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3月第2週の注目ニュース(メディア・コンテンツ)

世界で最も攻めるメディア、「Vice」を率いるパンクな男

2015/3/10

今週のWeekly Briefingでは、以前も軽く取り上げた新興メディア「Vice」に関するニュースをピックアップする。

Pick 1:Viceを率いる男は、センシュアリスト(好色家)

Christopher Ross, “A Day in the Life of Vice Media’s Shane Smith” Wall Street Journal(2015年3月3日)

今、世界で最も攻めているメディアはどこか?

その筆頭に上がるのが、バズフィードとVice(ヴァイス)だろう。ただし、バイラルメディアとして名を馳せるバズフィードに比べ、Viceの全貌はちょっとわかりにくい。特に日本では、まだその存在感は薄い。

Viceとはどんなメディアなのか。その20年にわたる歴史を簡単に振り返ろう。
 図_viceの20年 (2)

1994年、スルーシュ・アルヴィ、シェーン・スミスが、カナダのモントリオールでフリーペーパー「ヴォイス・オブ・モントリオール」を創刊。これがViceの原点だ(1996年、Viceに改名)。

当初は、音楽、ドラッグカルチャーなどを中心に扱うパンク雑誌だったが、2000年半ばに“マルチメディア”へと脱皮。2006年には映像分野に進出し、TV業界での存在感も拡大した。

今日では、雑誌やウェブだけでなく、映像、映画、音楽を手がける、“新時代のメディア企業”に変貌。自社内にクリエイティブエージェンシーも抱えるなど、広告分野でも異彩を放っている。

今や36カ国に1500名の従業員を擁する、一大メディア企業となったVice。会社側の主張によると、2014年時点で売上高は5億ドル(利益率34%)に上り、2016年には売上高10億ドル(利益率50%)に達するという。想定時価総額は、25億ドルと算出している。

Viceが成功した3つの理由

単なるフリーマガジンだったViceは、なぜニューメディアの雄となれたのか。その理由は3つあると思う。

1つ目は、媒体に対する柔軟性。「紙」に縛られることなく、ウェブ、音楽、動画、TV、映画などマルチメディアにいち早く展開した。実際、Viceの収益源は、以下のように多岐にわたる。

・ライセンス収入(動画素材を世界中のTV局に販売)
 ・音楽レーベルからの収入
 ・映画
 ・雑誌
 ・広告(スポンサーコンテンツが中心)

他の伝統メディアを見てもわかるように、伝統メディアがマルチメディア展開するのは簡単なようで難しい。

(私も含めて)紙メディアの出身者は、コンテンツそのものではなく、「紙」自体を愛してしまう傾向がある。ただ、紙はあくまで情報を伝えるための“ハード”だ。

その点、Viceの戦略は至ってシンプル。とにかくいいコンテツを創り、とにかく多くの視聴者を獲得し、とにかく稼ぐ。この3つに力を入れるだけだと、CEOのスミスは語っている。コンテンツを多くの人に届けるためであれば、紙でも、TVでも、ウェブでも何でもいいという発想だ。

2つ目の理由は、広告に対する“偏見”のなさだ。

これはフリーペーパーという出自によるところが大きいだろう。当初、フリーペーパーで、編集記事と同じページ数の広告記事をこなしていたViceにとって、広告記事は“コア中のコアビジネス”だ。

一方、ジャーナリズムを売りにしてきた伝統的な報道機関では、どうしても広告に対する嫌悪感がある。編集チームが広告チームより偉いという感覚がはびこり、編集と広告のファイアーウォールが高くそびえ立つ。

Viceでは「Virtue」という名でクリエイティブエージェンシーを運営。2013年には、デジタルマーケティングを手がけるキャロット・クリエイティブを買収し、同社のトップをチーフ・デジタル・オフィサーに据えた。

同社の買収で、アプリ、ウェブ、ゲームなど多様な手段を用いて、スポンサーコンテンツを創るViceの能力はさらに高まった。Viceはすでに、インテル、グーグル、レッドブル、フォード、ジャガーなどそうそうたる企業をスポンサーに抱えており、スポンサーコンテンツが大きな収入源となっている。

