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Chapter 2:ライフコース・ライフスタイルの変化

終活から逆算した残りの人生をイオンに託す

2015/3/9
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第二弾である「大前研一ビジネスジャーナル」(初版:2014年11月28日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。今回も前回に引き続き「ライフコースの変化」について分析する。
大前研一特別インタビュー(上):日本でイノベーションが生まれない理由は何か?(2/19)
大前研一特別インタビュー(下):イオニストは“低欲望社会”の被害者(2/23)
本編第1回:中流以下が8割超。「消費者」は過去10年で激変した(2/26)
本編第2回:正社員と非正社員、格差の拡大が止まらない理由(3/2)
本編第3回:パラサイト、パウチ、生涯独身…。多様化するライフコースの理想と現実(3/5)

家族の食事スタイルの変化

「家庭内の食事」について見てみましょう。図-13の左側のグラフ「家族全員が揃った夕食の割合」の推移を見てください。この割合がわずか30%です。しかも年々減ってきています。
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私は、こうした状況を「冷蔵庫のカフェテリア化」と呼んでいます。つまり、家族みんながバラバラに食事をすると、母親はいちいち面倒を見ていられません。従って、右側のグラフのようにカット野菜のようなものをたくさん買ってきて、簡単に調理して冷蔵庫に入れておく。さらに、チンすれば食べられるものや、レトルト食品も買っておく。すると子供が帰ってきて、台所でカフェテリアみたいにそれを自分でトレイに載せて、次に父親が帰ってきたらまた同じようにする。みんながカフェテリアのように食事をするわけです。

今、野菜を自分で切らない人が非常に多いです。リンゴの皮も自分でむかない人が多い。だからバナナが売れるわけです。バナナは皮をむく必要がありませんから。このように、今の家庭にはすぐに食べられる食材があふれています。チンする食品、レトルト食品、バナナ、あとはミルクでも飲んでいれば栄養は問題ないというわけです。

交通手段利用の変化

交通手段の利用スタイルも大きく変わってきています。図-14は、三大都市圏と地方都市圏における、1987年から2010年にかけての「代表交通手段分担率」の推移です。
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左側の三大都市圏のグラフを見ると、20~39歳以下の女性では、かつては自転車を利用する人が3割いたのですが2010年には18%に減少し、代わって鉄道を使用する人が増えています。

右側のグラフは地方都市圏ですが、こちらは自動車を利用する女性が増えています。逆に若い男性のほうは、三大都市圏、地方都市圏ともに自動車利用の比率が少しずつ下がってきています。女性の場合は、徒歩比率も自転車の比率も減少傾向にあります。

地方都市では、もともと公共交通機関(鉄道やバス)が非常に少ないので、昔も今も鉄道やバスの利用比率が低い。特に鉄道はますます赤字になって、さらに本数が少なくなってという悪循環で、完全に一般市民の足として活用されていません。一方、大都市では鉄道の比率が高く、特に女性の鉄道利用比率が高まっています。

車離れと、高まる「軽自動車」人気

次は「車」にフォーカスしてみます。若い男性は「車離れ」傾向にありますが、少し面白い現象が起こっています。男性の「軽自動車」へのシフトです。以前は女性ユーザーが中心だった軽自動車ですが、この軽が最近、男性にも広がっています。
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図-15の左側のグラフから分かるように、軽乗用車の購入者に占める男性比率が年々高まっており、2013年時点で43%にもなっています。特に大都市近郊エリアで軽自動車に乗る男性が増えている。彼らを「軽ボーイ」といいます。

スズキの軽乗用車「ハスラー」は、購入者の5割が男性。ダイハツの2人乗り軽オープンカー「コペン」の購入者はなんと8割が男性です。ダイハツの軽は、以前は運転席がクルッと回り、女性がスカートをはいていても乗りやすいような仕様になっていたのですが、今ではダイハツの軽に男性がたくさん乗るようになったわけです。

特に首都圏の場合、右側のグラフのように、埼玉、千葉、茨城、栃木、神奈川などで乗用車販売台数における軽自動車の比率が全国平均を上回っています。地方ではもともと軽に乗る人が多く、家によっては家族全員が1台ずつ軽を持っている、という感じでしたが、今は大都市近郊でも軽に乗る人が増えているのです。また、今までは普通自動車に乗っていた人が「しょうがない、軽に落とすか…」という時、「まあ、軽でもこの車だったら恥ずかしくないな」といえる車種が売れている、というわけです。

