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「ドローンの今と未来」第1回

ソニー・大学・ベンチャー、第一人者たちが語る「ドローンの今と未来」

2015/3/16
商用利用の開発が進むドローン。大学・大企業・ベンチャーにいる日本における第一人者が、ドローンの今と未来について語った「Robo:Drone ドローンの今と未来」の模様を、全3回にわたってレポートする。
1回目となる今回は、ドローン開発の実際について紹介する。

日本初、ドローンのミートアップを

牧浦:今日は「ドローンの今と未来」と題して、有識者の方々にお話いただきたいと思っています。

そもそもの話ですが、ドローンとラジコンって何が違うんでしょうか? ほどんどの方はご存知ないと思います。「ドローン=アフガニスタンで使われている軍事兵器」と考えているかもしれません。

ただインターネットも、もともとはARPANET(アーパネット)という軍事目的で始まりました。それが今となっては一般的なツールとして普及しています。

僕は、ドローンもインターネットと同じ道をたどるんじゃないかと思っています。軍事用途が先行していたドローンですが、これから多くの分野に広がりを見せると思います。ジャーナリズム、農業、監視、Wi-Fi、広告、輸送、スポーツ、捜索、エンタメ…。

僕が今日、ここで提唱したいのは、「ドローン=新産業」なのではないかということです。インターネットで言えば、「インターネット×教育」というEdTech、「インターネット×ヘルスケア」というHealthTechなど、さまざまな分野に広がりを見せています。同じように、「ドローン×◯◯」が、今後10年以内に来るのではないかと思っています。

これまで、ドローンに関係している人には、大学系関係者・政府関係者・趣味でやっている人など、その中の縦のつながりはあるけれど、横のつながりは弱かった。だから、今日は日本初の、ドローンのミートアップをしたい。そう思っています。

牧浦土雅(まきうら・どが)アフリカ、主にルワンダで国際協力機関と農民とを繋げる事業に携わり、現在はタイを拠点に東南アジアで「パーソナルデータ」を活用した事業を構想中。TED『世界の12人の若者』、AERA『日本を突破する100人』に選ばれる。著書『アフリカ・奇跡の国ルワンダの『今』からの新たな可能性』。Facebookページ『ドローンの今と未来』管理人。

牧浦土雅(まきうら・どが)
アフリカ、主にルワンダで国際協力機関と農民とを繋げる事業に携わり、現在はタイを拠点に東南アジアで「パーソナルデータ」を活用した事業を構想中。TED『世界の12人の若者』、AERA『日本を突破する100人』に選ばれる。著書『アフリカ・奇跡の国ルワンダの『今』からの新たな可能性』。Facebookページ『ドローンの今と未来』管理人。

ドローンはどこで開発すべきか?

牧浦:野波さんは大学の中で、坂本さんはベンチャー企業で、北野さんはソニーという日本を代表する大企業で、それぞれさまざまな研究開発を行っています。まず最初に、それぞれの立場から、どこでドローン開発をするのが一番良いと考えていますか?

北野:明らかにベンチャーです。この手のものは、それに勝負かけるベンチャーが全力で立ち向かわないといけませんし、いろいろなことを試さないといけないからです。

北野宏明(きたの・ひろあき) ソニーコンピュータサイエンス研究所  代表取締役社長 人工知能の研究の一環として、1993年には「2050年までに、FIFA World Cupのチャンピオンチームに勝利する完全自律型ヒューマノイドロボットのチームを開発する」ことを目標としたRoboCupを提唱。現在、約30名のクレイジーな発想を持った研究者が集まるソニーCSLの代表取締役社長。

北野宏明(きたの・ひろあき)
ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長
人工知能の研究の一環として、1993年には「2050年までに、FIFA World Cupのチャンピオンチームに勝利する完全自律型ヒューマノイドロボットのチームを開発する」ことを目標としたRoboCupを提唱。現在、約30名のクレイジーな発想を持った研究者が集まるソニーCSLの代表取締役社長。

牧浦:ちなみに野波さんが立ち上げたベンチャーというのは、千葉大学の中から生まれたのですか? それとも産学発とかなんでしょうか?

野波:私のベンチャーは、野波研究室がつくったものです。実は、卒業生の中から、優秀な方だけをヘッドハンティングしています。

ドローン大手のDJIも3Dロボティクスも、実はほとんどが大学発ベンチャーなんです。例えばDJIは従業員が1500人もいて、年商500億円の大企業になっています。ですが8年前は、私もよく知っている3人のスタッフがいるだけでした。今からドローンで起業して、頑張ったら8年後にはすごいことになりうるということです(笑)。

野波健蔵(のなみ・けんぞう) 千葉大学大学院  工学研究科・工学部特別教授 1990年代半ばから、ドローンの研究開発に従事。2011年に、日本初の国産ドローンの製造に成功。2012年にはドローンに関する産学官のコンソーシアムを設立した。自らも研究室発で起業し、福島県南相馬市で量産を進めている。

野波健蔵(のなみ・けんぞう)
千葉大学大学院 工学研究科・工学部特別教授
1990年代半ばから、ドローンの研究開発に従事。2011年に、日本初の国産ドローンの製造に成功。2012年にはドローンに関する産学官のコンソーシアムを設立した。自らも研究室発で起業し、福島県南相馬市で量産を進めている。

牧浦:坂本さんにお聞きしたいのですが、ORSOの会社自体はドローンの会社ではないですよね。社内の中で、ドローンはひとつのプロジェクトのような立ち位置になるんでしょうか?

