2023/5/7

【教えてプロ】今、改めて知りたい「出社する」意味

NewsPicks コミュニティチーム
ゴールデンウィークも今日で終わり。9連休だった人も、カレンダー通りだった人も、明日からいつもの毎日に......。
と、なりそうなところですが、勤め先はリモートワークOKという人も、明日はあえて出社してみてはどうでしょう?
今週の【#教えてプロピッカー】は、明日から仕事の景色が変わる「出社の効能」を解説していきます。
(※コメント欄でピッカーから質問を募る「#教えて」シリーズの詳細はこちら
INDEX
  • 🏢 会社はなぜ出社を求めるの?
  • 💡 取り戻すべき「創発の機会」とは?
  • 👩🏫 リモートワークは育成に不向き?
  • 😁「出社効果」を高める環境とは?
  • 次回「#教えて」シリーズは5/14予定

🏢 会社はなぜ出社を求めるの?

今回取り上げるのは、米国の大手テック企業で進む「リモートワークからオフィス回帰へ」というニュース(下の記事)に寄せられた質問です。

出勤の時間とストレスがなくなり、仕事も効率化しやすいなど、メリットの多い働き方なのに、企業側はなぜ出社を求めるのか。そんな疑問について、プロピッカーの石原直子さんが解説します。
上の記事で紹介しているのは米国のリモートワーク事情ですが、日本も同じようなトレンドにあります。
カオナビHRテクノロジー総研が、20歳以上60歳未満の有業者1万5292名に行った調査結果を見ると、「毎日出社している」と答えた人の割合は
  • 2022年1月:69.3%
  • 2022年2月:75.8%
  • 2022年12月:78.0%
と徐々に増え続けています。
一方で、毎日、または週に何度かリモートワークをしている人の割合は、2022年12月時点では全体の2割を切っています(18.7%)。
(iStock / Aleutie)
「毎日出社」が増えた一番の理由は、新型コロナウイルスの感染拡大がだいぶ収まってきたことにあるでしょう。コロナ以前の働き方に戻したほうが、組織運営が楽だと考える企業もあったと思われます。
ただし、「職場に集まって」「みんなで働く」意味を、以前と同じように捉えるのは少しもったいない。
ここでは、明日からの出勤がちょっと楽しくなりそうな、2つの側面に注目してみましょう。
キーワードは「創発」と「成長」です。

💡 取り戻すべき「創発の機会」とは?

ご質問ありがとうございます。
リモートワークは通勤のストレスから解放され、時間を有益に使えるというイメージがありますし、実際に個々人の生産性が上がったという調査結果もいくつか出ています。
しかし、企業が業績を上げ続けるには、業務を効率的にこなす以上のことが求められます。
新サービスや新機能の開発、新たなマーケティング手法の創出など、イノベーションを起こしていくことです。
(iStock / Alexey Yaremenko)
イノベーション研究で知られる経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、これまで組み合わせたことのない要素を「新結合」させることで新たな価値が生まれると説いています。
新結合には複数人による「創発」が大切で、創発が起こる時は往々にして偶発性も関係してきます。
仕事を離れて無駄話をしている最中に、今まで思いつかなかったようなアイデアをひらめいた。1人で抱えていた仕事の悩みが、他部署の誰かの一言で解消した。
そんな経験は、誰しも一度や二度はあるでしょう。
リモートワークでオンラインのコミュニケーションだけになってしまうと、こういう偶然が生まれるきっかけが減ってしまうのです。
(iStock / Overearth)
リクルートワークス研究所の機関誌『Works』が昨年10月に特集した「リモートとオフィスの最適解 働く場所を選ぶのは誰か」には、これを裏付けるデータが載っています。
同研究所が2021年10月、日本の3大都市圏の従業員50名以上の企業で働くオフィスワーカーを対象に行った調査では(有効回答数4202名)、リモートワークで
📌 共助・フィードバックの機会
📌 ネットワーク拡大の機会
が減ったと答えた人が、増えたと答えた人の割合を大幅に上回っています(下図)。
出典:リクルートワークス研究所「職場における集まる意味の調査」(2021年12月2日)
これらはどれも、仕事で偶発的に何かを生み出すきっかけになっていたものです。
しかも、リモートワークは図の一番上に書いてある「部下やメンバーの育成に関わる機会」も奪いがちです。
中長期目線で考えると、これは企業の存続をも左右する重要な問題になります。
そこで、2つ目のキーワードに挙げた「成長」の話につながっていくわけです。

👩‍🏫 リモートワークは育成に不向き?

