Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)
リンクトインが、最強のビジネスメディアになる日
2015/2/17
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。火曜日は、世界と日本のメディア・コンテンツ・マーケティング関連のニュースをコメントとともに紹介します。
リンクトイン=広告?
先日、プロのマーケターと食事していた際、「今、BtoBのマーケティングで、もっとも効果の高いメディアは何ですか」と聞いたところ、「リンクトイン」との答えが返ってきた。
リンクトインと言えば、ビジネス系SNSの大御所。ビジネスパーソンのプラットフォームとして、圧倒的な地位を築いている。ただし、リンクトインと聞いて、広告、マーケティング、メディアというキーワードを想起する日本人はまれだろう。
「リンクトイン=広告?」という謎が頭によぎっていたときに出会ったのが、『現代ビジネス』に掲載された、市川裕康さんによるリンクトインの記事だ。この記事を読んで、リンクトインにがぜん興味をもった。
今回のWeekly Briefingは、コンテンツ、広告のプラットフォームとして進化する、リンクトインについて記したい。
Pick 1:メディア化するリンクトイン、広告化するリンクトイン
・市川裕康:“約3.5億人が利用する「リンクトイン」—プロフェッショナル同士の国際的な対話プラットフォームとしての可能性” 現代ビジネス(2015年2月10日)
・Michael Sebastian:“Could LinkedIn Be Adland’s Next $1 Billion Player?” AdAge(2014年10月13日)
・“Workers of the world, log in” The Economist(2014年8月16日)
まずは、リンクトインのビジネスについて簡単におさらいしておこう。
2003年、ペイパルマフィアのひとり、リード・ホフマンが創業したリンクトイン。その後、会員数は右肩上がりで増え、2015年2月時点で3億4700万人に到達している(下記、上の図)。日本でこそ、会員数100万人で低迷しているものの、インド、ブラジル、英国、カナダなど、多くの国々でビジネスパーソンのインフラと化している(下記、下の図)。
業績もすこぶる好調だ。2014年12月期については、決算アナリシスに詳しいが、売上高は過去5年で約10倍に増加。時価総額は336億ドル(約4兆円)に達している。投資が先行しているため、利益の伸びはさほどではないが、高収益の土台は出来上がっている(下記の図)。
三つの成長事業
では、リンクトインはどのように稼いでいるのか?
同社のセグメントは三つに分かれる。採用を中心とする「リクルーティングソリューションズ」、広告を中心とする「マーケティングソリューションズ」、個人課金を中心とする「プレミアムサブスクリプションズ」だ。その内訳と詳細は以下のとおりだ(下記の図)。
(1)タレントソリューションズ:法人向けの採用サービス。企業は会員になれば、3億人以上のリンクトインユーザーを検索して、目当ての候補者にアプローチすることができる。
(2)マーケティングソリューションズ:広告サービス。2013年には「スポンサードアップデート」を始動。企業は自社のリンクトインページを、ターゲットユーザーのニュースフィードに入れ込むことができる。シティ、シェブロン、GE、HPなどフォーチュン100に入る大手企業のほぼ半数が採用し、すでに部門売上の約3分の1を占めるまでになっている。
(3)プレミアムサブスクリプションズ:個人向け有料サービス。レファレンスサーチなどにより、特定の会社に勤める会員を調べたり、メッセージを送ったりすることができる。
「潜在転職者」という宝の山
リンクトインが、採用マーケットでここまで浸透した理由は大きく2つある。
一つ目は、採用コストの抑制だ。リンクトイン経由で候補者を見つければ、通常、年収の20%と言われるエージェント手数料を払わなくてすむ。また、学歴、職歴などのデータを基にターゲットを絞り込むことで、マッチングの精度が上がる。
そして何よりも大きいのは、「潜在転職者」にアプローチできることだ。つまり、転職活動をしてはいないが、いいチャンスがあれば、転職してもいいと思っている“受け身”の人たちにリーチできるのだ。
もちろん、自発的に転職市場に出てくる人にも、優秀な人はたくさんいるが、優秀な人ほど、今の職場でもいい仕事と待遇が与えられていることが多く、外へ目を開く機会が少ない。そうした人材を引き抜けてこそ、企業は繁栄する。そのためのツールとしてリンクトインは最高なのだ。
