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国内スタートアップ資金調達レポート雑感

国内スタートアップ資金調達レポート雑感

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村上 誠典
ファイナンスから見るスタートアップと経営村上 誠典

恒例のInitialのスタートアップファイナンスの半期レポートが間も無くリリースされるようで、その先行記事を読んだ。その雑感を簡単に記載しておこうと思う。

参照)Initailレポートより

総括

新設ファンド総額が7,176億円から2,168億円(半期)と半期換算で40%下落しているが、コロナ後の2020年以降のファンドだけでも2兆円以上のファンドが新設されていることになり、ドライパウダーも1兆円以上残っていると考えられる。これにPEファンドや機関投資家などエコシステム外の資金の流入の可能性も考えると投資余力が極めて大きい割に、ミドルレイトステージ以降の大型資金調達が大きく細っている「アンバランス」が現状を端的に表していると思われる。

シリーズC以降の調達額の中央値が3億円足らずであり、10億円以上調達した会社が1,226社中68社に留まる。全体の5%である。この5%の会社が全体の50%以上の金額を調達している。こういった傾向は以前から見られるが、市場環境が厳しくなる中、スタートアップの選別傾向がより顕著に見られるようになっていることも影響している。

資金調達額Top20のうち当方も株主や取締役として参画しているのは2社(アストロスケールとhacomono)に留まり、ここ数年で最も少ない社数になります。ロボットなどの研究開発型の資金も見られるため、グロースフェーズの資金としては全体の2/3程度でしょう。

加えて、評価額が500億円を超えている企業が7社、300億円を超えている企業が2社と、半数以上が300億円未満の評価額となっている。以前見られたような高いバリュエーションを活用した大型調達のトレンドは大きく影を顰めていることが見て取れる。

投資家側の論理だけで語られてしまっているが、スタートアップの立場に立ってみても、十分な評価額が得られない場合は、資金調達額を絞る方が妥当という判断もあり、コスト削減を進めキャッシュバーンを抑えることで足元の調達環境に合わせた動きをする企業が大半という事情もある。

ダウンラウンド件数が36件と全体件数の3%と極少数に見えるのは、無理して調達しない、既存投資家のフォロー投資など実態の実力値を測った数字とは言えない。加えて、2022年上期までに調達した資金がまだ底をついておらず、コストコントロールによりランウェイを2-3年に伸ばしているスタートアップも数多く見られることから、まだダウンラウンドの本格トレンドの前夜とも言える。それだけ上場市場と未上場市場のタイムラグが大きいということでもある。

フォローオンファンドの存在

2020年以降、立て続けに大手VCが大型のフォローオンファンド、もしくはそれを可能にする大型ファンドの設立を成功させた。市場が変調を起こす前に大きな資金をアーリーフェーズで存在感を示す大手VCが手に入れたことで、大手VCのポートフォリオでもあるスタートアップは大きな資金の後ろ盾を得たと言える。

フラット以上の評価額で新規投資家をリードとした資金調達が実施できる場合は別だが、既存リードで実施した場合は、評価額がフラットであったとしても、役員報酬を含め費用削減は大きく求め、次回アップラウンドでの資金調達もしくはIPOの蓋然性を高められるまでのラウンウェイを確保する資金政策とセットで、ディシプリンとコミットメントを経営陣に求める形で、追加の資金出資を行なったケースが一定数含まれるだろう。

これができるのも、事業進捗が一定順調な企業に限られると訳だが、十条市場の調整幅から考えると、実際の評価額がラウンラウンド相当であったケースも相応に含まれるだろう。

いずれにせよ、日本のスタートアップ・エコシステムは急速な拡大期であり、実力値以上の資金流入が良い気に起こった直後のタイミングであったことが、未上場ファイナンスの状況に大きな影響を与えたのは間違いない。

政府系資金の流入

岸田政権の5ヵ年計画でも明らかな通り、JICなど政府系の資金が大きく流れてきたタイミングでもあり、またそれに連動してメガバンクやSBIなど金融機関系の資金の拡大も明確なトレンドとして現れてきた。

それにより一定の進捗が見られるスタートアップにとっては、超大型の資金調達でなければ、一定の確率で数億円から10数億円の資金を集められる可能性が高まったとも言える。一方で、バリュエーションに対してはシビアな側面もあるため、前回ラウンドのバリュエーションが高くないスタートアップにとっては選択肢が拡大したと言え、前回バリュエーションが高かった場合は、ダウンラウンドを求められるケースも出てきたように思われる。

事業会社/CVCの裾野の拡大

事業会社やCVCにとっては、まだ市場は拡大期である。アーリーアダプターからレイトマジョリティに拡大する局面であり、新規にスタートアップ投資に参画した事業会社もまだ一生多く存在する。単なる資金量の拡大だけではなく、投資家候補先が拡大したことによって、事業連携など多様な戦略で調達するオプションは拡大したと思われる。

オープンイノベーションのプラクティスも少しずつではあるが進化しており、今回のレポートでも触れられている通り、事業会社資金がエコシステムの根底を支えている構造が改めて明確になったように思う。今後、テクノロジー関連やグローバル展開を狙うスタートアップが増えることが期待されていることもあり、事業会社との連携による大きな成果が出るかはここからが正念場と言える。

