2023/6/29

“市場創出企業”が見据える、ビジネスで創る循環型社会

News Picks Brand Design Senior Editor
 多くの企業が、ビジネスと循環型社会の実現の両立を模索するようになり、10年近くが経とうとしている。
“循環型社会の実現”という掛け声が、社会のそこかしこから聞こえるようになったものの、社会全体で見るとサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現は道半ばだ。
 そんななか、新たに社会に対して提言を掲げているのが、40年近くにわたってBtoB領域で二次流通市場(リユース市場) を創出してきたオークネットだ。
 これまで数多くの商材を通じて培ってきた二次流通のノウハウを生かし、「新品の売上を損なわずに二次流通品を循環させる仕組み」を通じ、「サーキュラーコマース」の実現に向けて取り組んでいるという。
 商品流通を通じて、ビジネスと環境負荷の低減を両立することは可能なのか。企業戦略として、どういった利点があるのか。
 中古車、中古バイク、花き、ブランド品、中古デジタル機器、中古医療機器など、数々の商材の二次流通市場をデザインしてきたオークネットの藤崎慎一郎CEOと、経営学者の楠木建氏に、二次流通市場の可能性や、マーケットデザインを起点にした競争戦略について語ってもらった。
藤崎慎一郎氏:1975年生まれ、東京都出身。オークランド工科大学経営学修士。2011年オークネット入社、2019年専務執行役員、2020年代表取締役社長(COO)、2023年より現職。

楠木建氏:1964年生まれ、東京都出身。専門は競争戦略。企業が競争優位を構築する論理について研究をしている。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、一橋ビジネススクール教授を経て、2023年より現職。
藤崎 マーケットデザインとは経済学の用語で、ゲーム理論を応用し、現実の社会・市場制度を設計することです。
 マーケットデザインの手法としては、人と人、人とモノを最適に組み合わせる「マッチング理論」や、お金のやりとりを含めた「オークション理論」などがよく知られていると思います。
 商材や流通形態によって、最適な市場のあり方は異なります。
 より活発な値付けが行われるにはどのような形式にしたらよいか、オークネットでは経済学のプロフェッショナルと協力しながら、最適な市場の形を模索しています。
楠木 市場のデザインそのものを事業にするという考え方は非常に興味深いです。
 市場の非効率な状態を解消し、最適化できれば、市場原理が働きやすくなるので、商材はより適切な価格で効率的に取引されるようになります。
 社会に与えるインパクトも、ビジネスとしての可能性も大きいのではないでしょうか。
藤崎 おっしゃる通りです。
 オークネットは創業以来、さまざまな商材で、中古品(リユース品) の流通市場を創出してきました。二次流通市場をデザインするためのノウハウは、かなり蓄積してきたと自負しています。
 これまでは個別商材に対して”信頼される市場をデザインする”という考え方で、ある商材で得たノウハウを、いかに他の商材のマーケットデザインに生かすかという事業展開をしてきました。
 こうした長年の蓄積の上に、今年、私たちは「マーケットデザインで価値をつなげる。」という新たなミッションステートメントを設定しました。
 循環型社会を目指すなかで、すでに私たちが培ってきた二次流通のノウハウを、一次流通事業者、メーカーや公的機関などとも協力しながら、さまざまな商材、市場に展開していく。
 それによってサーキュラーエコノミーを実現していきます。

オークネットが取り組んできたマーケットデザイン

楠木 これまで、数多くの商材を扱ってきたとのことですが、新たな二次流通市場をデザインするうえで大切にしていることは何ですか。
藤崎 効率的な二次流通市場を形成させるには、流通の阻害要因を解消することが重要です。
 商材によって流通のネックとなる要因が異なります。
 例えば中古車の場合、実物の状態確認がネックになって、全国各地のオークション会場に売り手と買い手が集まって、現物の中古車を目の前にして売買をするという光景が当たり前でした。
 中古車は高額なうえ、ふたつとして同じ状態のものがなく、その品質もバラつきやすい。そのため、会場まで現物商品を見に行き、各自が状態評価をしたうえで取引するしかなかったのです。
 そこで私たちは、車両の状態を点数で評価する独自の品質評価基準を作り、その車両検査を専門に行う子会社AISを設立し、品質情報を提供できるようにしました。
 外装や内装を324項目から判定し、加えて走行距離や修復歴も事細かにチェックし、評価点で表します。
 参加者の代わりに車両の状態評価を行い、それを伝えることで、参加者は現物を見ずに車両を購入することが可能になりました。
楠木 中古車のように商材自体の価格が大きいと、買い手からしても、売り手からしても、明確な検査基準で評価してもらえる安心感は大きいですね。
藤崎 中古車以外の各事業も考え方は一緒で、中古デジタル機器などの場合は、”機器内のデータ流出が怖い”という売り手の不安が流通のネックでしたが、データ消去を厳格に行うソフトウェアを提供している企業の協力によって、問題を解決しました。
港区・北青山にあるオークネット本社の一室。総勢3万5000社以上もの会員企業が売買を行い、競り値が更新されている。
 こうした市場環境の整備・創出を通じて、信頼される二次流通のマーケットを育てるというイメージです。
楠木 商材ごとにある流通のボトルネックを見つけて、外してあげるのですね。
 そして、最適な価格決定のシステムを提供している。
 仕組みを構築して稼ぐという、理想的なビジネスモデルになっているのではないでしょうか。
藤崎 売り手にとっても買い手にとっても使い勝手の良いマーケットをデザインしてきたからこそ、中古車、中古バイク、花き、ブランド品、中古デジタル機器、中古医療機器など、さまざまな市場の創出に成功してきました。
 また、「マーケットデザインのトップランナー」として評価があるからこそ、ビジネスを進めようというビジネスパートナーとの関係性が生まれていると思いますね。

