グローバルタレントに会いに行く_SAP

ポテンシャル採用の限界と可能性

SAP社長は言う「日本人新卒は透明人間」

2015/2/7
昨年9月、外資系IT会社としては異例の「生え抜き」で社長に就任した福田譲氏。当時39歳という若さで話題となったヤング・タレント人材だが、意外にも海外経験が浅いと言う。
では、どのようにして社長という究極のグローバル・タレントに上り詰めたのか? そして、SAPが注力する人材グローバル戦略とは? その全容に迫った。
第1回:SAP生え抜き社長が語る「生え抜き社長」の弊害
第2回:SAP社長が「L型」から「G型」に変わった瞬間

補助輪付き自転車に乗る日本人

——福田さんはヴァイスプレジデントとして4年間イギリス人上司に仕えた後も、ほぼ毎年、仕事をしながら、グローバルタレントとしての研修を受講されています。それは、例えば、どんなプログラムがあるのですか?

福田:例えば、2年前には、クソ忙しい時に国内ビジネススクールの夏の特訓に泊まり込みで行きました(笑)。SAPという会社は、人材一人一人に対して、次はどの能力をストレッチして欲しいかを見合わせて、一人一人違うところへ行くんです。

——国内MBAの夏の特訓では、何をするんですか?

福田:「高等経営学講座」って聞くと大層なものを期待されるかもしれませんが、私がINSEADで受けたMBAの日本版ですよ。レベルははるかにINSEADのほうが高かったけど。

——ある種、今までの貢献へのご褒美なのかもしれないですね。

福田:そうですね。で、そういう方々とお話をしているとね。例えば、ある総合商社の方は、「ウチもね、グローバル、グローバル、言っているけれど、海外に行ったら現地の人から、『また日本人が補助輪付きで自転車に乗ってきた』と言われるのがオチ」だなんて話をするんです。「日本人がまた召使いを付けて来た。どうせ、2年後には帰るんでしょ」と。

つまり、現地のスタッフは、日本人上司のことをその程度にしか見ていないから、日本本社とツーカーの日本人上司に決済のはんこだけもらっていればいい、くらいにしか思っていない。「承認さえもらえればいいや」と、ね。一方、海外赴任経験のある日本人は、その程度の仕事しかしていないのに、自分ではグローバル経験を積んだ気になって帰ってくる。

そのレベルの人たちが、果たして真のグローバル・ビジネスを出来るかと言えば、それは出来ませんよね。やっぱり、日本企業の人材育成のあり方を根本的に変えなきゃいけない。そんなことを、総合商社を始めとするいろんな方が夜な夜な言うわけですよ。

——なるほど。言い得て妙ですね。一方、SAPのグローバル人材の育成は、そんな中途半端なやり方ではない、と?

福田:これは後で詳しく言いますが、営業として採用した新卒は全員、6カ月間の間に3回全世界の新人と集い、寝食を共にしてグローバルな素養を鍛えさせますからね。

外国人メンターを付ける意義

——最初は全員、グローバル人材として教育し、後で幹部候補を選抜していくのですか?

福田:ええ。トレーニングは会社としては大きな投資ですから、誰をアクセラレートするか、そのために会社はどの人に集中的に投資すべきかを選別し、毎年、毎年トレーニングを施す。しかし、一度、グローバル・タレントに選ばれたからといって、ずっと選ばれるわけではありません。プロの野球選手と同じで、年末になったらリセット。MBAを取ったから、ずっとレギュラーってわけにはいかない。

——毎年、毎年、いちいち成績がチャラになる?

福田:ええ。まったくチャラになります。でもね。結局、毎年、毎年、似たような人が選抜組に残るんですよ。

——なるほど。それで、福田社長の場合はINSEADでMBA、そして国内MBAで短期集中トレーニングを受けたその後は、どのようなプログラムを受講されたのですか?

