進撃の中国IT

正月特番で10億アクセス、ただのお年玉じゃない魅力

WeChatお年玉が放つ、未来イノベーション

2015/2/24
旧暦正月の大みそかにあたる2月18日夜、人々は「数百万元を取り逃した」という思いに見舞われた。この日、スマートフォン向けメッセンジャーツール「WeChat」が提供するご祝儀サービスでは、なんと10億件を超えるお年玉が飛び交ったのである。

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国営テレビ特番とタイアップ、お年玉10億件

大みそか、「WeChatご祝儀サービス」が人々の話題をさらった。

[訳注:WeChatご祝儀サービスはWeChat上の自分のフォロワー向けにお年玉を発行できるサービス。WeChat上でつながっている友人たちでそれを奪い合う。そして中に入っている金額は分からず、運試しとゲーム的要素が強い。昨年の旧正月から始まったサービスだが、今年も爆発的な人気を集めている。]

ショップ、経営者、親戚縁者や友人のほとんどすべてがWeChatご祝儀サービスに夢中になった。WeChatの公式統計によると、大みそかに送られた紅包はのべ10億1000万件。中国版紅白とも呼ばれる、国営テレビ局CCTVの大みそか特番「春節聯歓晩会」も今年はWeChatと提携し、夜10時半から番組の掛け声とともに1億2000万件もの「WeChatご祝儀サービス」を送った。

さらに、それを受信するためのお約束の「シェイク」[訳注:受け取るためにスマートフォン(スマホ)を発信者と同時に振る動作]は、ピークとなった時間帯で1分間になんと8億1000万回に達したという。

人々は今もまだ、次のお年玉が手元に届くのを今か今かと待っている。そんなWeChatご祝儀サービスの価値は我々が今、目にしている程度のような簡単なお話ではくくれない。その素晴らしさをここでご紹介する。

その1:WeChatご祝儀サービスは生産力そのもの

広州茂騰信息科技有限公司の韓義・董事長はWeChat上に開いた企業告知アカウント「広東創業」で、「WeChatご祝儀サービスが爆発的な生産力を見せた」と述べた。

1日のうちにユーザー間に生まれた110億回ものインタラクティブなやりとり、10分間に送られた1億2000万件ものお年玉、一挙に8億1000万件を1分間に送り出す処理能力、そしてそれを世界185カ国へと飛ばす…これらをWeChatご祝儀サービスは短時間に、高効率に完了したのだから。

その作業量からモバイルインターネットにもたらされた生産力をうかがい知ることができる。もし、宅配やオンライン銀行で1億2000万件ものご祝儀を185カ国へ届けるなら、それにかかる時間と経費は比べようもない。

その2:WeChatご祝儀サービスは「クラウドソーシング」

「これから協同経済モデルが大流行するだろう」と、韓義氏は見る。

WeChatご祝儀サービスは典型的なクラウドソーシングだ。しかも、この協同モデルは限界経費がゼロなのである。これほど膨大な仕事を完全にクラウドの協力だけで完成する。

今後、義援金などの分野でこれと同様の協同モデルを行うことが出来るという。例えば四川大地震のような国民的大事件が起きた時、(呼びかけに答えて)スマホをシェイクするだけで義援金を直接送金できる。さらに社会的に自動化された物流システムと連携すれば、支援金を直接、必要とする対象者に送り届けることができる。中国赤十字のお手間を取らすような作業は必要なくなる。

[訳注・「中国赤十字のお手間」:2008年の四川省大地震の際、中国赤十字には被災地向けに莫大な義援金が集まったが、そのうちの多額を「事務費用」として手元に残していたことに対する皮肉である。赤十字は当時、大批判を浴び、それをきっかけに人々は旧態依然とした国の機関である赤十字を信用せず、NPOやNGOを支援する傾向が強まった]

その3:「シェイクご祝儀」+小売企業=新たなチャンス?

iBeaconセンサー機器メーカー「Sensoro」は、「シェイクご祝儀」と伝統小売業を結びつければ、O2O(オンラインからオフライン)の新たな入り口となる可能性があるとしている。

実のところ、今年は旧暦正月入りする前から少なからずのショップがWeChatご祝儀サービスとシェイクのキャンペーンに参加していた。あるショッピングモールでは、シェイクすることで周囲のショップのサービス情報や広告、ご祝儀や割引クーポンを入手することができる。さらには、シェイクでWeChatを使って支払いを済ませることができるお店もあった。

オフラインの小売店がオンラインを突破口として顧客を呼び込める。顧客にとってもより良いショッピング体験が可能になるというわけだ。

またWeChatでご祝儀をゲットできなかったユーザーには、ショップが現金や割引クーポン、引換券などを送って「残念賞」にするというパターンもある。単刀直入な一般広告と比べ、ご祝儀サービスならより親しみやすい形でユーザーにリーチできるのだ。

その4:ご祝儀の力を借りて「耳目を集める」メディア

黄金番組だ、看板番組だと言われながらも年々注目度が下がっている、CCTVの旧暦正月大型特番「春節聯歓晩会」。だが、今年はWeChatご祝儀サービスのおかげで生気を取り戻した。今年は特にご祝儀を視聴者に送る場面だけではなく、画面の左下にずっと「シェイク」のアイコンが映し出されていたのもなかなか印象的だった。

ユーザーはスマホをシェイクするとご祝儀を受け取れるだけではない。番組内容の紹介や出演者の情報なども閲覧できる。テレビの一方的な放送がリアルタイムなインタラクティブな放送へと変わったことで、ユーザーの視聴体験もより面白いものになった。

さらに、メディア側もこうした試みを通じてユーザー側のトラッキングデータが収集できる。そこから、ユーザーのいる場所、使用しているスマホのブランド、番組を見ている時間の長さなどを分析できるのだ。こうしたリアルタイムかつ低コストのインタラクティブさは、違うタイプのメディアも参考にできる好例だ。

その5:WeChatご祝儀サービスは「重要な」ソーシャルコミュニケーション

かつてある人がこんな心配をしていた、「WeChat上では『カネの話をすれば感情を損なう』のでは」と。

だが、これまでの観察と分析などから見て、WeChatご祝儀サービスは感情的なトラブルを生まないばかりか、きわめて「重要度の高い」ソーシャルコミュニケーションであることが明らかになった。そう、そこで繰り広げられるご祝儀争奪戦も一種のソーシャルコミュニケーションなのだ。

「床に落ちている0.1元(約1.9円)は拾わないが、WeChatなら0.01元(約0.19円)取り合う」という言葉がぴったりだ。WeChatの友人リストに入っていても日頃は会話すらしないメンバーが、ご祝儀となると「本能的」に奪いに来る。

「今日、ご祝儀を使えば解決できるなら、なるべく言葉を使わずに済ませよう」[訳注:あけましておめでとうのあいさつよりも紅包を送ろうという意]。さすがにこれは冗談だが、それをソーシャル的に逆視点から見れば、疎遠になっていた友人との交流を温めるプロローグにすることもできる。WeChatご祝儀は明らかに「おめでとう」の言葉を一括送信するより、ずっと幸せな気分になれる。

大みそかは過ぎたが、 ご祝儀サービスはまだ続いている。WeChatのご祝儀サービスにもまだまだ多くの応用方法があるはずだ。これを読んでいる間にもご祝儀を一つ取り損ねてしまったかもしれない。だが、この記事を理解したあなたは、今年のうちに大みそかに取り逃した数百万を稼ぎ出すことができるかもしれないのである。

(執筆:高晨/ifanr.com 翻訳:高口康太 写真:ifanr.com)

※本連載は毎週火曜日に掲載する予定です。

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