SPORTS-INNOVATION

NBAから学ぶデータ活用法

変革を感じさせてくれるところに人は集まる

2015/3/6
2月26日、日本大学三崎町キャンパスにおいて、一般社団法人・日本スポーツアナリスト協会主催、第1回JSAA OPEN SEMINAR「バスケットボールにおけるIT×データの今と未来」が開催された。本連載の著者、馬場渉(SAP、Chief Innovation Officer)も登壇してパネルディスカッションを行なった。今回は馬場のイベントでの発言を紹介する。
左から尺野将太氏(日本バスケットボール協会・女子日本代表チームテクニカルスタッフ)、斎藤千尋氏(バスケットボールライター)、馬場渉、千葉洋平氏(一般社団法人日本スポーツアナリスト協会・理事)。(写真:Shinya Kizaki)

左から尺野将太氏(日本バスケットボール協会・女子日本代表チームテクニカルスタッフ)、斎藤千尋氏(バスケットボールライター)、馬場渉、千葉洋平氏(一般社団法人日本スポーツアナリスト協会・理事)。(写真:Shinya Kizaki)

フェラーリはあえて造れるのに造らない

バスケットボール界でデータ革命が起きたのは約2年前のことだ。

2013年2月、SAPの技術提供により、蓄積された統計データをstats.nba.com上で即座に解析できるようになった。これがデータマニアを惹きつけ、ソーシャルメディアで大拡散する。そして2014年11月、コート上の全選手をトラッキングする『SportVU』(スポーツビュー)が導入され、ついにリアルタイム分析の時代に突入した。

位置情報が得られるようになり、例えばシュートひとつ取っても、相手に囲まれて打ったのか、フリーで打ったのかを区別できるようになった。それによって、より優れた選手を浮き彫りにできるようになった。

現在、日本のバスケットボールの世界ランキングは、男子が47位で女子が15位だ。

最先端のデータを、どう利用すれば日本のバスケは世界に近づけるのだろう?

馬場は「バスケは素人ですが」と前置きして口を開いた。

「そもそもの大前提としてスポーツでもビジネスでも、すべての要素を強くすることはできません。全方位で強くなるのは無理です。

例えばフェラーリはプレミアム価格を維持するために、消費者の欲を刺激し続けるために、台数をコントロールしています。年間7000台くらいでしょうか。造れるのに造らない。売れるのに売らないんです。そんな彼らにとっては、年間1千万台を造るTPS(トヨタ・プロダクション・システム)が競争力の源泉になるわけではありません。

ハーレーダビッドソンも同じです。彼らのコンセプトは、アメリカ文化の象徴である自由です。だからひとつの型を量産するのではなく、2000種類くらいのカスタムメイドを提供している。となると管理すべきは、いかにカスタマイゼーションを効率化するかです。

話をまとめると、強くするポイントを選定することが大事ということです。

自分たちが勝てるところを見極めて、その勝てるところを徹底的に良くする。他のパフォーマンスは上がらなくてもいいから、良くすれば絶対に勝てるという部分を強くしていく。そこがポイントになると思います」

データには人間的な納得感が大事

「強みの見極め」の重要性を説いたうえで、馬場は本題であるデータ分析に話を進めた。

「そうやって見極めた強みを、どうやって選手にわかってもらうのか? そのときに生かすべきなのがデータです。これをやれば勝てるという理屈を、数字で示すことができるからです。

当然、数字だったら何でもいいわけではありません。データには納得感が大事です。企業でも同じですけど、人間的な納得感を軽視するから反発を受けるわけです。英雄のチャールズ・バークレーが『データは彼女がいないオタクのもの』といった主旨の発言をしたそうですが、気持ちがわからないでもありません。

それに関しては、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが抜群にうまいと思います。岡田さんは監督のとき、サッカーの失点の割合を分析したそうです。すると約40%がセットプレー、約10%がミス、約10%が普段から練習しているようなきれいな攻撃の形、そして残り40%がカウンターだったそうです。