“イオニスト”というライフスタイル

次にイオンです。イオンモールというのは、都会ではあまり馴染みのない人も多いのですが、地方や都市郊外の生活者から人気を集める大型ショッピングセンターです。ただ、イオンモールはただのショッピングセンターではありません。イオンは友達や仲間同士が集まる場所、すなわち「集いの場所」であり、ここに集う人々は「イオニスト」と呼ばれています。
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駐車場が広くて来やすい、買い物はイオンカード、人生の節目である成人式、結婚式、葬式もイオンの系列に頼むことができる。週末のお出かけや子供の習い事もイオン。住宅ローンはイオン銀行。1カ月の支出の4割がイオン関連、という世帯もあります。こうしてイオンは消費者を、まとめてガサッと取れるわけです。

イオンに集まる人たちは、イオンというブランドがどうこうではなく、ただ、イオンモールのあのロケーションに惹かれてなんとなくやってくる。そしてプラプラしている間に友達と会ったり、そこで食べたり飲んだりします。何かあればイオンで会いましょう、というわけです。

図-16の右側のグラフは「イオニストのお気に入りの店」を示しています。衣料・服飾専門店では、ユニクロ、外食・ファストフード店ではマクドナルドの人気が群を抜いています。ここに挙がっている店を見ると、なるほど、という感じのところばかりです。

イオンは業界トップの約6兆円の売り上げですから、日本人1人当たり毎年6万円支出させているということになります。

「イオンの葬儀」と“なげやり消費”

このイオンのビジネスの中で最も注目すべきは、“終活”関連のサービス「イオンのお葬式」です。図-17を見てください。左側が「各地域の平均葬儀費用」ですが、全国平均は約200万円です。ところが、「イオンのお葬式」にすれば、右側のように100万円から200万円のコストダウンができるのです。
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お年寄りに「なんでこんなに貯金するの?」と訊くと、「それは、いざという時のためだよ」と答える人が多い。よく、葬式代くらいは自分で出したいと言いますが、日本人が頭の中でイメージする葬式代は、だいたい500万円です。従って、最低500万円の葬式代を子供に残しておくわけです。

ところが、父親が突然亡くなった時に子供が葬儀屋に頼むと200万円だと言われる。すると子供の懐には300万円が残る計算になります。そして、実は、複数の葬儀屋から見積もりを取るともっと安くなり、200万円の大体3分の1の金額になります。イオンはそこに着目して、最初から3分の1の金額にしました。これが「イオンのお葬式」です。一番高い「セットプラン家族葬80」というプランが69.8万円です。一番安いプランは、火葬だけですが20万円程度でやってくれます。

こうして、父親が蓄えていた500万円から70万円を引くと、430万円が浮くわけです。この430万円で贅沢旅行、例えば豪華寝台列車“ななつ星”(ななつ星in九州)の旅に余裕で2回行けるわけです。

こうした終活・葬儀ビジネスというのは、日本全体で見ると、葬式、墓、△回忌の法要と全部足して4兆円の市場です。これは日本で最後の成長産業と言われていますが、シニア層の終活消費が活発化する現象、私はこれを「なげやり消費」と名付けました。「冥土の土産だ」とばかりに、ななつ星や豪華客船のクルーズなどに出費するわけです。なげやりと言ったら失礼ですので、計算ずくの消費と言ってもいいかもしれません。

これからの企業は、特にシニア層を対象としたビジネスを行う企業は、イオンのように消費者側のバランスシートを見ながら、きめ細かくカウンセリングしてあげることが重要になってくると思います。

終活のキーワードは「安心、納得、楽しみ」

終活関連のサービスは非常に大きなマーケットを持っているという話をしましたが、日本人は世界でもまれに見る規模の資産を持っています。
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それは年金と貯蓄と保険で、3つは重複しています。スウェーデンでは、最後は政府が全部面倒を見てくれるので国民は貯金しませんが、日本人は政府を信用していないので、皆いざという時のためにお金を貯め込んでいます。ですから、図-18のように、高齢者に安心・納得させて残りの人生を楽しませ、お金を使わせることができれば、そこに大きな消費が生まれるわけです。

【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.4開催)を基にgood.book編集部にて編集】

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。

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