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外資企業進出増をにらむ、ミャンマー政府の新たな試み

ミャンマー、今年は新卒減で人材競争激化の予想

2015/3/2
ミャンマーは「最後のフロンティア」と言われ、ティラワ工業団地の整備や、鉄道や上水道、さらに橋梁の建設、通関電子化、総合病院整備などで数多くの日本のODA支援案件が動く国だ。また、安い労働力という魅力に加え、5000万人を超える人口を有していることから消費市場としても注目を浴びている。

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ビジネス関係者ならご存知の通り、ビジネスは「人」によって成否が決まる。運だとかタイミングだとかいう要素もあるものの、やはり鍵は「人」なのだ。そんなミャンマーの「人」を知る上でまず、今回は教育の視点からミャンマーを語ってみよう。

教育は11年制、英語は必須スキル

ミャンマーの就学率は教育省が発表した2004〜5年のデータによると、小学校で96.56%、中学が42.4%、高校は32.6%。日本でいう小学校へは5歳から5年間へ通う。中学は4年制度で、さらに高校は2年間で終了する。つまり、ミャンマーでは就学年齢が1年早く、加えて5-4-2の合計11年と、日本より2年早く卒業する計算になる。

さらに高校卒業後に就職せず4年制大学に進む場合は、1年弱の大学入学まで待ち時間があるが(詳細は後述)、それでも日本の大学生より 1歳若い大学卒業生が誕生することになる。だが一方でこのシステムのおかげで、海外留学を目指す学生にとっては海外の大学への入学タイミングが合わず、高校卒業後すぐの留学が難しくなる。

国内の大学に進学する学生には毎年3月、高校の卒業試験を兼ねた大学入試である「セーダン試験」が行われる。これに受からなければ高校を卒業できないし、大学に入学もできないのである。

そんな試験の内容は、英語、数学、国語、物理、化学、生物、歴史、地理、経済から6科目を選択。うち、英語、数学、国語は必須。選択した科目によって、進学を選択できる大学の範囲が決まるのだが、この選択制が始まる2002年以前は9科目すべてを受験しなければならなかった。ある意味、日本のセンター試験に近い制度設計になっているため、理解しやすいだろう。

注目に値するのは、このセーダン試験の国語、経済、歴史、地理はミャンマー語で受験が可能だが、英語、数学、物理、化学、生物の試験で使われる言語は英語という点。このために合格にはそれなりの英語スキルが必要となり、進学どころか高校卒業のために学生たちは一生懸命英語を勉強するのである。

ちなみに高校卒業に必要なのは全科目40点以上。公表されたデータはないが、さらに進学する場合、基準の高い大学では、出願時の足切り点を600点中490点とするところもある。

ミャンマー教育省のホームページによると、2015年1月時点で169の大学があるそうだが、人気が高いのは理系大学だ。そんな理系に進むには、国語を除き、英語で出題される理系科目の受験が必要となり、ハードルも高い。

そしてセーダン試験は文字通り、「勉強しないと受からない試験」であり、「23年間連続して落ち続けている人がいる」という笑えない話が新聞の一角を賑わすこともある。

学生たちにとって、このセーダン試験の結果で目標とすべき大学の枠が決まる。このため、「今年はダメだ」と判断したらセーダン試験留年を選ぶ学生もいる。

試験の結果発表は6月。9月末から10月に大学に願書を送って、10月末には入学先が決定する。

実際の入学は12月。つまり、なんとセーダン試験から9カ月以上何もせずに待ち続ける。この時期を教育熱心な家庭では英語の勉強に当てる。だが、首都ヤンゴンのような教育の機会がある場所ならともかく、学習設備のないエリアでは家の仕事を手伝うなどして過ごすようである。
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受験とは切っても切れない「TUITION」

この「勉強しないと受からない」セーダン試験の狭き門をくぐり抜けようと、ほとんどの学生が学校の授業とは別に、「TUITION」(チューシン)という制度を活用して勉強する。