メーカーと“一緒に”二次流通市場をデザインする

楠木 “マーケットデザイン”という戦略の背景には、検査システムやオークションシステム、人的ネットワークといった蓄積があるのですね。
 これほどまでノウハウが構築されていると、他社が後から追随するのはかなり難しい。
 競争戦略上、かなり有利なポジションを築き上げていると言えそうです。
 今後、「マーケットデザインで価値をつなげる。」という新たなミッションステートメントに基づいて、どのような事業展開を考えていらっしゃるのでしょうか。
藤崎 新しい二次流通市場の育成を、一次流通事業者(いわゆるメーカー・小売り)や、さらに国や地方自治体などと組んで拡大していきたいと考えています。
楠木 新品を扱う企業に、リユース品を扱う二次流通市場への関与を促すような形になるんでしょうか。
藤崎 その通りです。
オークションの場を商材ごとに提供するだけでなく、各業界のメーカーなどと協力関係を構築し、二次流通品を一緒に扱っていく、デザインしていくという仕組みです。
通常、二次流通の商品は、「CtoBtoBtoC」という流れで進んでいきます。
そのなかで、我々はこれまで「BtoB」の市場を主に作ってきました。
私たちはこれから「CtoBtoBtoC」という流通全体の仕組みそのものを各業界、各企業に提供していきたいと思っています。
「新品が売れなくなるのではないか」という声もありますが、顧客の関係性が向上する事でむしろ新品の販売増にもつながるという評価を得られており、また単価の高い商材に限らず、最近は幅広い価格帯の商品を展開している企業からもお声かけをいただいています。
 二次流通市場が整備されて、ちゃんとしたリセールバリューが付くようになれば、新品も売れるようになります。
 それにサステナビリティの観点から、企業のブランド価値の向上にもつながる。
 さまざまな商材を扱ってきたからこそ、検品や検査、販路といったロジスティクスまわりを総合的にご提案できます。
 こうした仕組みが広まれば、メーカーと消費者の相互メリットを確立しつつ、サーキュラーエコノミーの実現に近づくことになります。

循環型社会を支えるインフラ企業へ

楠木 消費者視点で見ると、エシカルな消費につながるという点では魅力的な事業ですよね。
 企業側から見ると、すでに環境負荷などに配慮し、サーキュラーエコノミーの実現に向けて具体的にアクションをしなければならない時代になっているものの、明確なソリューションが見当たらない。
 ビジネスと循環型社会の実現という両輪を達成する方法を模索している状態なわけです。
 そうしたなかで、これまで数多くの二次流通市場をデザインしてきたオークネットが、二次流通市場のインフラを目指すという戦略は、かなりオリジナリティがありますし、野心的な試みだと思います。
 それに競争戦略にとって大事な「ストーリーの一貫性」もあります。
 今や多くの企業が「循環型社会の実現」を謳っていますが、中には違和感や無理のある説明も多いですよね。
 しかし、オークネットに関しては、これまでやってきた事業の思想やノウハウと、これから目指す事業戦略の一貫性が高い。ストーリーが一貫しているというのは、言い換えれば「因果論理の蓋然性が高い」ということです。
戦略の一貫性の先に組み上がった「CtoBtoBtoC」がどういう姿になるのか、楽しみです。
藤崎 商品流通全体を心臓にたとえると、新品を扱う一次流通が動脈で、リユース品を扱う二次流通が静脈に当たります。
 これまでは社会全体で見た時に、動脈の方が圧倒的に太かった。
 この歪な構造を変えるためのソリューションが、私たちにはあります。
「マーケットデザイン」を通じて静脈部分を育てていく、そのためにあらゆる市場・企業と手を組んで、新たな循環型マーケットをデザインし続けることが、私たちの今後のミッションだと考えています。