NPWB_スポーツ_a

Weekly Briefing(スポーツ編)

岡田武史の「妄想力」が日本サッカーを変える

2015/3/1
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、注目ニュースをピックアップ。今回は特別編として、FC今治の会見をレポートします。
FC今治の会見には、EXILEのメンバーであり愛媛県出身の白濱亜嵐さんがスペシャルゲストとして登壇した(写真:Shinya Kizaki)

FC今治の会見には、EXILEのメンバーであり愛媛県出身の白濱亜嵐さんがスペシャルゲストとして登壇した(写真:Shinya Kizaki)

明らかになった豪華なサポート体制

FC今治は日本サッカー界において5部にすぎない。にもかかわらず、岡田武史オーナーの会見には50人の以上メディアが駆けつけた。

2月23日、愛媛県今治市において岡田オーナーがFC今治におけるプロジェクトの全貌を明らかにした。スポンサーには地元企業『ありがとうサービス』、『三菱商事』とともに、EXILEのマネジメント事務所『LDH』が名を連ねた。

早速『LDH』の支援として、EXILEのメンバーであり愛媛県出身の白濱亜嵐さんがスペシャルゲストとして登壇した。さすがは2度もW杯を経験した元代表監督、サッカー外からの注目を集める術も知っている。

同時に発表されたアドバイザリーボードも実に豪華だ。

今治出身でサイボウズ社長の青野慶久氏、アートディレクターの佐藤可士和氏、アーティストの日比野克彦氏、元ラグビー日本代表監督の平尾誠二氏、元ヤクルト監督の古田敦也氏など、人脈をフルに生かしていた。

また、中国のスポーツマネジメント会社『OCEANS』、ドイツ代表やバイエルンをデータ分析でサポートする『SAP』、そして『サイボウズ』 がビジネスパートナーになることも合わせて発表された。

これらの事業をまとめるアドミニストレーション事業本部のトップには、元ゴールドマンサックスの矢野将文氏が指名された。矢野氏も愛媛県出身で、東京大学時代はサッカー部キャプテンだった人物である(矢野氏のインタビューを近日中にNewsPicksに掲載予定)。

今回のブリーフィングは特別編として、岡田オーナーの壮大な計画を“Pick”したい。

計画1:アジア中から人を集める

岡田オーナーは舞台のうえで、5部のクラブにはそぐわない、とてつもなく大きな夢を語った。

「FC今治でやることに決めてから、妄想というと失礼なんですけど、自分の想像がいろんな方面に湧き出てきました。

FC今治だけが強くなっても面白くない。地元の少年団、中学校、高校のサッカー部を巻き込んで、ひとつのピラミッドを作る。コーチを派遣したり、講習会を開いたり、いろんな形でひとつのピラミッドを作り、その頂点に立つFC今治がおもしろいサッカーをして強くなる。

おそらく日本全国から、アジアから、育成に入りたいという若者、または岡田メソッドを勉強したいという指導者が集まって来る。

そうしたら集まって来た人たちを、おじいちゃんやおばあちゃんが住んでいる家にホームステイさせる。おばあちゃんが料理教室をしたり、英会話を勉強したり、気がついたら17万人の小さな今治ですけど、妙にコスモポリタンで活気がある。そんな街にならないかな、という夢が湧いてきました」

FC今治のプロジェクトにおいて、アジアは欠かせないキーワードだ。

岡田オーナーは、2012年から約2年間、杭州緑城の監督を務めた。その中国とのパイプを生かし、アジア中から人を集めるつもりである。

計画2:スタジアムの複合施設化

アジアから人を惹きつける武器は、「岡田メソッド」というソフトだけではない。岡田オーナーはハードについても明確なビジョンを持っている。

「10年後にJ1の優勝を目指します。そのときに4、5人の日本代表選手を擁しているチームになりたい。そして8年後に新スタジアムを作りたい。

そのスタジアムは、ホテルが併設する複合施設にしたい。そしてスタジアムの中に、トレーニングジム、データ分析の研究室、治療ができる施設を作りたい。いわば『今治ラボ』です。

そうすると、いろんなスポーツのアスリートが集まって来る。サッカーだけでなく、スポーツの力で地方を創世する。そんな夢を抱いています」

8年後という目標設定は、2020年東京五輪が終わってスタジアム建設のコストが下がっているという目論みもある。すでにスタジアムプロジェクトチームが立ち上がっている。