TUITIONとは、一言でいえば「学校以外で勉強する場」といったようなもので、家庭教師や私塾などいろいろな形態のTUITIONがある。講師も有名講師から講師になったばかりの先生まで幅広く存在しており、エリア毎に有名な先生が数多くの学生を抱える。日本でいう予備校に近いイメージだ。

「TUITIONで勉強しないと高校卒業はできない」、人々は一様にそう信じている。全科目すべてTUITIONを活用するか数科目のみを選択するのかといったパターンはさまざまながら、日本の塾や予備校よりもさらに深く根付いている印象だ。

公の教育では授業が午前中までしかない。そして、午後から夜遅くまでTUITIONで学ぶ。それが教育における一般的なスタイルになっている。高校2年生にもなると、セーダン試験合格を目標に、朝から晩まで完全に勉強漬けの生活となる。

だが、TUITIONはそれなりにお金が必要となるため、家族計画の上で考慮されることもある。

なぜ高校の授業時間を増やして学校で受験対策をしないのか、とも思うが、「雇用を守る」といった背景もあるのかもしれない。というのも、TUITIONがあることで、民間で教育を提供する人の需要が生まれるからだ。あるいは実際には教員をはじめに、公務員の給料が決して高くないことからくる「教育の問題」なのかもしれない。

しかし、ミャンマーでは大学を卒業していることは名誉なこととされる。各家庭では両親を含めた親族の大学卒業時の写真が誇らしげに飾られている光景も多く見かける。結婚式でも、個人名の下に卒業した学部の名前が記されるなど、非常に重要視されている。

日本とは違う意味で、「教育」が重視される社会なのだ。

大学改革で新卒者ゼロ? 外資の人材競争激化か

だが、ミャンマーの教育制度が労働市場、特に新卒市場に課題をもたらしている。

ミャンマーは現在、教育改革の真っ只にある。

これまで学生デモを発端に在学年数を短くした経緯のあるミャンマーだが、現在、大学生の在学年数を延ばす方向で改革を進めている。

例えば、ミャンマーには外国語大学が2校あって、そこはこれまでの3年制が4年制に切り替わる。よって今年は卒業生が出ない。新卒でもいいから早く雇って育てていきたい、と考える、これら外国語取得学生の雇用先である外資企業にとっては痛手となる。

また、コンピュータ大学ではこれまで3年制だったものが段階を追って5年制になる。いきなり5年制にすると、2年連続して卒業生が出なくなるためだ。今後、数年かけて3年から4年へ、そして4年から5年へと段階的に対応する予定になっている。

だが、今年は直接その改革の影響を受け、大学新卒者数は極端に少なくなる。大学では学年が増える、つまり在学生が増えることもあり、増員に備えた増築工事が進められている。この教育改革はミャンマーの未来を見越したもので、「この瞬間だけでなく、先の事を考えて動く」というミャンマー政府の賢さを感じる対応でもある。

ヤンゴン日本人会商工会議所の登録企業メンバー数だけでも、2012年3月末の54社から2015年1月末には214社へと増加の一途を辿っている。今年は外資系企業の進出はさらに増えると予想されており、上記のような理由で新卒者の獲得が激しさを増す中で、第2新卒者や経験年数の浅い労働者のニーズが増すかもしれない。

そもそもこれまでは会社組織自体が少なかったため、外国企業が求めるような経験者が少なく経験者の奪い合いとなってきた。それがさらに激化するということだ。
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教育の安定がミャンマーの可能性に

とはいえ、以上は短期的な話。

中長期で見れば、数年後には教育制度が安定すれば、これまで以上に高度な教育を受けた新卒の学生が誕生することとなり、ミャンマーで活躍していくことになるはずだ。

教育が変わったことで、国が変わったのは日本も同じ。大卒者の割合が1割という現状は1960年代の日本と同じ水準である。

こうした動きも見ていると、ミャンマーには大きな可能性があるといえるだろう。

(写真提供:桂川融己)

※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。