Nvidia Corp. Reveals 'The Shield' At The 2015 Game Developers Conference

進化するストリーミング配信ゲーム

拍手喝采の量が目安になるとしたら、リビングルームのテレビで楽しむゲーム機器市場に君臨するソニーとマイクロソフトが脅威にさらされているようだ。

3月2~6日にサンフランシスコで開催されたゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)で注目を集めたのは、アンドロイドを搭載したタブレット型ゲーム端末NVIDIAシールドの最新モデルだ。集まった約2000人のゲームやソフトウエアの開発者は、半導体メーカーでもあるNVIDIAにとって最も厳しい批評家でもある。

NVIDIAの最大の挑戦は、ソニーとマイクロソフトの一騎打ちに割って入ろうとすることではない。何しろ、それぞれの陣営に揺るぎない忠誠を誓うファンがいる世界だ。また、NVIDIAに主要な消費者電化製品を製造してきた経験がほとんどないことも、あまり関係がないだろう。

NVIDIAは大胆にも、まだ実証されていない新しい技術をゲーム愛好者に売り込もうとしているのだ。従来のようにゲームソフトを収録したディスクを再生し、あるいはハードドライブにダウンロードして半永久的に保存して遊ぶのではない。インターネット上でストリーミング配信されるコンテンツを有料で楽しむのだ。

「ゲーム界のネットフリックスを目指す」と、NVIDIAのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は言う。

オンラインでいつでもアクセス

クラウドのゲーム配信に挑むのは、NVIDIAが初めてではない。6年前のGDCで、オンライブというサンフランシスコのスタートアップがストリーミングゲーム用のソフトウエアを発表。その後ハードウエアも開発したが、ゲーマーには見向きもされなかった。オンライブは2012年に全従業員を解雇し、ベンチャーキャピタルに身売りした。

しかし、今、ようやく機が熟したのかもしれない。サーバは処理能力が向上して数も豊富になり、インターネットの回線速度は世界中で加速している。ピュー・リサーチセンターの調査によると、アメリカ人の70%以上が自宅にブロードバンド回線がある。

ネットフリックスやHulu(フールー)、アマゾン、ユーチューブなどで、ストリーミング配信の娯楽コンテンツを高解像度で楽しむ機会も増えた。その多くが400ドル前後のゲーム機器を使っている。オンラインでいつでも動画コンテンツにアクセスできる手軽さの傍らで、ブルーレイのプレーヤーはほこりをかぶっている。

難関はレスポンスタイム

ただし、ストリーミング配信がゲームとタッグを組むなら、従来の据え置き型ゲーム機(コンソール)のメーカーは喜べない。プレイステーション(PS)もXboxも、ゲームを機器にダウンロードして、夜中まで遊ぶこともできる。ソニーはストリーミングサービス「プレーステーション・ナウ」も提供しているが、PS本体かソニーの高級テレビが必要だ。マイクロソフトのXboxは、まだストリーミング機能を導入していない。両社はNVIDIAのシールドに関するコメントに応じなかった。

有力なゲーム開発業者もPS4やXboxを脅かしている。ハーフライフやドータなど人気ゲームを製作するバルブは、自社のソフトを中心に配信するプラットフォーム「スチーム」をもとに、ゲーム向けの新しいOS(オペレーションシステム)と、それを搭載した据え置き型ゲーム機を開発。パソコンを通じたスチームの登録ユーザーは全世界で数千万人にのぼる。さらに、今年のGDCで「スチーム・リンク」を披露。ストリーミング配信されたゲームをパソコンでダウンロードして、NVIDIAシールドを使って自宅のテレビで楽しむ。マイクロソフトのXbox Oneも似たような新機能を発表した。

NVIDIAは、ストリーミング配信にとって最大の技術的問題を克服したと説明する。すなわち、ボタンの操作が画面に反映されるまでの時差だ。これは熱心なゲーマーにとって何よりも重要な問題でもある。簡単に言えば、少しでも時差を感じさせてはならない。スチームの反応がXboxやPSに匹敵するレベルでなければ、NVIDIAでコール・オブ・デューティやヘイローなどの人気ゲームを楽しんできた人々に愛想をつかされるだろう。

システムの処理性能は未知数

NVIDIAの新サービスの主役は、黒いアルミニウムが光沢を放つゲームコンソールやコントローラー(199ドル)ではない。そのカギは、ユーザーの自宅からはるか遠くにある。アマゾンが運営する世界中のデータセンターで、NVIDIAが製造するグラフィクスチップのGeForceを搭載したサーバがフル稼働しているのだ。

アマゾンがクラウドで提供するサーバをホストにゲームを配信し、「150ミリ秒前後で」処理すると、NVIDIAのフアンCEOは言う。人間の目がまばたきをする時間の約半分だ。すべてはハードウエアの中ではなくクラウド上で起きるから、消費者がゲーム機を買い替えなくても、サーバ側のアップデートだけで自宅のテレビに映るゲーム画面が改良される。

新しいシールドは5月発売の予定で、配信サービスはすでにパソコンから無料で利用できる(いずれも米国内)。本格稼働後の料金は明らかにされていない。バットマン:アーカム・ビギンズやグリッド2などの人気ゲームを含む約50種類のラインナップで始まる予定だ。

フアンCEOのプレゼンテーションが終わると、リビングルームのセットに、あごひげをたくわえ、タトゥーをのぞかせたゲーム愛好家役が登場した。ゲームを楽しむ光景はXboxやPSと変わらない。コントローラーからはコードが伸びているが、ゲームがどこから配信されているのかは、見た目にはわからなかった。

NVIDIAは数百万人が同時に接続する規模を想定しているが、それだけの負荷にシステムが耐えられるかどうかは未知数だ。「かなり難しい問題だ」と、フアンは言う。

Copyright 2015 Bloomberg.
(執筆:Ian King、翻訳:矢羽野薫)