Weekly-Briefing_banner

Weekly Briefing(ワールド編)

アカデミー賞スピーチに見る、“アメリカの歪み”

2015/2/25
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。Weekly Briefing(ワールド編)では、世界で話題になっているこの1週間の読むべきニュースを各国のメディアからピックアップします。

2月22日、第87回アカデミー賞が開催された。主な受賞者は以下の通りだ。
 87th_academyawards (2)

Winners of Best Actor, Best Actress, Best Supporting Actor, and Best Supporting Actress at the 87th Academy Awards on Sunday.

Winners of Best Actor, Best Actress, Best Supporting Actor, and Best Supporting Actress at the 87th Academy Awards on Sunday. ー(AP/Aflo)

第87回アカデミー賞にノミネートされ・実際に表彰された俳優・女優達は、全員白人だ。またアカデミー賞で大変重要な賞であるアカデミー監督賞とアカデミー撮影賞にノミネートされた10名は、全員男性だった。この2つのカテゴリーには女性がひとりもノミネートされていなかった。

もっとも、昨年の賞レースのほうが“異常”だったかもしれない。

最優秀作品賞に、黒人奴隷のSolomon Northup(ソロモン・ノーサップ)を描いた「12 Years a Slave (それでも夜は明ける)」が、そしてその主演スターLupita Nyong’o (ルピタ・ニョンゴ)が助演女優賞を授与したからだ。

黒人監督および黒人俳優が栄誉ある映画賞を獲得するケースは、極めて珍しい。

それはなぜか?問題の本質は、アカデミー賞受賞作を選考するAcademy of Motion Picture Arts and Sciences (映画芸術科学アカデミー)にある。

Pick 1:アカデミー賞の選考委員の白人比率は90%

本年のアカデミー賞において、1965年アメリカの公民権運動中にアラバマで起きた流血事件を描いた「Selma」(セルマ)の監督Ava DuVernay (エイヴァ・デュヴァーネイ)や「Gone Girl(ゴーン・ガール)」の脚本者 Gillian Flynn(ギリアン・フリン)の女性2名がノミネートさえされなかったのは、多くの映画ファンや米国民を失望させた。両作品はその質において、アカデミー賞受賞確実と本命視されてきたからだ。

なぜ2人は冷遇されたのか?

その一つの理由は、アカデミー賞受賞作を選考するAcademy of Motion Picture Arts and Sciences (映画芸術科学アカデミー)において、年配の白人男性が占める割合が極めて高い点にある。

もっとも、随分前から、Academy of Motion Picture Arts and Sciences (映画芸術科学アカデミー)の不自然な“人口構成”についての問題は指摘されていた。

そのため、同組織は、2014年に新規の会員を募った。しかし、既存の年配の白人男性メンバーの多くが改革に抵抗。その影響か、2014年に勧誘を受けた271名の新規会員の内、約72%は男性となった。また、白人の占める割合は90%となった。結局、このアカデミー全体の平均年齢は62歳と高齢のままだ。ちなみに、50歳以下の割合は14%しかいない。

この会員の割合は、アメリカの人口が現在では約40%は非白人であることを完全に無視している。さらに、この状況に変化の兆しがないことは、驚異的ともいえる。

ただ、だからといって本年のアカデミー賞にノミネートされた映画の質が悪いというわけではない。むしろ、良質な作品ばかりだ。

これは作品や俳優、監督たちのバリューの問題ではない。映画業界は圧倒的に白人男性優位のため、非白人や女性が作った同レベルの映画がノミネートされにくい現実がある。そもそも、女性や白人以外の監督や脚本家などが企画した映画は資金も集まりづらく、スタートラインにさえ立てないことが問題なのだ。

Patricia Arquette speaks after winning the Oscar for Best Supporting Actress for her role in Boyhood.  Photograph: Mike Blake/Reuters/Aflo