ならばカウンターを食らわないように、相手のFWに2人マークをつければ失点が減るんじゃないかと考えた。実際、FWの前と後ろにマークをつけたら、失点が一気に減ったそうです。岡田さんは理詰めで納得させるのが、ものすごく得意な監督です。

どこに資源、リソースを集中させるか。ハイテクっぽくないことを言って申し訳ないですけど、そういうことなのかなと思います」

膨大なデータがあれば、プレーの文脈を見出せる

「次にハイテクっぽいことも言うと、『SportVU』が導入されれば、プレーの『文脈』が見えてくるようになります。

例えばリバウンドを12回取ったというデータを見ても、難易度がどうだったかはわかりません。ひょっとしたら、全て相手がいない状況だったかもしれません。しかし位置情報がわかれば、1メートル四方に相手がいた場合に何回成功して、何回失敗したかがわかります。

ポジショニングが良かったのか、ボディコンタクトが良かったのか、文脈、コンテキストが見えてくる。そうすれば、どんな練習をすればいいかもわかってきます。

効果が小さい練習をしても無駄です。限られたリソース、限られた集中力を考えたときに、何を練習すべきなのか。こうやったらこの数字が上がるという文脈がわかれば、練習のポイントがはっきりします」

変革を感じさせてくれるところに人は集まる

普通に考えれば、日本のバスケットボール界に『SportVU』を導入するのは簡単ではない。ひとつの会場に設置するのに1000万円以上かかると言われているからだ。

だが、馬場はこう反論した。

「2014年2月にNBAのコミッショナーに就任したアダム・シルバーの発言を見ていると、常にテクノロジーを全面に押し出していることがわかります。SAPとのカンファレンスだけかなと思ったんですが、他のときもデジタルとテクノロジーで、プレーのパフォーマンスとファンエンゲージメントを変えると言っている。

NBAは他のスポーツと比べると、若いファンが多い。MLBは平均年齢55、6歳なのに対して、NBAは半分以上が35歳以下。平均で38、9歳。だからデジタルのサイトがあるとハマりやすい。ファンにデータを提供するようになって、ユニークビジターが倍になり、放映権は3倍になった。9年で約3兆円ですからね。アメフト並になりました。

やっぱりビジョンとリーダーシップですよ。そうすると我々のようなテクノロジーベンダーが寄ってくるんです。あのコミッショナーはテクノロジーに力を入れようとしている、だったらちょっと頑張っちゃおうかなと。

2月に岡田さんが愛媛県今治市でFC今治の会見をやりましたが、人が集まるわけですよ。変革を感じさせてくれるところに、人は集まる。『SportVU』を入れるにはいくらかかるという発想ではなく、先にアドバンスなことをやると人も金も集まると思います」

試合がない日に、いかにリーグのコンテンツに触れてもらうか

馬場は最後に、日本におけるスポーツのリーグに新たなビジネスの提案をした。

「リーグとしては、いかにデータをファンエンゲージメントに使うかが大事だと思います。スタジアムに来ない人たちに対して、どうやって見たいという欲求を上げさせるか。試合がない日に、どれだけリーグのコンテンツに触れ合ってもらえるか。やっぱりプロスポーツは、ファンですよ。

日本にとってアドバンテージになるのは、アメリカと違って、放映権に関して失うものがないことです。まだ日本には、お金を払ってスポーツ中継を見る文化が浸透していませんよね? ある意味、それはチャンスです。アメリカは数千億円で放映権を売っているから、TV局を敵にまわせない。でも日本の場合、極端に言えば、TV局を敵にまわせるんですよ。

スポーツの価値って、ライブですよね。TVってライブプラットフォームとして優秀かと言えば、家に帰らないと見られないわけで、スマートフォンの方がよっぽどライブプラットフォームとしては優れている。

だったらTV局にコンテンツを流すのを止めて、デジタルのオンラインのプラットフォームに売ってもいい。それがアメリカではできなくても、日本ならできるんです」

協力:一般社団法人 日本スポーツアナリスト協会

(構成:木崎伸也)

※本連載は毎週金曜日に掲載する予定です。