福田:2年前にはスタンフォード大学のd.schoolというデザイン学を勉強する講座を受講しました。ここで多様性が生むイノベーションについて、あるいは既存の枠組みを超えて行くデザイン思考について学びました。一方で、グローバルなタレント人材としての訓練は、日々の仕事の中でも、行っていく必要がある。

私の場合、海外経験がなかったので、グローバルコミュニケーションや異文化コミュニケーション、ダイバーシティマネジメントを学ぶために、2012年には当時の日本のサポート部門の責任者だったドイツ人に、そして、2013年は、韓国拠点の社長にメンターに付いてもらいましたね。

——直接の評価者たる上司ではない外国人がメンターに付くことで、得られる効果や教訓とは?

福田:メンターの存在とは、友達と先生を足して2で割ったような感じ。ですから、ざっくばらんに仕事の悩みやアドバイスを聞くと、「まあ、俺もそういう経験あったよ」なんていってさまざまな示唆を与えてくれる。私の場合、海外経験がないので、海外経験を積まずとも、グローバルコミュニケーションを身につける絶好の場にもなります。

——そのグローバルコミュニケーションの本質とは何ですか?

福田:海外でのコミュニケーションって、世界共通のフレームワークの中で行われることが多いんです。ある物事に対して、バリューはこう、リスクはこうと決まった枠組みの中で議論する。

そのフレームワークに日本人は弱いんです。だから外国人は日本人と議論すると、時に、見たこともない球種を投げつけられたバッターみたいなショックを受けてしまう(笑)。喋り方一つとっても、日本人がグローバル対応するためには、結論から話す、1、2、3と優先順位を付けて話すなどの型を身につけることが大切。そうでないと、日本人はダラダラと何言っているのか分からないと言われてしまう。

——早期にそうしたフレームワークを身につけさせるため、営業として採用した新卒社員は一斉に、海外研修に送り込んでいるわけですね?

福田:ええ、そうです。世界で採用した新人300人を100人ずつに分け、カリフォルニアのダブリンというところにある施設に送り込んで、1カ月ずつ、3回にわたり、共同生活をしながら、研修を受けてもらいます。

——すごい投資ですね。しかし、日本人の新卒は一般的に、なんの実務経験もないまっさらな状態です。片や、欧米の新卒は、すでにインターン経験を何年かにわたり積むなどして実務経験が豊富。日本人と欧米人の「新卒」の間で大分、レベルの差があるのではないですか?

福田:それはもう(笑)。1回目は、けんもほろろ。言葉は出来ない、コミュニケーションは出来ない、存在感も出せない。その研修の学長的な立場のリーダーに、「日本人は透明人間だ」とまで言われてしまって。今後、日本人の新人を研修に参加させるにあたっては、3つの条件をクリアしてからだとまで言われてしまった。

次なるトレーニングはアフリカのNPO体験

——3つの条件とは?

福田:1つ目は、英語をきちんと身につけてから来いということ。2つ目はプログラムの内容を事前に日本語で理解させておけ、というオーダー。3つ目は、通訳を帯同させろと。そのくらい、厳しい条件を突きつけられました。その特訓については、実際に研修を受けてきた新人から直接聞いてください(その内容については、後日掲載予定)。

——分かりました。それでは最後に伺います。福田さんは日本拠点の社長となられた今後も、引き続きグローバル・タレントとしてのトレーニングを受け続けるのですよね?

福田:もちろんです。社長就任の3カ月後には、世界各国の社長たちが集まる研修を受けました。そして、2015年はアフリカか南米のNPOに、2週間程出向するかもしれません。

——アフリカか南米のNPOで、何をなさるのですか?

福田:課題解決のコンサルティングですね。先ほども、当社では常に人材の足りないところを伸ばし、どこをストレッチさせるかを戦略的に考えていると言いました。そこへいくと私に足りないのは、海外経験や異文化経験。何も誰の助けもないところでどう生き延びるかのサバイバル経験です。ですから、2015年はその経験を積むのが課題なのです。

——なるほど。最後に、社長就任後すぐに後継者を決めろと言われたというお話でしたが、すぐに決まりましたか?

福田:それはもう。すぐに。おかげさまで、当社の人材プールは豊富ですからね。

(終わり)

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