オンライン中心のワークスタイルだと、対面で仕事をする時よりも学習の機会が減ってしまいます。会議や1on1のやり方をどんなに工夫しても、です。
その理由を、人事界隈で有名なサイバーエージェントのCHO(最高人事責任者)曽山哲人さんは
「リアルは五感、オンラインは二感」
という表現で説明しています。
▶︎参照:曜日により出社と非出社をわける「リモデイ」二感と五感の差をどう埋めていくのか(リクルートワークス研究所 | 2021年10月25日)
(iStock / Liana Nagieva)
職場に集まって働いていると、五感をフル活用して学べる一方、リモートワークだと視覚と聴覚でしか(しかもPCの画面越しにしか)インプットできないという意味です。
例えばオフィスの隣の島で、他部署の人たちがトラブルの対応について協議している場面に出くわしたとしましょう。
そんな時、私たちはピリピリした空気を感じながら、「これは一大事なんだ」と知るわけです。「私も気をつけよう」と。
対応に奔走する社員の動きを見て、トラブルシューティングに必要な姿勢を学ぶこともあるでしょう。
これは、自分のチームだけでオンライン会議をしていたら、絶対に画面に映らない光景です。
(iStock / kumikomini)
もう少し前向きな例も挙げましょう。
私の前職だったリクルートグループには、営業担当が目標を達成した時などに、くす玉を割る文化があります。
そこに集まる人たちの祝福ぶりを見て、新入社員は「この仕事では何をすれば評価されるのか」を肌で学んでいきます。
マネジャーたちも、ほかのチームが目標を達成した時にどう振る舞うのかを傍目で見ながら、強い信頼関係で結ばれたチームの雰囲気を“嗅ぎ取る”ことができます。
リモートワークでは、「あなたの仕事ですよ」と割り当てられた仕事を終えるという意味での生産性は上がるかもしれないし、「必要な」会議では貢献できるかもしれませんが、それ以上の活動や貢献ができる機会に気付かないでいるかもしれないのです。
(iStock / Pornpimon Rodchua)
先のコロナ禍では、「何をやればいいか分からない」と悩む新入社員の声と同じくらい、「メンバーの成長が止まっているように感じる」と吐露するマネジャーの声も数多く聞きました。
この双方の悩みを解消する手段の1つが、「出社して働く」ことなのです。

😁「出社効果」を高める環境とは?

最後に、「創発」と「成長」を促すための環境づくりについても説明しましょう。
大切なのは、出社すること自体ではありません。チームメンバー同士が、もっと言えば部署を超えて、社員が交流し合う機会をどうつくるか?です。
(iStock / recep-bg)
何も、勉強会や事例共有会などを企画して、他部署を巻き込んで実施しようという話ではありません。それならオンラインでもやろうと思えばできます。
もっとカジュアルなことでいいので、リアルな人脈を広げる機会や、社員同士で感情を共有する機会をつくってみましょう。
人は、感情が揺さぶられた瞬間にこそ、心から何かを学ぶものです。同僚たちと喜怒哀楽を共有する機会をつくることは、思っている以上に大切です。
具体例として、米オンラインストレージサービスのDropboxがやっていた興味深い取り組みを紹介しましょう。
(iStock / hocus-focus)
私の知り合いが数年前に同社のサンフランシスコオフィスを訪れた時、打ち合わせ兼休憩スペースのような所に通されて、「ここでは毎日味の違うアイスクリームが無料で提供される」と説明されたそうです。
なぜ日替わりなのかと尋ねると、
「毎日味が変わるから、ここに立ち寄ると『今日は何味?』と会話するきっかけになる」「今日のアイスを楽しみにやって来る社員も増えた」とのこと。
こうやってコミュニケーションを“デザイン”することで、他部署の社員同士が交流し、仕事の相談に発展するきっかけにもなると聞いて、私も感銘を受けました。
(iStock / Edwin Tan)
日替わりでアイスクリームを提供するのは、なかなか真似できない施策かもしれません。でも、アイデア1つで普段の業務では接しない社員同士のつながりが生まれ、他部署の仕事に対する気配りも生まれるという好例だと思います。
誰かを助け、喜んでもらうスキルは、これから仕事の中身がよりデジタルを活用したものに変化していくとしても、全職種共通で必要とされます。
こういう人間らしいスキルを磨く意味でも、出社が義務ではない企業の方々も、たまには出社して同僚たちと接しながら仕事をしてみましょう。

次回「#教えて」シリーズは5/14予定

NewsPicksは、これからもピッカーの「もっと知りたい」にお応えしてまいります。
【#教えて編集部】【#教えてプロピッカー】でいただいたコメントには、全て目を通しておりますので、たくさんの「問い」をお寄せいただけたら幸いです。
また、問いに対する答えは1つではなく多様であるため、追加取材した記事の内容も1つの意見だということをご認識いただけましたら幸いです。