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Chapter1:変わる消費者

中流以下が8割超。「消費者」は過去10年で激変した

2015/2/26
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第二弾である「 大前研一ビジネスジャーナル 」(初版:2014年11月28日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。今回は「消費者の構造変化」について分析する。
大前研一特別インタビュー(上):日本でイノベーションが生まれない理由は何か?(2/19)
大前研一特別インタビュー(下):イオニストは“低欲望社会”の被害者(2/23)

過去10年の大変化

日本の消費者というのは、この10年で非常に大きく変化しました。このような大きな変化は、他の先進国では見られない現象です。これはもう日本独特の現象と言ってもいいと思います。

最大の問題は、他の先進国はどこでも1人当たりのGDPが増えており、給料も増えているのに対して、日本の場合はもう20年間GDPも給料も増えていないということです。その結果、国民がそれぞれのセグメントにおいて、自分たちなりの生活防衛をし始めたのです。これがこれからお話しする消費者の変化の大きな背景です。

また、女性のライフコースが非常に多様化したことも大きな特徴です。従来であれば、ある程度の年齢になると結婚して子どもを産んで、子どもが大きくなったころにまた仕事に復帰する、というパターンでした。このパターンというのが非常にバラけてしまって、今では「○歳代の女性」という固まったセグメントを明確に把握するのが非常に難しい状況になっています。

それから、20年間デフレ環境が続いて、ほとんどの給与所得者の層で、約100万円の給与所得の減少が起こりました。年収1000万円を超える人、600万円を超える人、400万円台の人というほとんど全てのセグメントで、この15年くらいの間に100万円ずつ所得が下がってしまったのです。これは世界でも例がないことです。

ただその間にデフレがあったので、ある程度は生活が成り立っていて、大きく失業率が上がるとか街で暴動が起こる、といったことは起こっていません。皆、こうしたジワリと押し寄せてきた変化にうまく対応して表面的には平穏にやってきた。これが過去10年の日本の消費者の一つの傾向だと思います。

現在ビジネスをやっている人、特にB to Cをやっている方はこうした変化をしっかり理解していただき、見えにくくなっている消費者像をしっかりつかむ努力をしていただきたいと思います。

家計消費のピークは1990年代

図-1の左側のグラフを見ていただきたい。1世帯当たりの家計消費支出が、1990年代半ばをピークに減少しているのが分かります。1世帯当たりの可処分所得も同様の動きをしています。こういう国はOECDでも日本の他にありません。

日本は他の統計値についても1990年代半ばがピークでした。例えば就業人口、1人当たりGDPも1996年くらいがピーク。右側のグラフのように、平均消費性向も1960年代から徐々に下がってきて、貯蓄ももうこれ以上は増えないという状況になっています。
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消費者を取り巻く5つの環境変化

図-2にまとめたように、この10年くらいの間に起こった消費者を取り巻く環境変化は、所得階層の変化、就業構造の変化、世帯構成の変化、年齢構成の変化、地域差の拡大の五つです。これだけのことがほぼ同時に起こったのです。

こうした変化は当然、消費者のライフコース、ライフスタイルの変化をもたらします。消費者の価値観が変化し、消費行動も変わってきています。これだけのことが短期間で起こると、従来のお客さんや従来のマーケットが消える場合もある。大きすぎる変化によって消費者が見えにくくなっているのです。
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所得階層の“二極化”が進行。中流以下が80%超に

1990年代以降の消費者の一大特徴としては、図-3の「給与所得者の構成比の推移」からも分かる通り、所得階層の二極化が進行したことが挙げられます。その結果、最近では中流下位層(Lower-Middle Class)と下流層(Lower Class)で全体の8割を超えてしまいました。

Lower-Middle Class以下(年収300円超-600万円以下)のセグメントが、2012年時点で82.3%です。一昔前までは「1億総中流」と言われていましたが、今は違うのです。
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日本人にとって、学校を出たらLower-Middle Classからスタートして、Upper-Middle Classで終わるというのが、憧れの人生だったわけです。Upper-Middle Classまでいくというのは昇進と昇給を前提にしています。これがなくなってしまった結果、Upper-Middle Classが非常に減ってきている。2012年時点で13.9%しか居ません。同時にUpper Classも減っています。

従って、これからはLower-Middle ClassとLower Class、彼らを中心にビジネスを考えないといけない。そうしないと82%のお客さんが見えていないことになってしまいます。

日本人というのは、なんとなくMiddle Classというところを中心に考える癖がありますが、今やそれはある種の虚構にすぎません。「私たちも、最後はUpper-Middle Classになりたいよね」と言うのですが、結局そこまで到達することができない、という人が圧倒的に多くなってしまったのです。

【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.4開催)を基にgood.book編集部にて編集】

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。次回は「過去最高の水準となる非正規労働者数」についてです。

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