2023/3/31
変わるゲーム開発。バンダイナムコエンターテインメントのヒットを支える立役者
NewsPicks / Brand Design 編集者
オリジナルIP(キャラクターなどの知的財産)である「アイドルマスター」「太鼓の達人」「鉄拳」をはじめ、「機動戦士ガンダム」や「ドラゴンボール」など人気タイトルの世界観を活用し、数々のヒットゲームを生み出してきたバンダイナムコエンターテインメント。これまでに幅広いIPを武器に、あらゆるジャンルのゲームを世界中に提供してきた。
日々数多くのゲームタイトルが生まれては消えていく、消費サイクルが加速し続ける昨今。タイトルをヒットさせる難易度が上がっていく中で、なぜバンダイナムコエンターテインメントは多くのファンが認める「名作」を生み出すことができるのだろうか。
「ファンの心に刺さるゲームをつくりたい」と語るのは、「ドラゴンボールZ Sparking!」シリーズをはじめとする家庭用ゲームに、これまで18年間ゲームプロデューサーとして携わり、現在はバンダイナムコエンターテインメントの横断専門機能部門・CX(カスタマーエクスペリエンス)戦略室の室長を務める三戸 亮氏。
三戸氏の考える「ヒットの条件」を通し、タイトルのクオリティを支える横断的組織や、バンダイナムコエンターテインメントで働くことの魅力について聞いた。
ファンの期待を「超える」モノづくり
──いまゲームの制作現場ではどのような変化が起きているのでしょうか。
三戸 ゲーム制作者の立場としては、昨今のゲーム制作の現場では、やるべきことと考えることが非常に増えました。家庭用ゲーム機・スマホのスペックやオンライン環境の急速な発展により、ゲームがよりリッチになっているためです。
複数のハードに対応する「マルチプラットフォーム展開」や、さまざまな言語に対応する「ローカライズ対応」など、今のゲームは世界展開を前提に作られていることもあり、技術的なタスクの難易度も上がっています。
費用面や制作期間においても、ハードの進化に応じて大規模な開発が増えてきたことは間違いないと思いますね。
ゲームの内容に関してもRPGやアクション、シミュレーションなど、そういった大元のジャンルは変わっていませんが、ゲームのオンライン化によって遊び方に新しい選択肢が生まれていると思います。
──家庭用ゲームとスマホ向けゲームアプリで、考え方の違いというのはあるのでしょうか。
大きく異なりますね。スマホ向けゲームアプリに関しては、短時間のサイクルで手軽に楽しみを得られる爽快感であったりとか、もしくは暇つぶしや時間つぶし目的で遊ぶシーンに対してもちゃんとうれしさを享受できるようにするなど、そういった瞬間的な気持ちよさが非常に重要だと考えています。
一方で家庭用ゲームは、じっくりタイトルの世界やストーリーを味わいたいとか、感動を得たいなど、そういった要素が重要視されます。
腰を据えて1時間、もっと長く遊ぶ方もいると思いますが、そうした前提の違いがあるため、お客様の楽しみ方が全く違います。お客様のニーズに合わせて、やり込める要素を付け加えるなどして、ゲームのつくり方も変えていますね。
──そんな中、バンダイナムコエンターテインメントは様々なジャンルで多くのゲーム商品・サービスを展開しています。どのような特徴が挙げられるでしょうか。
まさに、多種多様なゲームタイトルを手掛けていることが大きな特徴ですね。例えば、フロム・ソフトウェアと共同開発したアクションRPG『ELDEN RING(エルデンリング)』のようなダークな雰囲気のタイトルから、明るくみんなで楽しめる和太鼓リズムゲーム『太鼓の達人』まで、ターゲットも内容も全く異なるゲームを提供しています。
また、『機動戦士ガンダム』や『アイドルマスター』といったIPを積極的に活用している点も、皆さんのイメージにあるのではないでしょうか。
バンダイナムコグループとしてもIP活用は、「IP軸戦略」と呼んでいる経営戦略上重要な要素でして、版権元より許諾を受けたIPと自社オリジナルIPをビジネスで掛け合わせながら、ファンの方々のニーズに応えられる商品・サービスを届けることを心がけています。
