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Jリーグ・データシンキング第1回

J1開幕における「走らなかったMFランキング」

2015/3/14
今季からJリーグは全選手を追尾できるシステムを導入して、走行距離やスプリント回数を測定できるようになった。ただし、単に数字を並べるだけだと、本質がノイズに埋もれてしまう。本連載ではデータをインフォグラフィックで表現することで、Jリーグの魅力をあぶり出す。

どのMFが一番走らなかったか?

走ったやつが偉い――。

一般的にサッカーでは、そんなイメージが根付いているだろう。実際、Jリーグの第1節後の報道では、兵藤慎剛(横浜Fマリノス、MF)が最も長い13.0kmを走り、2番目が前田遼一(FC東京、FW)の12.4kmだったことが話題になった。

だが、サッカーはそんな単純なものだろうか?

今回、データスタジアム株式会社の協力を得て、J1第1節における「走らなかったMF」ランキングを作成した。

90分出場したMF登録の選手に限定して、走行距離の短い順に並べてみた。

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このランキング上位には、試合中にポジションが変わった選手がいる。1位のダニルソン(名古屋グランパス)と2位の石原直樹(浦和レッズ)だ。

ダニルソンは開幕戦の後半途中から、闘莉王がFWに上がったことを受けてDFラインに入った。石原は後半開始から1トップに移った。この2人の走行距離が短くなったのは仕方がない部分がある。

それを考慮したうえでランキングを見ると、ある選手の“異色さ”が浮かび上がって来る。

川崎フロンターレの中村憲剛だ。

走行距離は90分出場したMFの中で7番目に短かった(距離が長い順で言えば49人中42位。走行距離の単位はすべてkm)。これだけ見ると、さぼっていたように感じられてしまう。

だが、パスに注目すると世界が一変する。

憲剛のパス総数は106本で、第1節の全選手の中でナンバーワンだった。日本代表の柴崎岳(51本)や遠藤保仁(52本)の約2倍もパスを出していたのだ。

当然ながら、パスを出すには、まずは味方からボールをもらわなければならない。パス受け数は93回で、やはりトップだ。無闇に動き回らなくても、うまくステップを踏み、かつ相手と駆け引きをすれば、ボールを引き出すことは可能なのである。

これだけゲームメイカーがボールを触ったのだから、川崎フロンターレが開幕戦で横浜F・マリノスに3対1で快勝したのもうなずける。

憲剛はスプリント数もごくわずかだ。森崎和幸(サンフレッチェ広島)の0本よりは多いが、3本しかなかった。

J1に導入された計測システムでは、時速24km/h以上で1秒間以上走ったときにスプリントと見なされる。スプリントの少なさからも、効率的に動いていたことがうかがえる。

ちなみにフロンターレのチーム内では、「憲剛さんのスプリントは、ゴールが決まったときに喜びの輪に加わるために走ったものだ」と冗談交じりに言われたそうだ。

確かにこの計測システムでは、ゴールの祝福など、アウトオブプレーの動きもトラッキングされている。範囲はピッチラインの外、+2〜3mまで含まれる。

そこでデータスタジアムに調べてもらったところ、憲剛の開幕戦におけるスプリントは前半20分、22分、40分に記録されたものだった。フロンターレは22分に小林悠がゴールを決めているが、その喜びの際に憲剛は近くにいてダッシュしておらず、3本とも通常のプレーと思われる(おそらく22分のスプリントは、相手のクリアボールを奪ったときの憲剛の素早い動き出し。その奪取が鋭い縦パスとなり、ゴールが生まれた)。

ただ、仲間がそんな冗談を思いつくほど、チームメイトにとっても憲剛は「うまく動いている」印象が強いのだろう。

サッカーにおいては、走行距離=貢献度ではない。

憲剛のプレースタイルが、日本サッカーの新たな可能性を示している。

データ提供:データスタジアム株式会社

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(文:木崎伸也/インフォグラフィック編集:櫻田潤)