年間にノスタルジーを抱き続けるだろう。

(執筆:STEVE KOVACH記者、写真:Business Insider、翻訳:藤原朝子)

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