1707【マスター】国交省インタビュー_20150309-01

「『白タク』に当たる可能性が高い」

国交省幹部が語る「Uberに行政指導を下した本当の理由」

2015/3/10
東京とは別のかたちで、2月5日より福岡で「みんなのUber」として題して検証プロジェクトを進めるUber(ウーバー)。実は2月27日に、行政指導が下されていたのだ。NewsPicks編集部では国土交通省自動車局旅客課寺田吉道課長にインタビューを行った。

ドライバーに報酬。「実験」の域を超えている

──なぜ行政指導を下したのか。

寺田:まず、福岡で行っている実験プロジェクトが「道路運送法」に触れるためだ。複数の問題点が見受けられた。まずは報酬の有無の点。実験プロジェクト自体、「無償」と説明されていたが、実質的には有償と考えられる。

ウーバー側としては顧客の移動や輸送自体への対価ではなく、それに関する「データの取得」に対して対価を支払うと主張しており、顧客からドライバーへの報酬の受け渡しはないとの説明だ。だが、会社からドライバーには報酬が支払われている。会社からであれ、顧客からであれ、実態として何らかの形でドライバーに報酬が支払われる場合にはその運送は「有償」に分類される。

その金額についても、無償の実験というのであれば、本当に無償か、実費としてガソリン代など最小限に留められるべきだ。しかし、実際に支払われた金額については週当たり数万円に上る場合もあるとのことだった。月額にするとこれはもはや「職業ドライバー」の水準と変わりない。“実験”の域を超えていると言わざるを得ない。

──要するに「白タク」に分類されるということか。

いわゆる「白タク」に当たる可能性が高いと判断した。また、現在は削除されているが、当初のドライバーの募集広告についてもあたかも自家用車で“稼げる”かのような文言があった。こうしたプロジェクト自体の形態も含め、ウーバー側の話を聞いたが、われわれとしては納得のいく説明は得られなかった。

──なぜ納得できなかったのか。

国交省としては、2月5日の実験開始時点から、ウーバー側に「きちんと法令を守っているのか」「どのような実験プロジェクトになっているのか」ということについて再三、説明を求めてきたが、なかなか返答は得られなかった。

開始の2日前の夜に初めて説明を受けたが一番最初は「無償」との説明だった。こちらから質問する中でドライバーにデータ取得の対価を払うとの説明があった。口頭の説明だったため実験内容の詳細についての資料を求めたが翌日にも提出がなく、重ねて求めていた。

ウーバー側から実験プロジェクトについての概要が示された契約書が提出されたのは2月の最終週。実験が始まってから半月以上が経過してからの事だった。加えて、契約書を確認したところ、問題と思える点が多々あった。

訴えるなら外国の裁判所に行くしかない

──問題と思える点とは具体的には。

たとえば実験に協力するドライバーや顧客とウーバーが交わした契約書。われわれはウーバーの日本法人であるUber Japan(ウーバージャパン)が契約主体だと思っていたが、契約書を確認するとドライバーの契約の相手方はウーバージャパンではなく、欧州のある国にあるウーバーの関連会社であった。また、顧客の契約の相手方も同じ国にある別の関連会社だった。

その上、管轄裁判所の指定を欧州のその国の裁判所にする内容になっていた。仮にこの実験プロジェクトで何らかのトラブルが起きて、訴訟を提起しようという場合、ドライバーや顧客はその国の裁判所などに訴えて現地の法律に基づいて裁判を行わなければならないことになる。

なぜ、ウーバージャパンが契約の相手方になっていないのか、なぜ、顧客とドライバーで契約の相手方が違うのか、なぜ、外国の裁判所に提訴先を限るよう契約書に盛り込まれているのか。こうしたわれわれの疑問について、納得のいく説明は受けていない。

ドライバーの保険についても曖昧なところが多かった。今回のような運送の形態で、通常の自家用車の保険契約のままで良いのかを保険会社に確認することが必要だと指摘した。ところがそれに関しても十分な確認がなされていない。自家用なのか業務用の車両なのか、それによっても保険料が変わってくる可能性もあるはずだ。

以上の点において、ウーバーに対して説明を促したが、納得できる対応や説明はなされていない。これではユーザーの安全性は保たれていないと考えざるを得ない。

ユーザーの安全性担保に疑問

──ではいったん、福岡でのプロジェクトは停止するのか。

われわれはそう求めている。

──国交省として取りうる措置は。

ウーバー側にはまず中止すべきと伝えているところだ。われわれは取り締まり機関ではないが、安全の確保を第一に考えており、強く是正を促している。現在のところ、ウーバー側として、まだ実験プロジェクトについて、是正措置は講じられてはいない。

──そもそも法令が古いという側面はないのか。

ユーザーの利便性や安全性を担保しつつも、いかに新しいテクノロジーやサービスを日本に根づかせるか、というのは課題であることは十分にわかる。しかし、結局、守るべきところは利用者の安全や、利便性の確保であり、本質的なところは変わらない。

今回、ウーバーに指摘した点も、新しい試みだから特別なことを求めたのではなく、契約関係や保険、報酬の支払いなどの、新しいとか古いとかには関係ない基本的な点だ。守るべきは、利用者だ。利用者に不都合なことがあってはいけないというところに最終的には行き着く。

法令改正しなくとも、サービスを行っている会社はある。たとえば別の外資系の会社の配車アプリが大阪でサービスを開始しているが、今回のような問題は起きていない。国内の他の配車アプリなども既存の枠組みの中でサービスを運営している。

──国交省としては配車サービスをどう見るのか。

配車アプリという新たなサービス自体は大歓迎だ。タクシー業界の大きな活力になることを期待している。ただ、安全の確保が大前提。国交省としては安全性と利便性を両立させるのが使命。ウーバーの今後の動きに注視している。

*NewsPicks編集部は寺田氏が指摘したこれらの事実について、現在、ウーバー側に確認を求めている。また、今後の福岡での実験プロジェクトについて、どのような指針を設けているのか、確認を行っている。ウーバージャパンから、返答があり次第、続報を報じる。