最後の理由は、創業者であり、現CEOのスミスが体現する、パンクなスタイルだ。「顔は男の履歴書」とよく言うが、スミスは風貌自体がパンキッシュ。あたかもスナイパーのようである。

自らジャーナリストとして、北朝鮮、アフガニスタンなどに直撃取材。特攻隊長に続けとばかりに、Viceのジャーナリストは、他のメディアが怖気づくような取材も敢行する。イスラム国でのディープな潜入取材は世界中で話題を呼び、ケーブルテレビ局のHBOとともに制作した番組「Vice」のシーズン2は、テレビ界の最高の栄誉、エミー賞を受賞した。

Viceは日本版もすでにスタート。イスラム国に関する報道では、他社の追随を許さない。

Viceは日本版もすでにスタート。イスラム国に関する報道では、他社の追随を許さない。

自らを「センシュアリスト(好色家)」と呼ぶスミスは、プライベートも破天荒だ。今年2月には、ラスベガスでブラック・ジャックに10万ドルを投じ、見事に勝利。内輪の食事会では、実に30万ドル(約3600万円)を支払ったという

このエッジの立ったキャラクターは、Viceのリスクであるとともに、最強の差別化にもなっている。Viceのコンテンツは、特にミレニアル世代(1980年〜2000年生まれの世代)の心に刺さっており、それがメディアとしてのブランド力につながっている。

あるときはジャーナリスト、あるときは経営者として絶妙なバランスでViceの舵を取るスミス。次に彼は何を仕掛けるのか。スミス自体が、最高の取材対象だといえよう。

Pick 2:スミス、ワシントンへ向かう。「Vice」が政治分野にも進出

・Alex Thompson,“Vice Media C.E.O. Begins Move Into Washington by Meeting Senators” The New York Times(2015年3月5日)

Viceの影響力は日に日に拡大。政治家も、Viceを無視できなくなっている。

3月4日、スミスは、ワシントンを訪れ、数人の上院議員(ほぼすべてが民主党の議員)と面談した。Viceは来年、ワシントン支局を立ち上げ、大統領選のニュースをカバーすると発表しており、その地ならしとしてのワシントン訪問だ。

Viceはなぜ今、政治報道を拡大するのか。

その狙いのひとつは、メディアの保守・リベラルの分断にくさびを打ち込むことにある。米国での政治報道は、フォックス(保守)とMSNBC(リベラル)の二極化が進行。報道のバランスがゆがみ、国民の右と左の分断が深刻化している。

Viceに限らず、アメリカの新興メディアの特徴は、社会に対する問題意識が強い点だ。

新興メディアのひとつ、アップワーシーの創業者イーライ・パリサーも、「フィルターバブル(ネットの浸透により、人が自分の見たい情報しか見なくなり、社会が分断する)」を解決することが、起業の原動力となっている(パリサーの著書『閉じこもるインターネット』は必読だ)。

メディアは単なる土管になってしまうとつまらない。単なるビジネスになってしまうとつまらない。どこにもないメディアとして差別化するためにも、メディアには、そこにしかない世界観、哲学が必要だ。それがまわりまわって、ビジネスチャンスにつながることを、Viceの成功は示している。

Pick 3:「Vice」、女性向けメディアにも進出

Alexandra Steigrad、“Vice Media Hires Tracie Egan Morrissey to Head Broadly” WWD(2015年3月6日)

Viceが新たに参入するのは、政治報道だけではない。今春には、女性向けチャンネル「Broadly」を立ち上げる。

ここでもViceは、あくまでVice流をつらぬく。オリジナルなコンテンツを、ストーリー性あふれるドキュメンタリーなどで発信。分野は、政治、カルチャー、ライフスタイル、セックス、ファッションまで多岐にわたる。ターゲットは、Viceが十八番とする、ミレニアル世代である。

有名人女性などの一日を追う「A Day in the Life」、フェミニストがなぜフェミニストになったのかを探る「How (Blank) Found Feminism」、ハイファッション業界を深堀りする「Style and Error」などの番組が予定されている。

※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は、毎週火曜日に掲載する予定です。