正しく体を揺らすと健康になる

正しく体を揺らすと健康になる・連載第2回

なぜ肩が凝っても、もんではいけないのか?

2015/3/9
肩が凝ると、もんだりたたいたりするのが一般的だろう。だが、それは「水分を失った干からびた餅」を無理に変形させるようなものだ。操体法を極めた西本直が、「肩凝り」のからくりを解き明かす。
第1回:自分の寝姿を見たことがありますか?

そもそも肩凝りって何?

パソコンの普及によってデスクに向かう時間が長くなったことで、肩凝りに悩まされる人は増え続けているのではないでしょうか? 私もたまに1日中机に向かうと、何とも言えない不快感を肩から首にかけて覚えることがあります。

では、肩凝りという状態と、その不快感の実相はどういうものなのでしょう。

体は単純に言うと、骨の集合体である「骨格」を、「筋肉」という組織が収縮することによって動かしています。

ですから、筋肉が正しく収縮活動を行ってくれるためには、筋肉の細胞に「血液」を介して、外から取り込んだ酸素と栄養を届けてあげなければなりません。

それらを運んでくれるのが「血管」ということになります。

酸素と栄養をたっぷり含んだ「赤血球」のおかげで収縮が続けられ、柔軟性も維持されます。

もうお分かりですよね? デスクワークでは、動いているのはキーボードをたたく手先とだけという状態が続き、栄養が届かなくなってしまうのです。

背中を丸め同じ姿勢を長時間強いられた体は、筋肉の収縮がほとんど行われず、酸素も栄養も送られてこない状況が続きます。その結果、筋肉は硬直。硬くなった筋肉の間を通る血管は、血液のスムーズな循環を阻害するという悪循環に陥っていくのです。

1. 同じ姿勢を続けると、動きが制限されて筋肉の収縮がほとんど行われない

2. 酸素も栄養も送られてこない状況が続き、筋肉が硬直

3. 硬くなった筋肉が、さらに血液のスムーズな循環を阻害

4. この悪循環に陥り、強い痛みとして現れる

肩や首がそういう状況に陥ると、脳への血流も阻害され、肩凝りどころか頭痛や手先の感覚異常にもつながっていくのです。たかが肩凝りと油断していると、実は大変な結末が待っているかもしれません。

少し脅かしてしまいましたが、要するに肩凝りとは、肩周辺の筋肉に与えられたさまざまな方向や可動域への収縮活動が行われず、血流が阻害され筋肉が硬結してしまった状態と定義できるのです。

どうして痛いところをもんではいけないの?

それぞれ事情もあるでしょうから、血行が悪くならないように小まめに動けばいいのですが、仕事中はそういうわけにもいきません。

ではそうなってしまったとき、皆さんはどう対処しているでしょうか。

一般的な行為が、もむ・たたくという行為になると思います。

硬くなった筋肉なのだから、もんでほぐす。何か問題がありますか、と思われるでしょう。

硬くなっているという状態は、心臓から送られてきた酸素と栄養がたっぷり含まれた動脈血が、毛細血管から最終的に細胞組織に届かなくなってしまった状態です。

前回、体の60%は水分と言いましたが、極端に言うと、その水分が筋肉から失われ干からびてしまった状態です。

そんな状態になってしまっている筋肉の組織に鞭打つような、もんだりたたいたりという外力によって、本当に組織の血流が改善し、柔軟性を取り戻せるのでしょうか?

筋肉には外から加えられる圧力に対して、「内側から押し返そうとする力」が発生します。これは体の反応として避けて通ることはできません。

つきたてのお餅なら粉をまぶしてこねることで、どんな形にも変わってくれますが、干からびた餅は崩れてしまうだけです。

肩をもんで治るのは錯覚

なのになぜ、人は肩をもんだりたたいたりするのでしょう? その「錯覚」は以下のメカニズムで生まれます。

柔軟性を失い、痛みを伴った不快感がある筋肉に、外からの力で刺激を加え、それがもともと感じている痛み以上の強い刺激であるならば、人間の感覚として、新たに与えられた強い刺激の方を認識し、元々の痛みの感覚を隠してしまうことになります。

例えば、両手の平を前に出してもらい、片方をつねります。つねられた方は痛いですよね。その時すかさず反対側の手の平を思いっきりパチンとたたいたとします。「何をするんだ」と一瞬驚くと共に、そのたたかれた痛みを強く認識します。

その瞬間、最初につねられた方の痛みは、全く認識できなくなっているのです。

人間の感覚は、このように両手の平の痛みを、後からたたかれた方が7で、最初につねられた方が3になったなどという細かい認識ができないのです。

今この瞬間の感覚が優先されるのです。

何が言いたいのかというと、もんだりたたいたりという刺激は、肩が凝っているという不快感を、外からの強い刺激によって、一時的に認識できないようにしているだけとも言えるのです。

なおかつ、外から押されたことに対して反射的に内側から押し返そうとしますから、筋肉は元々の硬さ以上に硬くして、防御態勢を取るのです。これではほぐれるわけはありません。

そんなことはない、腕のいい施術者にかかれば上手にほぐしてもらえるよ、という意見ももちろんあるでしょうが、現実として体の反応はそういうことが起こっています。

一時的に消えたと思われた当初の痛みは、外から一時的に与えられた刺激が消えた後になって、さらに大きな痛みとなって認識されます。これがもみ返しという不快感を伴う現象です。

痛いところにさらに痛みを与えることは、何の解決策にもならないことを理解していただけたでしょうか。

では、肩が凝ったときにどうすればいいのか? それは今後の連載でじっくりと解説していきたいと思います。

※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。