まずは複合施設化が法的に許される土地を見つけることが、第一関門になる。

計画3:サッカー仲間で国際平和に貢献

ここまでは長期計画を紹介してきたが、もちろんすぐに実行する短期計画もある。

それは今治における育成年代の国際大会だ。

「今年の夏に、育成の国際大会を今治で開こうと思っています。国際交流を図ることによって、国境というボーダーを越えて、サッカー仲間によって平和に貢献できるんじゃないか。そんな妄想に近い夢が浮かんできました」

夏の大会には、ビジネスパートナーの『OCEANS』のサポートにより、中国からチームが参加する予定だ。

計画4:練習法をクラウド化して輸出

岡田オーナーは「岡田メソッド」をアジア中に輸出する計画を持っている。

「サイボウズさん、SAPさんと組んで、岡田メソッドをクラウドに入れて、iPadといった端末で見られるようにする。そういうシステムを、アジア、中国へ、パッケージとして輸出して行こうと考えています。

たとえば、アジアカップで日本がヨルダンと対戦したとき、岡崎(慎司)がニアゾーンに走ってシュートを打ち、キーパーが弾いて本田(圭佑)が決めた点がありました。それとよく似た状況がUAE戦でもありました。そのときは岡崎がシュートを枠外に外してしまったんですけど、本田は走っていなかった。もし岡崎のシュートが枠内に飛んでキーパーが弾いていても、日本のゴールにはならなかったということです。

パターンに応じて、みんなが一瞬にして同じ絵を描ける。そんなプレーモデルを作って、それを身につけさせるために、適したトレーニングメソッドをやっていこうと。それを数値化して、PDCAサイクルに入れてフィードバックしていきたい」

すでに岡田オーナーは、杭州緑城に日本人コーチ4人を派遣している。

「杭州緑城とはまだアドバイザリー契約をしていて、そこに日本人コーチを4人置いています。僕が労務管理するのは大変なので、アビスパ福岡と提携してやってもらっています。その結果、育成がものすごい成果をあげて、いろんなチームからオファーをもらうようになった。FC今治としても、中国のチームに指導法と指導者をパッケージにして輸出していこうと考えています」

計画5:次世代に希望のある社会を作る

それにしても、なぜ岡田オーナーは常に新たなチャレンジに挑むのか? その根本にあるのは「子供たち」への責任感だ。

「でかいことを言うな、と思われるかもしれません。しかし、僕がこういうことを話すのには理由があります。

私の年代というのは、70年間戦争がなく、そして高度成長期という最高の時代を生きました。銀座でタクシーチケットを振っても止まってくれない、そんな時代です。

自分の3人の子供たちにどういう社会を残すかを考えたときに、1000兆円の財政赤字、年金破綻、隣国との緊張、環境破壊、本当にひとりの親としてこれでいいんだろうか、自分にできることは何かないのか、そういう思いから、すべての活動をやっております」

日本サッカーのレベルは決して低くなく、いくら優れた指導者をそろえても、FC今治がJFL、J3、J2、J1とステップアップできるかは未知数だ。昇格に飛び級はなく、想像以上の年数がかかるかもしれない。

だが、岡田オーナーの「妄想力」が日本サッカー界を揺り動かすことは間違いない。目が離せないクラブが、またひとつ増えた。

今週の主なスポーツイベント

【テニス】3月1日(日):メキシコ・オープン決勝 (錦織圭VSD.フェレール)
 【マラソン】3月1日(日):びわ湖マラソン
 【ラグビー】3月2日(月):2019年ラグビーW杯開催都市決定
 【女子サッカー】3月4日(水):日本×デンマーク(inポルトガル)
 【女子サッカー】3月6日(金):日本×ポルトガル(inポルトガル)
 【テニス】3月6日(金):デビスカップワールドグループ1回戦(日本はカナダと対戦)
 【サッカー】3月7日(土):Jリーグ第1ステージ開幕
 【サッカー】3月8日(日):J2開幕
 【ラグビー】3月8日(日):ラグビー・トップリーグ・オールスター
 【相撲】3月8日(日):大相撲春場所

写真は2013年に有明コロシアムで行われたデビスカップ、コロンビアとのプレーオフ戦。会場の真ん中の日本国旗が目を惹く。手前の赤いウェアが錦織圭。(写真提供:上田裕)

写真は2013年に有明コロシアムで行われたデビスカップ、コロンビアとのプレーオフ戦。。会場の真ん中の日本国旗が目を惹く。コート右側の赤いウェアが錦織圭。(写真:Hiroshi Ueda)

【特別テニスコラム 文・上田裕】

◎錦織圭がメキシコオープンで決勝進出、世界ランク4位以上が確定

世界ランク5位の錦織圭は昨日(2/28)、出場しているメキシコオープンの準決勝で同15位のアンダーソン(南アフリカ)に6-2、3-6、6-3で勝利し、決勝進出を果たした。決勝では同9位のフェレール(スペイン)と対戦する。