PEファンドという選択肢の多様化

GOはGS、エニトグループとSTORESはBain Capitalと、PEファンド系の大型資金に支えられているスタートアップも一定数存在する。PEファンドのリソースも無限ではないことから、これから数が一気に拡大する訳ではないにしても、大型資金が必要なスタートアップにとっては、ステークホルダーを増加させることなく、息の合った特定投資家と目線を合わせて、大きな価値創造を目指す選択肢は引き続き有力なものとなるはずだ。

PEファンドにとっては、ポストIPOスタートアップへのPIPESや非上場化、共同投資など、単純な未上場ラウンドへの参加以外のプレゼンスの高まりが期待されるため、より広域なスタートアップエコシステムの中で一定の存在感は示し続けることが想定される。とは言え、スタートアップ投資に対応できるPEファンドはまだ少数というのが実態でもあるため、事業進捗やタイミング、担当者との出会いなど一期一会な側面も大きいはずだ。

海外機関投資家

プレIPOやレイトステージで2019-2021年に一気に存在感を高めた、海外機関投資家であるが、今はゼロに近い活動量と言って良い。日本ではダウンラウンドの数が少ないため、追加投資も難しく、新規投資はリソース面含め尚更難しいというのが実態だと思われる。

一方で、少し早いフェーズの長期テーマへの投資は一定可能性があり、資金力のある大手VCと重なり大きいフェーズで、少なからず投資可能性は存在するように思う。ただ、メジャーなトレンドになるとは考えづらく、VCによるリード投資が難航する場合に、異なる投資家層としてアプローチしていくことはあり得るかもしれない。ただし、適正バリュエーションが前提となる。

IPO市場の影響は

IPO市場については別途の機会に投稿したいと思うが、直近の未上場ラウンドへの影響は意外と軽微なように思われる。というのも、大型ラウンドを行うスタートアップほど、今年前半のIPOを現実的な選択肢として検討していなかったためである。一方で、ようやくIPO市場がReOPENする雰囲気が出てきており、今後の未上場ラウンドにおいては、IPOの確度や評価額がより、シビアにテストされるようなケースが出てくると思うが、それはおそらく今年の後半から来年にかけて始まるイメージかと思われる。

M&Aは引き続きマイナーオプション

評価額が厳しいことから、本来であればファイナンス的にはM&Aが増えておかしくない環境ではあるが、実際はM&Aの増加は警備に留まっている。成長の確度を上げながら、資金調達環境に左右されないという大きなメリットは存在するわけだし、評価額が適正化された今のタイミングであれば、事業会社もリスクを取りやすくなっているはず。

にもかかわらず、M&Aがほとんど増加していないのは、それ以上に起業家のメンタリティとしてIPOを目指したい、M&Aはカッコ悪いという風潮が継続していることに加えて、冒頭に触れたドライパウダーがまだ拡大期にあり、まだ自らが主人となった城でIPOを目指せる資本政策が十分に可能であることにも影響する。

初期投資家であるVCが積極的にM&A Exitの選択肢を示したり、経営陣に迫ったりするシーンはまだ日本では殆ど見られない。起業家と投資家がもう少し一枚岩になって、拡大余地に向かうようなそんなカルチャーがもう少し根付いてこないと、M&Aの本格拡大は難しいだろうなと、昨今の市場環境を踏まえたデータを見ながらあらためて痛感しました。

最後に

いずれにせよ資金量が不足しているから成功できないという言い訳はエコシステム全体で使えなくなってきている。当方もスタートアップを通じた産業創出、社会価値創造を目指すコミットをしている立場でもあり、しっかりと今のエコシステムを最大限活用しながら、大きな成果を社会に示していけるように尽力していきたいと思う。


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コメント


注目のコメント

  • 村上 誠典
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    スタートアップ経営/シニフィアン共同代表

    Initialのレポートを見た際に雑感をまとめました。データ自体はレポート直接参照いただければですが、ちょっと長めのNewsPicksのコメントです。こちらか、もしくはトピックス内に質問やコメントお待ちしております。


  • 上原 仁
    株式会社マイネット 代表取締役社長

    ユニコーン候補の選別と評価額の適正化が進むにつれて増えるべきM&A Exitがまだ増えていない。ここを滑らかにするためのプレイヤー増や政策支援に期待。


  • Watanabe Hiroharu

    M&Aが増えないことを個人的には危惧しています。

    時価総額200億円を下回るような企業は、上場コストが重く、また、上場してもファイナンスの手段が限られてしまうので、より大きな企業の傘下に入って、オーバーヘッドを抑えつつ、販路や開発でレバレッジをかけて成長するほうが、企業価値が上がる可能性は高まります。創業者の得られる資産だって、100%売却するほうが、上場するより多いケースもかなりあると思います。

    人不足はこれから、さらに深刻化します。すべてのスタートアップに優秀な人材を供給できるほど、リソースはありません。Valuationの問題もあると思いますが、IPO以外のExitを真剣に検討する時代に入ったと思います。


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