解読吉田調書 (1)

【第2回】解読「吉田調書」

シンポジウム「調書が明かす福島原発危機の真実」

2015/3/3
2015年2月4日、慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所(竹中平蔵所長)と共催で、シンポジウム「吉田昌郎の遺言―調書が明かす福島原発危機の真実」を開催した。同シンポジウムは、これまであまり表に出てこなかった「原発危機に対する若い世代の見方や考え」を知ることを目的としており、同大学の学生約20人とパネリストが危機対応に関する活発なディスカッションを行った。
第1回:日本人は「吉田調書」からどんな教訓を学ぶべきか

 解読吉田調書_シンポジウム

先鞭をつけた民間事故調の検証

竹中:皆さん、こんにちは。グローバルセキュリティ研究所の竹中平蔵です。今日は、船橋洋一さんはじめ日本再建イニシアティブの方々をパネリストに迎えて、そして学生さんたちと一緒に、「吉田調書に見る福島危機」というこのような催しを持てますことを大変うれしく思っています。

グローバルセキュリティ研究所というのは幾つもの幅広い研究をやってるんですけれども、特に近年、検証するということに大変重きを置いて運営しています。

検証、英語で言えばinvestigation and verificationということになると思いますが、いわゆる成熟した市民社会ではいろんな物事が起こったときに、特に政策の観点から、一体何が悪かったのか、何がよかったのか、それを今後どのように反映していくかということを真摯に議論する、そういう検証という作業を行うということが定着してきたと思います。

しかし、残念ながら日本ではそういう検証という作業が十分に行われなくて、例えばですけども、今でもバブル経済ってなぜ生じたのか、どこに責任があったのか、バブルの崩壊後、日本経済がこんなに長期にわたって低迷したのはなぜなのか、そういう検証が十分行われてきませんでした。

そういう中で、2011年の3.11の福島第一原発の事故に関して初めて、これは日本の政策史上初めてだと思いますけれども、その検証が行われました。

実は政府と国会と民間と三つの検証が行われたんですが、先鞭を切ったのが船橋さんをはじめとするこのグループの民間事故調であって、その民間事故調というのは特別の権限を与えられているわけではないんですけれども、そういう中で非常にすばらしい成果を残して、大きな政策の歴史の中に記したと思います。

吉田調書をフォローアップする

しかし、今日こういう場を持つというのは、さらに加えて幾つかの意味があると思います。検証というのは、フォローアップされなければいけない。その後新しく出てきた事実、まさに吉田調書がそれなわけですけども、をフォローアップしなければいけない。

そして、その検証した結果を今後の政策に反映させなければいけない。そういうことがまだ十分行われていないということなのではないかと思います。

そして何よりもこういう検証を行うというのは成熟した市民社会に不可欠な問題であって、その意味では我々民主主義社会というのはwell-informed publicというか、シンクタンクなどが専門的な問題提起を行って、そして市民の皆さんがそれを理解して、さらに建設的な議論の中で政策の方も高めていく。

まさにそれが福澤諭吉先生が目指した社会でもあったと思うんですけれども、その意味で今日は学生さんたちと一緒にインタラクティブにやらせていただくというところに大変大きな意味があるのではないかと思っております。私も大変楽しみにしておりますので、ぜひ活発な議論をよろしくお願いしたいと思います。

⑳竹中教授 F-0044

慶應義塾大学総合政策学部教授(G-SEC所長)・竹中平蔵氏

戦後最大の国家危機だった原発事故

船橋:竹中先生、今日はありがとうございます。それから学生の皆さん、ありがとうございます。今ご紹介いただきましたように、私ども日本再建イニシアティブはシンクタンクなんですけれども、3.11福島原発危機の後、これはちょっと今までの危機と違うんじゃないかと。実際、多分戦後最大の国家危機だったと思うんですね。辛うじて生き延びたと。東日本壊滅。

まさに吉田昌郎さんが自分の最悪のイメージというのは東日本の壊滅だというふうに吉田調書の中でおっしゃっていますけれども、ぎりぎりだったと。

当時はそのぎりぎり感というのがまだもう一つわからなかったんですけれども、何が起こったんだろうか、なぜ起こったのか、何であんなふうになったんだろうか、それを当事者からしっかりと話を聞いて、専門家の方々、さまざまな方々に調査して、それを、いま竹中先生がおっしゃったinformed citizenにきちんと伝えたいと。そのためにつくったシンクタンクのようなものなんですね。

北澤宏一先生という超伝導の世界的な学者がいらっしゃって、北澤先生に私、お願いいたしまして、それで委員会をつくって、その委員会のもとに30人以上の方々の専門家会議をという、こういう2層でつくったんですね。

今日のこの4人の方々は、そのコアグループ、ワーキンググループで中心的にやってくださった方々です。学者の方々、学者といってもいろんな分野の方々、それから弁護士、コンサルタント、ジャーナリスト、さまざまな分野の方々が参集してくださいました。

福島原発事故独立検証委員会に報告したこれなんですけれども、その後少し時間がかかりましたけれども、英語版を出しました。これはイギリスのRoutledgeというところから出したんですけれども、これは単に日本の事故ではない、危機でもないと。世界の人々と共有したい、また共有するべきだと。それは、日本の市民社会としても、できるだけ真実に迫って世界と共有すると。

それは、多分、大きな意味を持つんじゃないかと。一緒に共有を行うことができるんじゃないかと。そういう思いでつくったのが民間事故調であり、この報告書なんですね。

意見交換を通して真実に迫る

当時の福島第一の所長の吉田昌郎さんが、政府事故調に対して延べ29時間、2011年の7月から11月にわたってヒアリング、聴取を受けていたのですが、ご存じのように、去年の9月にその聴取報告書を政府が公表したわけです。

そこに一体何が語られているのか、それを一回しっかり読み解いてみようじゃないかということで、この我々のチームを発足させまして、それで今大詰めのところで報告書をつくろうとしているということなんですね。

というところで、今日は学生の皆さんと意見交換をする中で、そういう過程を通じてさらに真実に迫ってみたいなというのが、私どもの一つの今日の趣旨です。

ということで、我々はこの4年間一体何を学んだんだろうか、何が変わって何が変わらなかったか、もし変わらないとすればそれは何なのか、変わったとすればそれはなぜ変わることができたのか、今どういう方向にあるんだろうかとか、大きいテーマが多分いろいろあると思うんですけども、一つ一つまず具体的に個別に検証することによって、ケーススタディをすることによって、一緒に考えていきたいなと思っています。

㉑船橋さん F-0052

日本再建イニシアティブ理事長・船橋洋一氏

司会:次のセッションでは4人のパネリストの皆さまから、「吉田調書から浮き上がる課題」をプレゼンテーションしていただき、その中でフロアの皆さまに質問を投げかけます。活発な議論を期待しております。

※続きは明日掲載します。