この結果により、錦織は現在3位のマレー(英国)を週明けに発表される最新ランキングで抜いて4位となることが確定した。(マレーが現在出場しているドバイの大会で準々決勝で敗れたため)

また錦織が今大会で優勝し、今週アルゼンチンで行われているアルゼンチン・オープンに出場している同4位のナダル(スペイン)が優勝しなかった場合、ナダルも抜き自己最高、日本人最高位となる3位に浮上する。(日本人の歴代最高は伊達公子が1995年に記録した4位)

周囲の盛り上がりをよそに、本人は「申し訳ないが、どうも思わない」と至ってクールだ。目の前の試合に集中している証拠だろう。

決勝のフェレールは先週のリオデジャネイロの大会でも優勝し、今大会でも決勝に上がってくるなど好調だ。しかし、1月の全豪で錦織が4回戦でフェレールを6-3、6-3、6-3で一蹴したのは記憶に新しい(なお、フェレールの今年の敗戦は、その全豪の対錦織戦のみ)。

ボールをしっかりと引きつけてストロークを打てる今大会のサーフェス(スローなハードコート)は錦織に合っているように、準決勝をテレビ観戦した筆者には感じた。本日の決勝に期待したい。

◎男子テニスの国別対抗戦「デビスカップ」、日本はカナダと対戦

3月6日〜8日にかけて、男子テニスの国別対抗戦「デビスカップ」のワールドグループ1回戦が各国で行われる。錦織圭率いる日本は、世界ランク6位のラオニッチ率いるカナダとバンクーバーで対戦する。

テニスは基本的には個人スポーツの要素が強いが、その団体戦は、個人スポーツと団体スポーツの良さがミックスされている。勝負の佳境には観客の応援もサッカーの代表戦のような盛り上がりを見せることがある。

錦織以外に、日本チームのメンバーは添田豪、伊藤竜馬、内山靖崇がメンバー入りしている。一方のカナダはラオニッチ以外にはポスピシル、ダンチェビッチ、ネスターが周りを固める。

デビスカップは金曜日の初日にシングルス2本、土曜日の2日目にダブルス1本、日曜日の最終日にシングルス2本が行われ、先に3勝したチームが勝利となる。各対戦で出場できる選手は4人までで、1人の選手が出れるのは、金・土・日にそれぞれ1試合だ。

つまり、1人の選手が出れるのは最大でシングルス2試合・ダブルス1試合の合計3試合までという事になる。また、3日目(最終日)の第1試合は、規則により両チームのナンバーワンの対戦と決められている。

このような形式のため、シングルスで強い選手が2人いればデビスカップは勝てるとも言える(フェデラー、ワウリンカを擁するスイス、ナダル、フェレールを擁するスペインなど)。

メンバーを見ると、最終日の1試合目は錦織とラオニッチの両エースが対戦することが(どちらかに怪我がない限り)確実だろう。また、恐らくラオニッチ以外のカナダの選手は錦織には勝てないだろうし、錦織以外の日本選手はラオニッチに勝つことは難しいと筆者は考える。

そのため、2日目のダブルスがカギを握るだろう。ダブルスで勝ったチームが2-1とリードしてエース対決を迎えられるからだ。

連戦で疲労が溜まっている錦織をダブルスにも起用するのだろうか、昨年、カナダと対戦した時には当初は予定されていなかった錦織をダブルスにも急遽起用、内山との見事なコンビで勝利を掴みとるなど奇策を見せた植田監督の判断に注目だ。

参考:日本代表選手としての錦織圭に注目!デ杯で日の丸を背負う戦いが、始まる。 Number Web (2015年2月27日)

◎ドバイではフェデラーがジョコビッチに勝利し優勝
メキシコオープンと同時期に、同じ格のATP500の大会、ドバイ・デューティフリー・テニス選手権が行われた。賞金が多いからかこちらは参加選手がジョコビッチ、フェデラー、マレーとメキシコより豪華で、決勝には第1シードのジョコビッチと第2シードのフェデラーが勝ち上がった。

本日明朝にその結果が出たがフェデラーがジョコビッチに6-3、7-5とストレートで勝利し、本大会では7度目の優勝を飾った。全盛期があまりにも圧倒的だったためここ数年はよく「ピークを過ぎた」と言われるようになったフェデラーだが、まだまだ世界1位を倒せる実力があると証明した形になった。このスペースでは書ききれないので、フェデラーについて今度機会を作ってじっくりと執筆をしてみたい。