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メジャー流の「アフィリエイト制度」が、日本野球を変える

日本のプロ野球はメジャーから何を学ぶべきか

2015/2/22
ビッグクラブのすべてでは、最新のスポーツビジネスの姿を描くべく、サッカー、野球など、あらゆるスポーツのビッグクラブのビジネスをインフォグラフィックで解説。あわせて、スポーツビジネスを知り尽くしたデロイトトーマツのコンサルタントたちが、クラブ、リーグという視点から分析を行う。今回は、デロイトトーマツのコンサルタントによる分析編です。

依然急成長を続けるメジャーリーグ

どんなに野球を知らない人でも、メジャーリーグが日本のプロ野球よりも市場規模が大きいことは容易に想像がつくだろう。だがそのメジャーリーグが今もなお急成長を続け、市場規模を拡大していることはあまり知られていない。

メジャーリーグ全体(リーグ+球団)の売上高は2010年時点で6100億円だった。これは日本のプロ野球の売上約1400億円の4倍超の規模である。だがわずかそれから4年経った2014年の売上高はなんと、9000億円に増えている。これは平均して毎年約10%も成長してきたことを意味する。

なぜこれほどの成長を実現できたのだろうか。その大きな理由は、メジャーリーグが球団・リーグ一丸となって、さまざまな制度を積極的に取り入れ、ビジネス構造を変革してきたことにある。

例えば、1球団が使用できる選手総年俸に上限を設定する「サラリーキャップ制度」、その上限を超えた場合にMLBコミッショナーオフィスへ罰金を支払う「ラグジュアリー税制度」。またチケット・グッズ関連収入、MLB.com収入、放映権収入、ラクジュアリー税の合計の一定割合をMLBへ上納し、最終的に30球団へ均等分配するという「レベニューシェアリング」も特徴的だ。

これらの制度により、各球団の戦力や売上の公平性が生み出され、野球の魅力が継続的に向上した。それが収益成長へとつながっているのだ。

そして日本のプロ野球でも参考になるであろう、もう1つ特徴的な制度として「アフィリエイト制度」がある。これはメジャーとマイナーの球団関係を構築しているものである。

日本の場合、12球団はマイナーチームを2軍として自前で抱えている。要するに一つの組織内に1、2軍を置くという考え方だ。

一方、MLBでは、コミッショナーオフィスが定めている公式野球ルール(MLB Official Baseball Rule)に則り、独立母体であるマイナー球団(AAA、AA、A)はメジャー球団とファーム独占契約を締結するのが一般的だ。

つまり、締結後にそのマイナー球団がメジャー球団の正式な2軍となり、選手の行き来の場となる。MLBが採用しているこの制度を「アフィリエイト制度」と呼ぶ。

唯一、ニューヨーク・ヤンキース(スクラントン)、アトランタ・ブレーブス(グウィネット)、セントルイス・カージナルス(メンフィス)の3球団のみ、メジャー球団が直接AAA球団を保有しているが、その他27球団はこの「アフィリエイト制度」を利用してマイナー球団と提携している。

この「アフィリエイト制度」のメリットはどこにあるのか。なぜこの制度が、日本野球界を活性化する切り札となるのか。その理由と日本導入への可能性を探ってみたい。

アフィリエイト球団の3つの特徴

「アフィリエイト球団」の制度にはいくつか興味深い特徴がある。特に注目すべきは、「コスト分担」「アフィリエイト先の変更」「独立採算」である。順に説明していこう。

MLB公式野球ルールの56章「Standard Development Contract」(全60章)には、独立母体がアフィリエイト球団となるための規定があり、PDC(Player Development Contract)の締結によって正式にマイナー球団となる。

PDCの中では、マイナー球団のコストを誰が何を支払うかが規定されているが、驚くべきことに、メジャー球団はマイナー球団の運営コストを払う必要がない。

各球団毎の契約によって若干の差はあるものの、一般的にはメジャー球団がマイナー球団のコーチ・選手の総年俸、春季キャンプ費用(旅費、食費、移動費)、医療費を負担する一方、マイナー球団は運営費、シーズン遠征費、ユニフォームなどのその他備品を支払う構図だ。

マイナー球団は選手・監督・コーチの人件費を負担する必要がないため、非常に効率的である。
 図1_マイナー球団の費用

「アフィリエイト制度」の斬新さは、コスト負担の方法だけではない。契約期間が終われば、アフィリエイト先を柔軟に変えられるのも大きな特徴だ。

MLBが認めているアフィリエイト契約は2年契約であり、2年後に契約更新もしくはアフィリエイト先の変更が認められている。実際、アフィリエイトを持つAAA30球団は、各球団の創設年から2015年現在までに、平均して5.8回も変更している。単純に距離的に近いメジャー球団に変更する場合もあれば、メジャー球団側がマイナー球団の選手育成施設や育成方針に惚れ込む場合もある。

今年イチロー選手が契約した1993年創設のフロリダ・マーリンズの下部組織ニューオーリンズ・ゼファーズについては、何と過去18回もアフィリエイト先が変わっている。選手の立場からすれば、メジャー昇格の際の所属球団が変わることから大きな影響を受ける。しかし、能力の高い選手がひしめくAAAでは、環境の変化で大化けする選手が多数存在するため、選手側にとっても有り難い制度と言える。