もちろん、ゲームだけではなくその他の周辺の盛り上がり、例えば我々グループ内連携を通じてフィギュアなどの玩具やアニメーションなどの映像での協業や、ワールドワイド展開に取り組んでいることも特徴の一つです。
──いまお話に出た『ELDEN RING』は、世界累計出荷本数2000万本突破の大ヒットとなりました。日々、新しいゲームが各社から数え切れないほどリリースされる中で、なぜ海外のファンも含めユーザーの心を掴めるのでしょうか。
そもそもヒットは、ファンの期待を「超えた」ところにある、と考えています。
期待を満たすことはある意味で当たり前で、期待を超えてこそ驚きや、その先に感動があると信じています。仮に「これくらいだろうな」と提供したものに対して、受け取り手のお客様が「だよね」と思うだけでは、感動は生まれません。
お客様の想像を超えるためには一歩先、プロフェッショナルとして試行錯誤しながら技能だけでなく、よいコンテンツを生み出せる組織もアップデートし続けていく必要があります。
また、先ほど「世界的な展開が当たり前になっている」と話しましたが、「海外のファンはこういうコンテンツが好きなのでは」とウケを狙ったタイトルは、正直あまりヒットしない感覚があります。国や地域を意識しすぎることなく、「これが面白い」と信じて生み出したタイトルほど、クチコミで評判となり、お客様の反応を見ても手応えを感じますね。
ゲーム業界全体で毎月毎日多くのタイトルがリリースされていますが、その中で成功するタイトルは一握り。お客様に手に取ってもらえるものをつくりたいなと思いますし、より多くの方に、より長く深く遊んでもらえるような、心に刺さる品質のタイトルを提供するべく日々試行錯誤しています。
巨大ゲームパブリッシャーの秘密
──会社組織として見た時に、バンダイナムコエンターテインメントがほかのゲーム会社と違う点はありますか。
実は当社グループにはゲーム開発を行うグループ会社はあるものの、社内にはそういった組織はありません。なので、ゲーム業界ではかなり特殊な立ち位置の会社だと思います。
代わりに内部には、ゲームプロデューサーとマーケター、私が担当する「CX(カスタマーエクスペリエンス)戦略室」を中心とした事業を支える横断機能業務を行うメンバーなどが主に在籍しています。
グループ会社にはバンダイナムコスタジオという開発機能を持った会社がありますが、そちらと連携してゲームタイトルを手掛けることもありますし、さまざまな外部開発パートナーと手掛けることもあります。タイトルにあわせて柔軟にプロジェクトの座組みから考え、取り組める点は当社の特徴だと思います。
──自社内に開発チームを持たないとは驚きです。三戸さんが2020年から統括をされている「CX戦略室」とは、どのような組織なのですか。
ざっくりと表現すると、CX戦略室は当社から発売されるゲームの品質を担保するためのプロ集団です。
内製開発のパブリッシャーであれば、開発チームのすぐそばに品質保証のメンバーがいるのですが、私たちは外部の多くの会社と組んでゲームをつくり上げています。当然ながら別々の会社ですので、それぞれの開発会社で仕事のやり方やルールも違えば、考え方もいろいろと違うんです。
そんな社内外の関係者が多く関わる巨大なプロジェクトにおいても、バンダイナムコエンターテインメントという一つのブランドとして、期待を超えるものをお客様に届けなければいけない。そこで一定基準を定める必要があると考え、社内外の組織を横断してコミュニケーションが取れるプロフェッショナルな組織が、3年前に設立されました。
同社の顔と言えば、パックマン。
当時は、バンダイナムコグループ全体が組織改編したタイミングでもありました。もともとはネットワークコンテンツ事業、家庭用ゲーム事業、ライフエンターテインメント事業と、事業別で組織が分かれていたのですが、複合的なエンタメビジネスを素早く展開するために担当するIPごとに組織をまとめよう、となったんです。
