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戦術論争にもの申す

日本代表はもっとポゼッションにこだわれ

2015/2/12
確実性を重んじるポゼッションか、それとも一か八かのカウンターか? アジアカップの日本は前者のスタイルを貫いてベスト8で敗退してしまった。ブラジルW杯に続く早期敗退を受けて、後者への転換を求める声が高まりつつある。だが、金子達仁は真っ向からその論調に反論する。
今年1月のアジアカップで、日本はベスト8で敗退。柴崎岳のゴールで同点に追いついたが、他のチャンスを逃し続けてPK戦の末にUAEに敗れた(写真:ロイター/アフロ)

今年1月のアジアカップで、日本はベスト8で敗退。柴崎岳のゴールで同点に追いついたが、他のチャンスを逃し続けてPK戦の末にUAEに敗れた(写真:ロイター/アフロ)

日本は相当に強い

――日本代表はアジアカップの決勝トーナメント1回戦でUAEに負けてしまいまいた。この結果をどう捉えていますか?

金子:「揚げ足を取るようだけど、負けちゃいないよな」

――失礼しました、PK戦による敗退は公式記録としては引き分けですね。

金子:「それはともかく、あのUAEを相手に、あそこまでワンサイドに押し込むのは日本は相当強いなと思った。だってUAEは準決勝でオーストラリアに早い時間にセットプレーで先制されて負けたけど、内容は五分だったからね。あのUAE相手に30本以上のシュートを浴びせるのは普通じゃない」

――120分を戦ってシュート数は日本35本、UAE3本でした。さらにフリーで打てるチャンスを何度も作りました。

金子:「これは意見が違う人がいて本当に構わないんだけど、あそこで勝てなかった理由を『ポゼッションにこだわったから』と考えたのが朝日新聞だったわけじゃない? 俺は違う。ポゼッションへのこだわりが足らなかったから勝てなかったと考える」

ポゼッションの本質をわかってない選手がいる

――なるほど、朝日新聞の編集委員、忠鉢信一さんの記事ですね(「いい試合」より勝つ手段を磨け 保持率偏重、転換のカギは岡崎に)。金子さんの考えは違うと。

金子:「Aというボールホルダーがいて、Bという受ける選手がいたとしよう。Bが縦に走りかけたとき、Aが出したパスがBの想像よりわずかに後方だったら? Bは走るスピードを緩めなければならない。そういうプレーが、バルセロナに比べるとメチャクチャ多かった」

――そのわずかなズレが、攻撃では大きな遅れになります。

金子:「ポゼッションサッカーというのは、そこまでこだわるものだと思うのよ。ただパスを出すのではなくて、右足のどこにパスを出すかまでこだわる」

――動いた到達地点を予測して出す。点で合わせるパスですね。

金子:「そこを考えている選手と、考えてない選手が、はっきり混在しちゃってたから。すごくぎくしゃくしてた。ポゼッションの本質をわかってない選手もいたし、何よりアギーレ監督がわかってないと思う。わかっている監督だったら、GKに川島(永嗣)君は使わない。川島君を西川(周作)君に変えるだけで確実にポゼッションが5%は上がるんだもん。UAE戦だって日本があれだけ攻めて、あれだけ余裕があるのに、GKがフィフティ・フィフティのボールをさんざん蹴っていた。そこに無頓着な監督はポゼッション主義者ではないと思うんだ。いい悪いではなくて」

やり方がわからないから勝ち点を盗むサッカーになる

――ポゼッションを追求する資格がないと。

金子:「資格というか、追求してなかったと思う。もう解任されてしまったけれど、アギーレ監督をあえてたとえれば、『ザッケローニ監督がやっていたサッカーに乗っかった岡田武史監督』」

――確かに、アギーレ監督は選手を組み合わせているだけの印象がありました。

金子:「間違いなく采配は、ザッケローニ監督よりうまい。ただ、彼がオサスナでもアトレティコでもポゼッションサッカーを志向していたという印象はまったくない。否定するわけじゃないのよ。誰だってポゼッションサッカーをやりたい。でも、やり方がわからないから、勝ち点を盗むサッカーに走って行くわけ。岡田さんだってクライフが好きだと言っていて、今治FCにも吉武博文さん(元U-17日本代表監督)と大木武さん(元日本代表コーチ)を呼んでいるわけじゃない(今治FCにおいて吉武はトレーニングメソッド部の部長、大木はアドバイザー)。ポゼッションサッカーをいかに好きなのかがわかる」

――憧れがあるわけですね。

金子:「でも、できないから南アフリカW杯の直前で、ああいうサッカーをやったわけよ」

全員ボランチでもいい

――おもしろいなと思ったのは、本田圭佑も試合後に「クオリティ、完成度、戦い方においては、今大会の方が前回よりも高かった」と言っていたことです。

金子:「まったくそれは俺もそう思う」

――一方、吉田麻也はブログに「今日本はすごく厳しい時期にさしかかっている」と書き、岡崎慎司は「これを続けていくのか、違う形を取り入れるのか」と迷いを口にしていました。結果が伴っていないため、選手の中でも感じていることが分かれているんだと思います。

金子:「君はどう思う?」

――僕は本田圭佑の方向性と同じ考えです。

金子:「日本はもっとボールポゼッションの質を高めるべきだと思う。極論を言うと、フィールドプレイヤーは全員ボランチタイプで、ポゼッションが90%で、パスだけで相手のゴールまでフィニッシュに持って行けるようなチーム。それが俺の理想なので。『パスをつなぎ、確実にゴールに近づくことが日本は得意だ。しかしそれは勝つ手段として必ずしも正しくない』って朝日新聞に書いてあった。じゃあボールポゼッションを削って、決定力にかけるサッカーはより勝率が上がるんですか? そんなことはない」

――偶然に頼るサッカーになってしまうと。

金子:「岡崎を生かせ、マインツに習え、じゃあマインツは何位ですか? 俺はマインツのサッカーよりもパーダーボルンのサッカーを支持したい」

(聞き手:木崎伸也)

*本連載は毎週木曜日に掲載する予定です。