もうひとつのマイナー球団の特徴は、独立採算であることだ。マイナー球団は、親会社に頼ることなく、自らの経営責任で収益を挙げている。

例えば、2013年度はAAA全体の20チームが600万ドル(約7億円)以上の売上高を達成し、16チームが営業ベースで黒字となった。オークランド・アスレチックスのマイナー球団であるサクラメント・リバーキャッツは、売上高1400万ドル(約16.6億円)、営業利益710万ドル(約8.3億円)をたたき出している。

また、シンシナティ・レッズのマイナー球団であるデイトン・ドラゴンズは、何とA球団にもかかわらず、売上高940万ドル(約11億円)、営業利益390万ドル(約4.6億円)を生み出した。多くの球団が赤字経営である日本の現実を鑑みると驚くべき数字だ。
 図2_アフィ先変更回数

 図3_売上と営業利益

ウォーレン・バフェットも出資。マイナー球団という優良案件

実は、カンサスシティ・ロイヤルズ下部組織のオマハ・ストームチェーサーズを25%出資しているのが、あのウォーレン・バフェット氏である。バフェット氏だけではなく、マイナー球団に出資している有力経営者は多い。

では、どうしてストームチェーサーズのようなAAAチームが投資案件として注目されるのか。それはチームの利益率が単純に高く、地域密着型のボールパーク化を実現しており、質の高い利益を継続的に計上しているからだろう。

なぜ、これらの球団は高い収益を上げられるのだろうか。

まず、球団運営においてコストを圧迫する選手人件費が安い上に、支払う必要がない。元々マイナー契約のAAA選手は、月々平均2000ドル(約24万円)と格安であるが、球団は保有する監督・コーチを含む約40選手の5カ月分の給与分である約40万ドル(約7200万円)を支払わずに済む。

年俸3.4億円のメジャー40人枠が保障されているメジャー契約の選手や、年俸10億円以上の著名選手が不振や調整でAAAの試合に出場する場合も想定される。実質的にメジャー球団からスター選手を無償で借りて、自分の庭でプレーさせることができるのだ。これは、顧客への魅力的なアピールとなる。

では、マイナー球団は、人件費の浮いた分をどこに投資しているのか。それはボールパーク化の核となるスタジアムへの投資などである。建設されるスタジアムは、日本特有の自治体が建設設計するような面白みのないスタジアムではなく、球団独自の色と個性がぎっしり詰まったファンから愛されるべきスタジアムだ。この日本にない高いホスピタリティが、顧客のリピート率とチームのブランド力を高め、地域に根ざした安定的経営に寄与している。

こうした構造を理解していれば、2013年にカリフォルニア州都で中堅都市に本拠地を置くサクラメント・リバーキャッツが、売上高約16.6億円、営業利益約8.3億円を叩き出せる理由がよく分かるだろう。投資案件としてのマイナー球団は、著名投資家のバフェット氏をも惹きつける「中長期的な優良案件」なのである。

日本でも「アフィリエイト制度」が求められる3つの理由

翻って、日本では、球団単体で黒字化に成功しているのは、巨人、ソフトバンク、阪神、広島である。親会社からの多額の広告宣伝費で存続している他球団も、球団単体での黒字化を目指している。

黒字化を目指すためには、外貨誘致のためのリーグ一体となったアジア戦略も必要だが、この「アフィリエイト制度」を使用した2軍構造改革は一つのヒントになるだろう。実務上実現させることは多くの困難を伴う可能性は高いが、私は以下の3点の理由から大いに検討の余地があるものと思う。

一つ目に、単純に球団のコスト削減につながるからである。2軍チームの運営費を免除されると同時に、その他コストについても契約次第であることからメリットは大きい。浮いたお金を選手年俸やFA選手獲得に使用することもできる。

二つ目に、2軍が別組織となり独立採算を行うことにより、2軍リーグに1軍とは違った独自性を生み出すことができるからである。1軍とは違ったエンターテインメントを築ければ、魅力的な市場となる可能性を秘めている。経営方針と地域性がマッチすれば多くの投資家を呼び込むことも不可能ではない。

三つ目に、地域活性化である。アフィリエイト球団を地方に置く場合、不振で2軍落ちした著名選手や、将来のスター候補である2軍選手を目の当たりにできる。著名選手を一目見ようと観客が集まり、地域の活性化につながる。

では、日本国内ではどの独立母体が2軍組織の役割を担えるのだろうか。筆者は独立リーグ球団が最適なコンテンツなのではと考えている。最近はプロ入り選手も増えてきているが、ビジネスとして成功しているか、投資案件として魅力的かと問われると、疑問が残る。

また、地域活性化への貢献もまだ道半ばだ。しかし、この独立リーグ球団が1軍球団のアフィリエイト球団というブランドを得て、2軍選手(及び不振・調整中の1軍選手)を無償で借りることができれば、独立リーグを取り巻く経営環境も大きく改善されるだろう。日本の野球市場をトータルで考えたとき、独立リーグ球団が「アフィリエイト制度」で12球団の2軍組織になるのは非常に面白いし将来性がある。

エンターテインメントの多い日本においては、海外市場開拓もしくは内部構造や既存制度の抜本改革以外に、プロ野球の市場規模の拡大は難しい。2軍を独立採算化させることで、1、2軍の両組織がウィン・ウィンの関係を構築する可能性を秘めた「アフィリエイト制度」は、日本野球市場の裾野を広げる起爆剤になるかもしれない。

(執筆:中島有也)

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