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あるスタートアップが、5億ドル以上の賭けをしようとしている。人々を驚嘆させる3D映像を生み出すという賭けだ。実現の見込みは1〜3年後だという。その真相に迫る記事を3日連続で掲載する。

モンスターを引き寄せる

図体が大きく、4本の腕と、曲がりくねった角を持ち、私の前で円を描きながらドタドタと歩いている青いモンスター。そんなものが存在しないことは分かっているのだが、どうしてもそこにいるようにしか見えない。

すべての壁が白い部屋の中で、私は作業台に向かって座っている。ここは、フロリダ州デイニアビーチにある、秘密主義のスタートアップ「マジック・リープ」のオフィスだ。私は目を大きく見開き、左右一組のレンズを通してモンスターを見つめている。このレンズは、私の頭上にそびえ立つ金属製の足場のようなものに取り付けられており、その中にはさらに多数の電子装置やレンズが収まっている。

これは、マジック・リープの「シネマティック・リアリティ・テクノロジー」の初期プロトタイプだ。荒々しい表情の筋骨たくましいモンスターが実際に同じ部屋の中にいて、2組の腕を振り回しながら目の前2mほどのところで宙に浮いていると、私に思い込ませた仕掛けの正体だ。

このモンスターは、ある一定の距離から見えるだけではない。私の手中には、このデモ装置に接続されたゲームコントローラーがあり、ボタンを押すと、モンスターの拡大や縮小、左右への移動、あるいは手前に近づけたり、はるか遠くへ押しやったりすることができる。

もちろん私は、このモンスターをできるだけ近くまで引き寄せてみた。間近に見たとき、どのくらいリアルに見えるかを知りたかったからだ。今やモンスターは、私の眼球から50cmと少々のところにいる。全体の大きさはポケットサイズにしてあったが、それでもなお、ザラついた肌、筋骨隆々たる手足、奥まったところでキラキラ輝く小さな丸い目といった特徴はひと通り持ち合わせていて、いかにもモンスターらしく見える。

手を差し出して、その上を歩かせてみようとしたとき、私は小さな足に踏まれる感触を予想して、本当に手のひらにむずがゆさを感じた。だが、ほんの一瞬の間を置いて、私の脳は、これが自分の目の前の現実空間に映し出された、見事なまでに説得力のある3D映像にすぎないことを思い出した。私は苦笑するしかなかった。

マジック・リープ本社の休憩エリアには仮想スクリーンがあり、ミュージシャンのセイント・ビンセントのビデオが浮かび上がる。

マジック・リープ本社の休憩エリアには仮想スクリーンがあり、ミュージシャンのセイント・ビンセントのビデオが浮かび上がる。

改良が進み始める立体視3D

映画やスマートフォン・アプリ、ガジェットに使われる仮想現実や拡張現実は、過剰なまでに宣伝されているものの、これまでの技術は、いかにも安っぽく見える映像しか提供できず、期待を裏切ることが多い。その主な理由は、最もよく用いられる立体視(ステレオスコピック)3Dの手法が、普通の物の見方に働きかけるのではなく、基本的には人間の視覚をだますことで成り立っている点にある。

立体視では、同じ物体をわずかに違う角度から撮影した2つの映像を、左右の目にそれぞれ1つずつ見せることで、奥行きの感覚を生み出す。ただ、この方式では、ある程度離れた場所にある平らなスクリーンと、目の前で動いているように見える映像の両方を同時に見ることを強いられるため、見る人がめまいを感じたり、ひどい場合には頭痛や吐き気を催すこともある。

近年は立体視3Dも、確かに改良が進み始めた。いまのところ、普通に購入できる製品の中で最良のシステムは、Oculus VR(オキュラスVR)が199ドルで販売している「Gear VR」だ(同社は2014年春、20億ドルでフェイスブックに買収された)。主にソフトウエア開発者をターゲットとしたこの製品は、サムスンとの協力によって作られたもので、サムスンのスマートフォンをヘッドセットに差し込んで、ゲームをしたりビデオを見たりする。

現実と空想の融合

アボビッツは言う。自分と会社のスタッフは、「心のなかにいる11歳の子ども」を驚かせたいのだ、と。

だが、オキュラスがユーザーを、ゲームや楽しみのために仮想世界へ連れて行こうとするのに対し、マジック・リープが望むのは、そうした楽しさとゲームを、われわれがいるこの世界の中へと持ち込むことだ。

そして、空想のモンスターを、現実の鉛筆と一緒にデスク上に登場させるために、マジック・リープは立体視3Dに代わるもの、つまり、人が普通に物を見るあり方を阻害しないような手法を探す必要があった。そこで同社が開発したのが、両目に直接光を送り込む、とても小さなプロジェクターだ。同社の技術は、この光と、見る人が外界から受け取る光を、きわめて巧みに調和させている。

モンスターやロボット、死体標本の頭部など、鮮明にレンダリングされたイメージを見ていった私は、このシステムはそのうちに、遠く離れた家族と、相手が本当に自分のいるリビングルームで座っているかのようなビデオチャットを実現するだろうと、心に思い描くことができた。相手側でも、まるでその場に私が座っているように見えるものだ。

バーチャルなツアーガイドを伴ってニューヨークの街を歩きながら、そこにある建物の各面に、かつてはどういう外見だったかを教えてくれるイメージを、オーバーレイで投影してもらうという体験も面白そうだ。

あるいは、映画を観ているとき、物語の展開についていけるように、自分の前に文字が表示されるのも便利だろう。しかし、マジック・リープがいったい何に最適なのか、本当のところはまだ誰にも分からない。それでも、同社がこの技術を、クールなだけではなく、快適で使いやすいものにできれば、素晴らしい応用法が次々と考え出されるに違いない。

上:医療または教育分野におけるデモンストレーションの例。角度を変えながら、死体標本頭部の切断面を示すことができる。 下:実在しないロボットが、本物の手の上に立っているように見える。

上:医療または教育分野におけるデモンストレーションの例。角度を変えながら、死体標本頭部の切断面を示すことができる。
下:実在しないロボットが、本物の手の上に立っているように見える。

グーグル、多額の投資

マジック・リープが2014年10月に行った資金調達ラウンドで、グーグルが5億4200万ドルという驚くべき額の投資を主導した理由は明確だ。マジック・リープがやろうとしていることは、それが何であれ、コンピュータ関連の次の「目玉」のひとつになる可能性が十分にあり、グーグルとしては、それを取り逃がすリスクは犯せないのだ。

そして2015年1月、この投資が、まるで未来を予見していたかのように思い起こされる出来事があった。マイクロソフトが、見た目もスマートなヘッドセット「ホロレンズ」を年内にリリースする計画を明らかにしたのだ。同社のホロレンズは、3Dホログラムを双方向操作できるという新製品で、マジック・リープが取り組んでいるものとよく似ている模様だ。

※続きは明日掲載します。

原文:Magic Leap(English)

(原文筆者:Rachel Metz、翻訳:水書健司、合原弘子/ガリレオ、写真:Magic Leap/TEDx)