2023/3/5

【教えてプロ】ChatGPTの普及で大注目の「新職種」とは?

NewsPicks コミュニティチーム
スマホが誕生して以来の衝撃──。
そんな評判も出始めているChatGPTの快進撃は、NewsPicksの誌面で連日話題になっています。
それに合わせて、ChatGPTのような会話型AIの進化を支える、ある開発領域にも注目が集まっています。
NewsPicksのコメント欄で読者の質問を募る「#教えて」シリーズ(詳細はこちら)。今回は、【#教えてプロピッカー】宛てにいただいた「プロンプトエンジニアリング」に関する質問を深掘り解説していきます。
INDEX
  • 📲「プロンプト」って何?
  • 👨💻プロンプトエンジニアリングとは?
  • 🔍この技術を覚えて得する人は?
  • 次回は3/12【#教えて編集部】

📲「プロンプト」って何?

今回取り上げるのは、2月13日からの1週間で特集した「ChatGPTの秘密」に寄せられた質問です。

下の記事に「アメリカではすでに、『プロンプトエンジニア』と呼ばれる仕事がホットらしい」とありますが、果たしてどんな仕事なのでしょうか?

日本CTO協会理事を務めるプロピッカーの広木大地さんに解説してもらいました。
ChatGPTを動かしている「GPT」は、簡単に言うと「ある言葉を入力したら、次に続く文章を予測して出力するAI」です。
「この空は」と入力したら、「空は青い」「空は青くてきれい」などと創作するのが基本動作になります。
そして、今回のテーマになる「プロンプト」とは、GPTのような大規模言語モデルAIから回答を引き出す、自然言語による「指示」のことです。
📌大規模言語モデルAIとは

膨大な量のデータを学習することで、各種コンテンツを生成するAIのこと。

📌自然言語とは

日本語や英語など、人間が日常で使う言語のこと。対義語は、プログラミング言語のような「人工言語」。
ChatGPTは、「あなたは◯◯の質問に答える役割です」とプロンプト(指示)した上で、質問と回答例を入力すれば、まるで会話しているように答えを返してくれる仕組みになっています。
(Photo:時事通信フォト)
上の記事では、この指示出しに精通した人を「プロンプトエンジニア」と表現しています。つい最近、米ワシントンポストにも次のような記事が載っていました。
'Prompt engineers’ are being hired for their skill in getting AI systems to produce exactly what they want. And they make pretty good money.

「プロンプトエンジニア」は、AIに思い通りのものを作らせるスキルを買われて採用されています。そして、非常に良い報酬を得ています。

──Tech’s hottest new job: AI whisperer. No coding required.(2023年2月25日)
記事内では、
などという事例も紹介されています。
AIベンチャーAnthropicの求人情報
こういう情報を見て、これから需要が高まっていくのだろうと思った方は多いかもしれません。しかし、私は現状に少し違和感を持っています。
確かに今、会話型AIの応用範囲を広げる「プロンプトエンジニアリング」が盛り上がっているのは間違いありません。
ただし、これだけを専門に行う「プロンプトエンジニア」という職種が、注目のポジションになるか?と聞かれたら、私の答えはNoです。
なぜそう思っているのか、詳しく説明していきます。

👨‍💻プロンプトエンジニアリングとは?

ご質問ありがとうございます。
質問にお答えする前に、まずはプロンプトエンジニアリングという技術について説明しましょう。
ChatGPTを使ったことがある方はお分かりでしょうが、今はまだ入力する質問によって回答の精度がだいぶ変わります。
人間にたとえるなら、現時点の大規模言語モデルAIは、まだ10歳児くらいの知能だからです。
ある程度の知識は身に付けたけれど、まだ知らない事柄は多いし、正確に答えられる分野も少ない。“大人”になっていくには、より高度で複雑な思考法を身に付けなければなりません。
(Photo:iStock / VectorUp)
そのために具体的で適切な指示を与えて、当該領域の問題解決の精度を高める指示文を「発見する」ことを、プロンプトエンジニアリングと言います。
エンジニアリングを「試行錯誤」と言い換えると、より分かりやすいかもしれません。指示の出し方や組み合わせを試行錯誤することで、AIが自ら問題解決する新しい道筋を発見するのをサポートします。
この分野に関する論文を読むと、最近は思考をステップバイステップで深めていく「思考の連鎖(Chain of Thought)」と呼ばれる手法や、より少ないデータで効率的に学習させる「Few Shot Learning」という手法が盛んに研究されています。
詳しくは下のNewsPicksトピックスに書いたので、興味のある方は読んでみてください。
プロンプトエンジニアリングでは、まさにこういった知見が必要で、日進月歩で新しい発見が生まれています。
ですが、これを正しく評価したり、具体的なアプリケーションに組み込む際は、機械学習やアルゴリズム開発の基礎知識がないと仕事になりません
この点が、私が「プロンプトを作ること」だけを専門にする人=プロンプトエンジニアと呼ぶことに違和感を持っている理由です。
(Photo:iSotck / gorodenkoff)
求人する際に「プロンプトエンジニア」というキャッチーな職種名のほうが目立つ、という理由で造語するのは募集企業の自由ですし、それ自体は否定しません。
しかし、Googleでプロンプトエンジニアとは?と検索すると、中には「指示文の出し方を工夫する仕事だから、文系人材でもOK」「国語力が大事」と書いてある記事も出てきます。
これは大きな誤解で、ChatGPTのような会話型AIの使い方を「深掘り」しているにすぎません。
問題解決のやり方を新しく「発見」していく上では、貢献度が非常に小さいと言わざるを得ません。
例えばカスタマーセンターに来たお問い合わせの中から、緊急度の高いものとそうでもないものを仕分けて回答させたい場合、自然言語による指示だけで「緊急度の高いもの」を判別させるのはなかなか難しい。
(Photo:iStock / Pikovit44)
なので、今はAI自体に新たなプロンプトを生成させて、より精度の高いプロンプトを発見する手法も次々と提案されています。
こういった現状を踏まえた上で、高橋さんのご質問にある「普段の業務内容」を説明するなら、
  • 大規模言語モデルAIを利用したサービス開発に携わる、
  • ソフトウェアエンジニアやデータサイエンティストが、
  • 業務の一環としてプロンプトエンジニアリングを行うこと。
......と書くのが妥当ではないかと思います。
事実、ChatGPTを開発するOpenAIの求人リストを見ても、「プロンプトエンジニア」というポジションはありません。
おそらく、ChatGPTの開発に携わるソフトウェアエンジニアが、プロンプトエンジニアリング「も」行っているからです。
そして、現在のプロンプトエンジニアリングは、研究論文が出たら1日かそこらでライブラリができているようなスピード感で進化しています。
📌ライブラリとは?

