シリコンバレー発ロボット最前線

「ロボット上司」が職場で活躍する日

もしロボットが上司だったら、部下の人間は従うのか

2015/3/2

ロボットが上司だと、人間はサボるのか

最近は、「ロボットが職を奪う」という恐怖のストーリーが世の中を騒がせている。しかし、職場へのロボット導入がうまくいけば、ロボットは人間を追い出したりせずに、人間と仲良く働けるはずである。

そんな日を見越して、「もしロボットが上司だったら、人は従うだろうか」という研究がすでにいくつか行われている。そして、結論から言うと、ロボットの言うことをちゃんと聞くようなのだ。そんな研究を紹介しよう。

ひとつは、カナダのマハトバ大学ウィニペグ校で行われた研究である。ここで実験されたのは、事務作業をロボットが指示して監視しているというケースだ。

人間に与えられたのは、コンピュータ・ファイルの拡張子を変更したり付け加えたりする退屈な作業だ。小さな文字のカットとペーストが永遠に続くというタイプのものである。ロボットがデスクの横に立っていて作業を見守り、「それが終わったら、次に1000ファイルの作業を行って下さい」などと指示を出す。作業は80分続くことになっている。

このロボットは実は遠隔から操作されていて、そのセリフも研究者が入力するものだが、被験者はロボットに音声認識能力があると思っている。また、ロボットらしく、人間よりも単純な受け答えしかできないようにしてあり、人間が文句を言ってもうまく合わせた応答はしない。

面白いのは、実験の結果だ。そんなロボットが見ているだけだというのに、46%の人は不平をこぼしながらも作業を完了させたのだ。いつ中断しても、悪い評価が下されるわけではない、と事前に伝えていたにもかかわらず。もちろん、逆に言えば54%の人はロボットが相手である場合、仕事を投げ出してしまったことになる。ビデオでは、「どうか、ここで止めさせてくれ」とロボットに向かって懸命にネゴをしたりする人もいて面白い。

ちなみに、ロボットではなく、人間の監視人がいた同じ実験では、86%の人が作業を続けて完了させたという。ロボット上司に従ったのはその半分ほどなのだが、それでもロボットの言うことを頭から無視したりすることがないというのが、この実験での発見と言える。

http://hci.cs.umanitoba.ca/

http://hci.cs.umanitoba.ca/

「ロボット上司」はなぜ好かれるのか

もうひとつの実験は、マサチューセッツ工科大学で行われた。製造業のような設定で、ロボット1台と人間2人がチームを組んで作業を行うというものだ。部品をそろえ、それをアッセンブルするという内容である。

実験は、3通りの方法で行われた。ひとつは、人間のうちのひとりがタスクを管理するというもの、2つ目は人間のひとりは自分でタスクを遂行し、ロボットがもうひとりのタスクを管理する。3つ目は、ロボットが人間ふたりのタスクを管理する。

この実験は、人間が仕事に満足感を持ちながらも、最も生産的にタスクを遂行するのはどれかを求めて行われている。単純な作業を延々と行っていると、人は満足感が持てなくなり、ついには自己意識も低下させてしまう。ロボットによる自動化が入ってくることで、そうした作業から人間が解放され、満足感が高まるというスイートスポットを探すのが目的だ。

実験の結果、人間の作業員が最も好んだのは、意外なことに、ロボットが人間のタスクを管理していたケースだった。ロボットが管理すると、人の作業の進行を理解し、それによってスケジュールをリアルタイムで変更することもできた。人間はそれによって、「ロボットが自分たちをよく理解している」と判断したそうだ。

当初、研究者たちは、ロボットと人間が管理を分担する2つめのケースが一番いいのではないかと、考えていたという。その仮説は見事に裏切られたわけだ。人は、自分の仲間がタスクを管理することや、他の作業員の進行具合によって自分の作業が左右されるのを好まなかったという。

考えてみれば、人間の管理にはムラがあって実態をつかみ損ねていることがよくある。その点、ロボットならば作業をモニターして正確に進み具合を把握し、それに基づいて微調整しながら次の作業を指示することができるだろう。また、人間ならば気兼ねをして他の作業員に作業を速めるよう突っついたりできないが、ロボットならば公平に計測して、作業状況をフィードバックしやすい。

そんな意味で、ロボットは意外にも人間に求められて職場に入ってくる可能性があるのだ。そして、出世競争で負けた相手が上司となり、ソイツに指図されるくらいならばロボットの方がずっとまし、と思う人もいるだろう。ロボットの下で、人間同士が和気あいあいと満足に仕事をしているというシナリオもあり、なのだ。

「ロボット上司」が職場で活躍する日は、案外早くやってくるかもしれない。

https://interactive.mit.edu/

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※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。