IP別組織に変わっていくなか、複数のIP事業部門に対して社内横断的に関わりながら専門性をもってリードしていく存在として、CX戦略室が生まれたという経緯です。
──そうしたゲームの品質管理の役割は、プロデューサー任せではダメなのでしょうか。
たしかにひと昔前の開発では、プロデューサーが各チームの状況を把握して判断しながら進める、といったことがほとんどでした。
しかし、今では大規模開発が前提となっており、すべてをプロデューサーが一人で把握するのは現実的に不可能となりつつあります。そこで、各セクションのプロフェッショナルがプロデューサーと連携することで、それぞれの分野で無理なくしっかりとした判断ができるというわけです。
つまり、プロデューサーは単独で携わるのではなく、各分野のプロフェッショナルたちと協力し、全体を統括する役割を果たすことになります。
──CX戦略室のメンバーは、具体的にどのようなことをするのですか。
例えば、データマーケティングの部門では、IP価値最大化に向けてファンのニーズは何か、現在の市場環境はどうか、などについて実績データや調査データをもとに考えます。企画の初期段階からプロデューサーと対話し、IPの活用方法や反応について常にPDCAを回しています。
次に、デバッグやゲームチューニングの部隊。システムの不具合や、お客様がいかに快適に遊べるかという観点など多角的に品質をチェックしています。
そしてローカライズ。ただ翻訳すればいいというものでは一切なく、どの言語で遊んでも感動体験が得られるローカライズ品質が保たれなければいけない、それを実現するための部隊が動いています。
続いてプロジェクトマネジメントは、まさに大規模開発になっている環境変化を受け、開発の進行をプロデューサーと並走しながら支えています。
テクニカルアーキテクト(システムディレクション)は、昨今対戦、協力などのオンライン要素が当たり前になりつつありますのでそのような技術的な部分をリードしています。CX戦略室のメンバーは、こういった多種多様な役割を担っています。
──こうしたCX戦略室が新設されたことで、現場にどのような良い影響がありましたか。
圧倒的な経験値の獲得がメリットですね。一般的に当社のゲームプロデューサーは、一人あたり2,3タイトルを数年間にわたって担当していることが多いのですが、横断機能部門を組織したことで、CX戦略室のメンバーは職種による前後はあるものの、一人あたり1年間で5〜10タイトルに携わることができるようになりました。
そのため、様々なタイトルの状況を横断的に見て、課題があることに気づきやすくなったり、チームに実践知を蓄積することができます。専門特化した部門に関する知見が貯まることで、さらにスピーディかつクオリティの高いゲーム開発のノウハウが育つようになります。
プロデューサーにとってはプロフェッショナルな目線で並走する横断機能部門から知見が得られますし、CX戦略室のメンバーにとってみれば、毎日さまざまなタイトルに触れることになるので、常に新鮮な気持ちでいられる、といった利点もあるようです。
キャリアも横断可能なカルチャー
──いまバンダイナムコエンターテインメントでは幅広い職種で採用募集をされていますが、どのような課題感があるのでしょうか。
バンダイナムコエンターテインメントでの仕事の仕方と似たような経験をしたことがある人が少ない、という採用上の課題ですね。先ほども申し上げたように、私たちのビジネスはゲーム業界の中でも少々変わった立ち位置です。
例えば、版権元より許諾いただいたIPを扱って明日からすぐにプロジェクトを進めてほしい、といっても関係する会社ごとに全くルールが違ったりするので、どうしても難しい。こうしたキャッチアップのためにも、今は新人として入ってきた方を含め社員全体の育成に力を入れている現状があります。
一方で、横断機能に関しては専門特化していることから近しい経験をされている方が新たな価値を持ち込んでくださることも多く、積極的にキャリア採用も含めてメンバーを強化している最中なんです。
──ちなみに三戸さんのチームで働くメンバーは、社内でどのようなキャリアを進むのでしょうか。
