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【第2回】アップルカーの衝撃

難易度は電話の100倍。アップルカーの勝算

2015/2/24
2月中旬、世界を駆け巡った「アップル、自動車産業参入」のニュース。2月20日には、ブルームバークが「2020年にもアップルは電気自動車を製造開始する」と報じた。アップルはなぜ今、自動車産業に参入するのか、そして、アップルに勝算はあるのか。3回にわたり、ブルームバークによるレポートを掲載する。
第1回:アップルカーは、自動車市場を“破壊”するのか?

自動車は電話の100倍難しい

電気自動車(EV)市場への参入を決める前に、アップルは昨今の自動車産業が抱えるさまざまな難題を十分に検討する必要がありそうだ。アップルは、ミニバンに似たEVの初期開発を行う極秘プロジェクト「Titan(タイタン)」に、自動車業界から新たにスカウトした人たちも含め、数百人を投入している。アップルが開発する車は、テスラ・モーターズや日産自動車、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーターなどのEVやハイブリッド車に挑むことになる。

実際にEVを製造するとしたら、アップルは安全規則の強化や、排ガスを一切出さない無公害車「ゼロ・エミッション車」をめぐり二転三転する規制環境にも対応しなければならない。またEVの利益率は低く、利益をこよなく愛するアップルの株主が経験したことのないような赤字を計上する公算が大きいことも忘れてはならない。

ミシガン大学の経営大学院教授エリック・ゴードンは、「電話ビジネスで成功しても、自動車ビジネスはその100倍難しい。電話の組み立てだったら中国企業に委託すればいいが、自動車の複雑な組み立ての場合はそうはいかない」と指摘する。

ただ、アップルには1780億ドルの現金をため込んでいるという利点がある。当社の集計によると、これはフォルクスワーゲンの6倍、ゼネラル・モーターズの7倍に当たる。実際、この現金だけで、向こう20年間のGMの設備投資を賄うことができる。

ハードではなくソフトを開発?

同社はいくつかの選択肢を検討しているとみられる。コンサルティング会社オート・レクトリフィケーションの最高経営責任者(CEO)で、シボレー「ボルト」の開発に参加したジョン・ベレイサは、自動運転車を制御したり、現在の人間による自動車の制御を見直したりするようなソフトを開発する可能性の方が高いと言う。

ベレイサは電話インタビューで、こう語った。

「それでも車には変わりなく、アップルにはなじみのないものだ。自動運転車では、ソフトも、コンピュータを使った計算も、制御装置も増える。その一部はクラウドに置かれるかもしれない。自動車メーカーと協力して、アップル製品を車の中に組み込もうとするかもしれない」

消息筋によると、自動車開発プロジェクトを率いているのは、iPhoneの製品デザイン担当副社長、スティーブ・ザデスキーだ。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は13日、ザデスキ―が1000人のチーム編成と、社内からの要員の抜てきを認められたと伝えた。同紙によると、カリフォルニア州クパティーノのアップルの本社から数キロのところにある秘密の場所で、チームは自動車製造のためのさまざまな種類のロボティクス、金属、素材などの研究をしている。

電気自動車のシェアはまだわずか

ナビガント・コンサルティングの上級リサーチアナリスト、サム・ジャフィーは電話インタビューで、アップルが自動車産業に関心を寄せているのは、現金を使う方法を探しているためかもしれないと述べた。

「ため込んだ現金を使うには新しい市場に参入する必要がある。その一つが自動車なのは避けられない。自動車産業の将来は、消費者向けエレクトロニクスのデザインの特質を再現することにあるからだ」

アップルはデザインの世界におけるリーダーとみなされているが、それだけでEVが成功する確率が高まるわけではない。ガソリン価格の下落によって、低燃費車の販売が減少した。日産自動車は販売台数を増やすためにEV「リーフ」の価格を引き下げ、 GMも同じ理由でプラグインハイブリッドカー、シボレー「ボルト」を値下げした。

EVが世界的な自動車販売に占める比率はまだまだ微々たるものだ。日産は3年かけてようやく「リーフ」を10万台販売した。テスラは昨年、セダンの「モデルS」を3万1655台販売し、今年の目標は5万5000台だが、依然として赤字だ。年間1億台を上回る自動車産業全体の規模に比べればごくわずかにすぎない。

(執筆:David Welch、Dana Hull記者、翻訳:飯田雅美)
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