Patricia Arquette speaks after winning the Oscar for Best Supporting Actress for her role in Boyhood.
Photograph: Mike Blake/Reuters/Aflo

Pick 2:助演女優が「今こそ、米国女性は賃金平等を享受すべき」とスピーチ

ただ、本年のアカデミー賞は、悪いニュースばかりではない。映画「Boyhood」(6才のボクが、大人になるまで)の好演により最優秀助演女優賞を受賞したPatricia Arquette(パトリシア・アークエット)の政治的なスピーチは、オーディエンスの喝采を浴びた。

彼女は、断固として、アメリカの男女不平等に対して反対の態度を取ったのだ。

Arquette「この国のすべての納税者と国民全員を産んだすべての女性、私たちはみんなの平等の権利のために闘ってきました。今こそ、米国の女性たちは賃金の平等、そして平等の権利を享受するべきです」

Arquetteの言う通り、アメリカを始めとする多くの国の男女賃金格差は重要課題の一つである。昨年のソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのハッキング事件は、ハリウッドにも男女の賃金に大きな格差があることを露呈した。

この事件により、「American Hustle」 (アメリカン・ハッスル)の主演スターJennifer Lawrence (ジェニファー・ローレンス)は、2012年のアカデミー主演女優賞を受賞するほどの好演だったにも関わらず、彼女の報酬は同映画の主演スターChristian Bale (クリスチャン・ベール)とBradley Cooper(ブラッドレイ・クーパー)の報酬より7%低かったことも示された。

ちなみに、U.S. Census Bureauが調査した2012 American Community Survey のデータによると、アメリカ全体の男女賃金格差率は77%となった。

一方、日本はどうか?日本の国税庁が発表した「国民給与の実態調査」のデータによると、2012年の日本の性別賃金格差率は53.3%となった。また、ダボス会議を主催する組織である「World Economic Forum」が発表した「Gender Gap Index 2014」のデータによると、日本の順位は104位だ。

この結果は、女性管理職割合を2020年までに30%にすることなどを含む、安倍晋三首相肝いりのウーマノミクスが、現段階ではうまく機能していないことを示唆している。また、同フォーラムでは、賃金格差を始めとする男女の不平等は世界の国々にとって極めて重要な課題だと指摘している。

Pick 3:アカデミー脚色賞受賞者は、壇上で“Stay weird, stay different”と叫ぶ

アカデミー脚色賞に表彰されたGraham Moore(グレアム・ムーア)の受賞スピーチも印象に残った。

最初Mooreは、気楽に受賞の喜びを語った。だが途中から、改まった口調に移行した。演説の途中で、16歳のときに自殺未遂をしたことを告白したのだ。

本人が自分の命を絶ちたかった理由は、自分がどこにいてもなじめず、どこにも自分の居場所はなく、自分は人と違っていると思っていたからだ。

「自分は何かおかしい,どこか人と違っている,どこにも居場所がないと感じている子に伝えたい。Stay weird, stay different(変なままでいなさい,違っているままでいなさい)。君の番になって,君がこのステージに立つときがきたら,どうか次の子に同じメッセージを伝えてほしい。」

データの上からも、Graham Mooreの経験は、珍しいことではない。

American Foundation For Suicide Preventionによると、アメリカの15-24歳の若者の約5人の1人は、自殺を考えたことがあるという。若者の自殺が大きな問題となっているからこそ、Mooreの演説は意義があった。

アカデミー賞のように国内外の数多くの人に観られる偉大なイベントを利用して、受賞した俳優や脚本家達が男女の平等や若者の自殺など、重要な社会問題に対して声高に意見するのは、画期的だ。

彼ら彼女らが意図したかった、本当のメッセージとは何か? 女性だけでなく男性も、こうした重要課題を解決すべき方法について、より議論を深め、積極的に関わるべき時が来ているのではないか。

※Weekly Briefing(ワールド編)は毎週水曜日に掲載する予定です。