CX戦略室の場合、それぞれの分野の専門特化したスキルを突き詰めていくことが基本的なキャリアパスではあります。一方で、ゲーム開発の部分に特化してスキルを上げた後に、例えばその技術だったりノウハウを持った上で、本人の意思次第でプロデューサー職に就く場合もあります。
逆に事業部門でプロデューサーを経験してきた社員が、今後は役割を変えて横断的に事業に関わりたい、としてCX戦略室を希望して異動するといったケースもあります。
社内でのキャリアアップにはいくつか選択肢が用意されているので、自分自身のキャリアパスを自由に選べる環境が整っていますね。
──どんなやりがいを感じますか。また、働き方も重要です。ゲーム業界は残業が多いイメージがありますが。
私自身の話になりますが、当社からリリースされる全てのタイトルに携われるというのは、非常に面白いポイントだと思います。
なぜなら、全てのコンテンツやプロジェクトの状況を知っているということは、改善するために最適な行動ができるということ。それができるのは組織上、私たちしかいない、という点にやりがいを感じますね。
また、働き方の面でいえば、たしかにゲーム業界は忙しいイメージがありますよね。ただ、昔のように夜遅くまで会社に居残るといったことは当社では基本的にありません。それこそ組織内の人材のリソース配分やシステムの効率化には我々のチームも取り組んでいますし、根性論だけでは面白いゲームは作れません。
本当にいいものを作るんだ、という高いモチベーションで皆取り組んでいるイメージですね。
──なるほど。新しく採用される人は、やはりゲーム業界出身の方が多いのでしょうか。
業界出身の方に多くいらしていただいている一方で、必ずしもそんなことはありません。社内全体を見渡すと、テック職や、マーケティング職、コーポレート職などにおいては、元々ゲーム業界やエンタメ業界ではないところで働いていた方々にも多く入社いただいています。
その中には、「実は私、アニメが好きなんですよ」「エンタメの世界で働きたかったんです」と嬉しそうに話す方もいますね。
好きなことに自分の技術を生かせるということに喜びを感じるなど、エンタメ業界ならではの魅力を実感している人が多いと思いますね。
──会社としては、どのような人材を求めているのでしょうか。
どれだけ取り組んでも、課題は常にあると考えており、それを自分で見つけ出し、前向きに改善していける人が求められます。
「私はそれ、言いました」という他人任せのスタンスではなく、自分事として改善するためにどう動けばよいか、どう考えていけばよいかを主体的に提案し、周囲を巻き込みながら前向きに進める人。
また、一気に変えられるようなことではない場合も、少しずつでもよくなることに価値を見出すことができる人も大切だと考えています。あとはエンタメが好きであることは前提ですね。その方が圧倒的に楽しみながら貢献・成長できる環境だと思います。
飽くなき面白さを追求する
──これからの展望とメッセージをお願いします。
3年前からの組織改革を通し、社内で成長できる土壌は整いつつあります。その一方で我々が手がけるコンテンツそのものに対しては、まだまだ改善の余地があると思っています。
ファンの皆様へより良質なコンテンツを届けたいからこそ、これからさらに体制を強化したり、外部パートナーとの取り組みを検討していったりと、変革を起こし続けなければいけません。常にカスタマー・エクスペリエンスを第一に考えながら、整備を進めています。
同時に私たちは多種多様なIPを扱い、時代に即しながら、変化を続けている会社です。そういう意味では刺激的な体験ができると思いますし、自分のスキルを高めることができると考えています。
現在、当社では過去最大規模で幅広くポジションをご用意し採用活動を行っています。自分のこれまでのキャリアも磨きながら、エンタメで人を幸せにしたいという方にこそ、ぜひ来ていただきたいですね。そして、飽くなき面白さを一緒に追求しましょう。
執筆:高木望
撮影:吉田和生
デザイン:月森恭助
編集:花岡郁