世界で戦う和僑たち_150213

クライアントのキャッシュアウトはゼロ

企業のエネルギー問題を解決する、コンサル和橋

2015/2/14
省エネによるコスト削減の必要が叫ばれて久しいが、肝心の打ち手に行き詰まりを感じる企業は少なくない。そんなエネルギー問題に切り込むベンチャー企業がいる。ファイナルゲートだ。2014年10月にはシンガポールにも進出し、勢いに乗る大迫康広社長を現地で取材した——。
ファイナルゲート代表取締役社長 大迫康広氏

ファイナルゲート代表取締役社長 大迫康広氏

管理担当者「やっと日の目を見た気がする」

ファイナルゲートは企業のオフィスビルや商業施設のエネルギー管理の支援を行っている。電力・ガス・重油・灯油などの使用量と関連する設備の仕様を把握し、個別の設備ではなく施設全体のエネルギー消費効率を最適化するコンサルティングと施策のエグゼキューション(実行)が専門だ。

同社は主に、商業施設やオフィスビル、複数事務所を展開する流通・小売などの中小企業、大企業に対してサービスを提供している。生活協同組合コープおきなわもそのひとつ。同県内に、本部のほかに商品センター1カ所、配送センター7カ所、店舗8カ所を運営している。

コープおきなわは2008年の省エネ法改正を受けて抜本的にエネルギー使用量を削減する方策を探していた。サービスを導入してから4年。以前と比較して、使用量は15.8%削減された。金額にして、年間約4千万円にのぼる。

現在、「設備」管理は保守をする機能にのみ位置付けられ、きちんと設備が動いていればよしとされている。だが、設備の管理を「エネルギー」の管理と捉えれば、保守だけでなく効率化も図るべき。削減されたコストが即利益となるからだ。だが、現時点で、それは多くの企業では不在の状態である。

そんな保守の担当者をして、「やっと私の部署、役割が日の目を見た気がしますよ」と言わしめた、大迫康広社長。どのような魔法を使ったのだろうか? エネルギー消費効率化の“秘密”とシンガポール戦略について聞いた。

大迫氏によれば、日本の企業の省エネに対する意識は著しく変わってきており、またそれを実現する技術トレンドのキャッチアップも早いという。電力の消費状況を「見える化」する装置を設置するところも現れ始めているが、肝心の「削減」段階で行き詰まっているという。

エンジニアの作業風景

エンジニアの作業風景

ファイナルゲートが講じる改善の手立てはいくつもある。例えば、オフィスビルの屋上などに設置する室外機の高圧洗浄。空調は外の空気を吸い、熱交換を行いながら冷気を作るが、吸気口のつまりをとることで効率を上げることが可能だ。

施設には、各種ダンパーと呼ばれる外気を取り入れる口、反対に内側の空気を吐き出す口、吐き出した空気を内側に戻す口がある。それぞれの開度を変化させることで、施設内に確保する風量や外気冷房の利用などを季節ごとに調整する。二酸化炭素濃度や正圧負圧にも気を配る。

高い専門性を求められるのは、設備単体の調整では施設全体として最適化されないからだ。例えば、ガス空調は冷媒を冷やして送り、冷気に変える仕組み。その冷媒をぬるくすればガス代は下がるが、その分ポンプに負荷がかかってしまい電気代は上がる。単体の適性を求めれば全体の適性をなくしてしまう。オフィスビルには220種類以上の改善ポイントがあり、それらを総合的にコンサルティングするのが大迫社長の仕事だ。

省エネは収益向上につながる、このことに気がついた不動産投資ファンドとも日本では協業している。ファイナルゲートのサービスを導入していることがその施設の価値向上につながると考えられているからだ。

クライアントのキャッシュアウトはゼロ。最強のビジネスモデル

企業のエネルギー管理の支援をうたう競合の多くは、省エネ設備をリースする対価を収益源としている。一方、ファイナルゲートのビジネスモデルは秀逸だ。支援することにより削減したエネルギー消費金額の50%を対価として受け取るというもの。キャッシュアウトはゼロ。つまり、企業は一切のリスクを負うことなく省エネに取り組めるのだ。

このモデルを採用している以上、合理的に考えて一定の規模のある企業が顧客となる。それゆえの難しさも。同社は知名度が低く、創業10年そこそこのベンチャー企業。聞き慣れないビジネスモデルも相まって、信用を得るには時間がかかるケースも。ITのような新しい分野とは違い、古くから存在するエネルギー業界ならなおさらだろう。

大迫氏が初めての海外進出先として選んだのがシンガポールである。同国を選んだきっかけは、アジアを拠点とする投資家加藤順彦氏らの指南を2012年8月にセミナーで受けたこと。その後すぐに視察を開始。確信を得た後、家族からの同意も得て出張ベースで準備を開始。そして今の現地法人の設立に至る。

確信を得た理由は3つある。1つはいろんな施設を見て回ったときに、想定していた通り日本の設備も多く使われているのを目にしたこと。日本で蓄積したノウハウを転用できると感じた。2つめはエネルギーの消費が旺盛なこと。南国にもかかわらず屋内では長袖を着なければならないほど冷房が強い。3つめは不動産投資が日本と同じく盛んなことだ。

「シンガポールでのビジネス経験豊富な人材も採用した。これからが本腰」と大迫氏。

「シンガポールでのビジネス経験豊富な人材も採用した。これからが本腰」と大迫氏。

足元の目標は、2年以内に年商3億円。キャッシュアウトがゼロというビジネスモデルからして顧客の獲得に懸念はない。しかし、契約した後に現場で改善策の策定やそれを実行するエンジニアの採用が課題となるだろう。

しかし、「本来的には国がやるべき」(大迫氏)と言っていいほど、社会的意義のあり、将来的なマーケットの広がりも見込める。同国で組織をつくり、ゆくゆくは官製ファンドとのプロジェクトなどにも携わり、シンガポールを足がかりに欧米にも進出をもくろむ。すでにインドの政府系機関からは声が掛かっているという。

「20年ほど前って、“情シス”(情報システム)なんて部署はありませんでしたが、テクノロジーが進化するにつれて担当者に求められる専門性も高まり、今となっては企業に欠かせない存在ですよね。エネルギーも一緒です。我々のような機能がこれからますます必要になってくると思います」

※次回は来週土曜日に公開する予定です。