坂本:新規事業開発室で、事業として現在模索している段階です。僕は、興味があったらすぐ行動しちゃうタイプなので、Inspire(編集部注:360度撮影可能なドローン)を買ったことも黙っていました(笑)。やってみたいなと思った時にやりたいじゃないですか。社長が中心にやっているので、スピード感重視で模索している状況ですね。

坂本義親(さかもと・よしちか) 株式会社ORSO(オルソ) 代表取締役社長 大分県出身。2001年より国内、海外の数々の携帯電話関連サービスの開発に携わり、2014年7月から主にエンタメ用の映像作品の撮影、現場での性能調査目的でドローンを利用し始める。この半年で実施したフライトは1000フライトを超える。

坂本義親(さかもと・よしちか)
株式会社ORSO(オルソ) 代表取締役社長
大分県出身。2001年より国内、海外の数々の携帯電話関連サービスの開発に携わり、2014年7月から主にエンタメ用の映像作品の撮影、現場での性能調査目的でドローンを利用し始める。この半年で実施したフライトは1000フライトを超える。

ドローンを使おうとしたら、まずドローンの説明が要る

牧浦:坂本さんは、今はどちらかというとドローンによる撮影がメインの目的じゃないですか。これから別のカテゴリーに進出することもお考えですか?

坂本:まずは分かりやすい動画撮影を通じて、エンタメへの応用を模索している感じです。難しいのは、ドローンを使った撮影のお願いをして、どれくらいの方が分かるかってことなんですよ。

「ドローンによる撮影協力していただけますか? ドローンとは、4枚羽が付いていて、その羽が付いているものが10分くらい空を飛んで…」みたいな話をするんですが、想像がつきにくいものの説明をするのはなかなか大変です。

その辺も含め、協力してくださる方々に分かりやすい説明をするためにも、分かりやすいコンテンツが必要で、それが今は映像だということです。もちろん、今後いろいろと考えているところはありますね。

牧浦:最初の入り口としての映像撮影なんですね。

ソニーにおけるドローンの位置づけ

牧浦:北野さんにお聞きしたいのですが、ソニー全体の中で、ドローンの位置付けはどのような形になっているんですか?

北野:ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の方では、インタラクション研究の一部としてドローンを使っていて、ドローン自体の開発を行っているわけではありません。

面白かったのは、去年の秋ごろにNHKで「ソニーがドローン開発」というニュースが出たんですよ。どれくらい正確かは分からないですが、そうしたら翌日株価が上がったんですよ(笑)。あれはびっくりしましたね。それくらい期待が大きいのかなと。

多くの大企業がドローンに興味を持っていますが、大企業の問題点は、ある程度の大きな市場を見込めないと参入という判断がしにくいところにあります。だからこそ、ドローン市場ではベンチャーにチャンスがあると思う。大企業も、ベンチャーと組むような形でやっていかないと、迅速な展開ができないと思います。

ソニーのような大企業の中核事業とするのであれば「それは何千億円のビジネスになるんだ?」という話に展開しがちです。きっとドローンは、数千億円のビジネスになると思います。でも、そこまでの具体的なタイムラインを引くことはすぐにはできないので、このギャップは非常に大きい。

ここ2〜3年が勝負じゃないでしょうか。5年経ってしまうと、勢力図が見えてくると思います。

牧浦:ソニーの中から、スピンオフするベンチャーが出てくることはないんですか?

北野:ドローンの領域ではないですが、ソニーCSLがインキュベーションした事業で、「ソニー・グローバルエデュケーション株式会社」が4月1日に設立されます。このようなインキュベーションと、ドローンをやっている方々が、私たちのところで連動する可能性はありますよね。

私のところではネットワーク・セントリック、つまりネットワークを使って新しいサービスを作っていくというのが一つのテーマです。ドローンもネットワーク・セントリックなドローンになると思います。ラジコンを使って、見える範囲で飛ばすことも大事ですが、それをどうやってネットワークでつなげ、クラウド上で連動させるかが重要になります。

もうひとつ、5mから200mの空域制御の問題があります。2020年に、東京上空で1万台のドローンが飛ぶとしましょう。普通に操縦していたらぶつかっちゃうわけです。なので、オートパイロットと空域制御をちゃんとできないと、そういう世界は実現できません。そういったインフラまで考えて、大きな絵を考えていく必要があるでしょう。

(構成:荒川拓、撮影:Yuki Nobuhara)