このタレントソリューションズの好収益をベースに、リンクトインはさらなる進化を遂げようとしている。特に注目すべき動きは、コンテンツ化とマーケティングプラットフォーム化だ。
100万を超えるオリジナル投稿
なぜリンクトインはメディア化を進めるのか。
その理由は単純明快。ユーザーの訪問頻度を上げるためだ。採用プラットフォームという役割だけでは、「仕事を探すとき」にしかサイトを訪れてもらえない。毎日サイトを訪れてもらうためには、転職以外の“客寄せ”が欠かせないのだ。
過去3年、リンクトインは、メディア化を進めるべくコンテンツへ積極投資してきた。2012年には、プレゼンテーション共有サービスのSlideShareを1.19億ドルで買収。続く2013年にはニュースアプリのPulseを傘下に収めている(買収金額は9000万ドル)。
そして、2014年2月には、リチャード・ブランソン、ビル・ゲイツなど一部著名人に限っていたコンテンツ投稿機能を一般メンバーにも開放。すでにロングフォームの記事数は、合計で100万を突破し、新規の投稿が1週間ごとに5万以上増え続けている。
例えば、今年1月に掲載された、オバマ大統領上級アドバイザーのヴァレリー・ジャレットによる「有給休暇」に関する投稿は、すでに40万近いPVをたたき出している。個人、企業、政府にとって、リンクトインはビジネスパーソンにリーチする貴重なメディアとなっているのだ。
ビジネスメディアとしての側面も持ち始めたリンクトイン。同社は、あくまでメディア企業はパートナーであり競合することはない、と主張しているが、少なくともBtoB広告を奪い合うライバルになることは確実だ。
P&G、メルセデスも熱視線
もう一つ、リンクトインは、マーケティングツールとしても大化けしつつある。
その魅力は、プロフェッショナル層を中心とした顧客層の良さと、そうした人々の膨大なビッグデータだ。これまでのリンクトインの用途は、あくまでBtoBのマーケティングが主流だったが、近年は、BtoCでも存在感を拡大。所得と影響力の高い消費者にリーチする場として、P&G、メルセデスベンツといった企業も熱視線を送り始めている。
リンクトインCEOのジェフ・ワイナーは「リンクトインを世界すべてのビジネスパーソン30億人が使うサービスにする」というビジョンをつねづね語っている。
さらなる地域的な拡大、さらなる職種の拡大(近年はプロフェッショナル職からより幅広い職へ展開)、さらなるソリューションの拡大(採用から、マーケティング、営業、コンテンツへの拡大など)により、巨大ビジネスプラットフォームへと変貌と遂げつつあるリンクトイン。
5年後に、リンクトインが“世界最強のビジネスメディア”となっていても決して不思議ではない。
Pick 2:リンクトインで探る、ネット四天王社員の転職事情
・Max Nisen:“Where Google, Facebook, and Tesla like to poach from” Quartz(2015年2月13日)
リンクトインが持つ、ビジネスパーソンたちの膨大なデータ。これを分析することで、どんなことが分かるのか。
一例が、シリコンバレーの転職事情だ。リンクトインの会員データをたどれば、どの企業からどの企業へ人が移っているかがよく分かる。経済メディア『Quartz』が調べた、シリコンバレー主要企業間の人の出入りを調べた記事が面白い。その一部を紹介してみよう。
・グーグルには3000人以上の元マイクロソフト社員、1500名超の元IBM社員がいる。
・アップルは、リテール部門が大きいため、一番多いのはベストバイ出身者(1200人強)。それにシスコが800名強で続く。
・フェイスブックの場合、マイクロソフトとグーグルの出身者がもっとも多い(ともに900名強)。
・テスラの場合、アップル出身者が最多で149人。それに、フォード、NUMMI、GM、トヨタ、インテルが続く。
・アマゾンは、本社が近いこともあり、マイクロソフト出身が圧倒的に多い。2位のIBM(871人)を突き放し、2723人がマイクロソフト出身者となっている。
・ウーバーは、かつての蜜月が壊れつつあるグーグルから多くの社員を雇っている。120名が元グーグル。それにアップルの89名が続く。
リンクトインのデータを使えば、雇用市場における人の動きが一目瞭然。今後は、アカデミズムの世界でも、リンクトインとコラボした研究が増えてくるのではないだろうか。
※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は毎週火曜日に掲載する予定です。
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