ソフトウェア開発で使うプログラムを、誰もが再利用可能な形にしてまとめたもの。
「プロンプトエンジニアの報酬は?」というご質問もありましたが、こういったライブラリ自体を作ったり、ライブラリを利用しながらアプリ開発ができるソフトウェアエンジニアなら、2000〜4000万円レベルの年収がもらえるというワシントンポストの記述はあながち間違っていないでしょう。
米国に比べてエンジニアの年収がかなり低い日本でも、500〜600万円と言われる平均値は超えると思います。

🔍この技術を覚えて得する人は?

続いて「どんな企業でポジションがあるのか?」というご質問にお答えしましょう。
(そもそも現時点では「プロンプトエンジニア」という専門職はないという私の考えはさておき)大規模言語モデルAIを開発する会社か、それを利用したサービスを作る企業になります。
これからは、特に後者が増えていくはずです。3月2日には、下のような記事も出ていました。
(Photo:ロイター / アフロ)
先ほど例に挙げたカスタマーセンターの業務や、法律相談のような専門性が求められる分野で会話型AIを使ったサービスを開発できれば、大きなインパクトが生まれます。
私自身も、ChatGPTを利用してプログラマーを支援するためのツールを実装し、公開してみました。
特定の業務に詳しい人が、プロンプトを複数組み合わせるとどんな問題解決ができるのかを探り、AIが出力する内容の評価法まで設計しながら実装できれば、市場価値も高くなるでしょう。
つまり【業務知識+プロンプトエンジニアリング】の組み合わせでサービス開発できる人が重宝されるようになっていくはずです。
また、今後は業務設計をするためのローコードツールのようなサービスが出てくるのも容易に想像できます。AIツールをうまく使いこなして仕事をする人が求められる場面は増えそうです。
その事例として、すでにクリエイターの仕事はGenerative AI(生成型の人工知能)の普及で大きく変わりつつあります
昨年は、画像生成AIの「Midjourney」を使って描かれたSFコミック『サイバーパンク桃太郎』が、Twitter上で話題になりました(今年3月9日に単行本も出ます)。
作者によると、100ページ超のマンガを人間のイラストレーターが描くと1年くらいかかるところ、6週間程度で描き上げたそうです。
そして、画像生成AIの世界では、『サイバーパンク桃太郎』の事例ですらもうはるか昔の話になっています。
今は、特定のキャラクターを学習させ、そのキャラクターを安定して描くことができる手法(LoRA)や、構図を指示した通りに描画できる手法(ControlNet)なども発見されています。
昨年当時よりも、AIを用いてハイクオリティなマンガをより素早く、高い精度で描くことができるようになっているのです。
このように、プロンプトエンジニアリングやGenerative AIの動向を追っていると、新しい仕事を生み出せそうなジャンルがたくさん見つかるはずです。
そんな視点でニュースを見ていくのもいいかもしれませんね。

次回は3/12【#教えて編集部】

NewsPicksは、これからも読者の「もっと知りたい」にお応えしてまいります。
【#教えて編集部】【#教えてプロピッカー】でいただいたコメントには、全て目を通しておりますので、たくさんの「問い」をお寄せいただけたら幸いです。
また、問いに対する答えは1つではなく多様であるため、追加取材した記事の内容も1つの意見だということをご認識いただけましたら幸いです。