日本の映像業界はどう変わるのか?
ネットフリックス上陸で起きるかもしれない、7つのこと
2015/2/6
一流クリエーターにとって朗報
長らく噂されてきた、動画配信サービスの巨人、ネットフリックスの日本参入。ついに2月4日、同社が「日本でストリーミングサービスを今秋始動する」と発表した。
東京支社長には、日本語にも堪能なグレゴリー・K・ピーターズ(現ネットフリックス本社ストリーミング/パートナーシップ最高責任者)が就任。プレスリリースには、「日本の映画、テレビドラマ、アニメをはじめとしたコンテンツ製作者との連携、市場と消費者の理解、そして提携する家電メーカーとの関係性を深めるため、NETFLIXは東京支社を開設します」と記されている。
世界で5448万人もの有料会員を持つネットフリックス。同社の日本上陸によって、日本の映像業界はどう変わるのだろうか。テレビ業界関係者への取材をベースにしながら、これから起こりうる7つの予測を紹介してみよう。
関連記事:
1)テレビのリモコンに「Netflix」ボタンが搭載される
ネットフリックスが、全米で影響力を増した大きな要因として、テレビのリモコンに「Netflix」ボタンが搭載されたことが挙げられる。
海外モデルのソニー「ブラビア」のリモコンは、すでに「Netflix」専用のボタンを搭載済み。今回の東京支社設立にあたっても、「提携する家電メーカーとの関係性を深める」ことを目的の一つとして掲げている。日本で販売されるソニー、パナソニック、シャープ、東芝などのテレビに「Netflix」ボタンが搭載されれば、視聴者との距離は一気に縮まるだろう。
2)クリエーターに「アメリカン・ドリーム」が生まれる
言うまでもなく、ネットフリックスが成功するか否かは、コンテンツにかかっている。高品質なコンテンツのために必要な要素は多くあるが、よい監督とキャストは欠かせない。
ネットフリックスの代名詞となった政治ドラマ「ハウス・オブ・カード」も、監督にデビッド・フィンチャー、主演にケビン・スペイシーという大物を迎えたことが、決定的なファクターとなった。
では、日本で一流の監督を惹きつけることはできるのだろうか。その可能性は十分ある。なぜなら、日本の監督は十分に報われていないからだ。うっぷんがたまっていると言い換えてもいい。有名監督であっても、生計を立てるのに苦労しているケースもある。
一般的に日本の場合、監督の報酬額は固定が基本だ。つまり、ドラマや映画がヒットしても、それにつれて報酬が大きく膨らむわけではない。一方、米国の場合、監督は興行収入の一定割合を手にすることもある。大ヒットすれば、“億円”レベルの収入も可能だ。たとえば、「インターステラ―」のクリストファー・ノーラン監督は、興行収入の20%に当たる2000万ドルを得たと言われる。
つまり、ネットフリックスは、監督などのクリエーターたちに「アメリカン・ドリーム」を提供できるかもしれないのだ。もしネットフリックスとのタッグで数億円稼ぐクリエーターが出てくれば、そちらになびくクリエーターも出てくるのではないだろうか。
もちろん、クリエーターは報酬だけを目当てに働くわけではない。仕事の面白さや、視聴者の数も重要だ。ネットフリックス向けに作品を作れば、自らの作品が世界でも流通するチャンスが開けてくる。ヒットコンテンツを創れば、それが世界5500万ものユーザーに届けられる可能性があるのだ。
しかも、ネットフリックスは、月額課金を軸にした有料メディアであるため民放に比べて表現上のタブーが少ない。昨今、同様に有料メディアであるWOWOWが「MOZU」などの本格派ドラマで名声を高めているように、「表現の自由度」は、クリエーターを惹きつける大きな武器となるはずだ。
3)TV局との共同制作による大型ドラマ
日本進出にあたり、ネットフリックスは、テレビ局との共同制作を模索している。ネットフリックスは、かなりの好条件を提示していると言われ、民放単独では不可能な大型番組や、人気ドラマの続編企画などが制作されるかもしれない。
制作した番組は、ネットフリックスで先行配信され、その後、テレビで放送されるというスキームが有力ではないだろうか。
4)制作会社とのコラボ
テレビ局とコラボする一方で、ネットフリックスが制作会社と直接契約して番組を作ることもありうる。
日本では、よく言われるように、制作会社が多くのコンテンツを作っている。ただし、番組の著作権はテレビ局が持つケースが大半であるため、制作会社はコンテンツの二次、三次利用ができない。そのため、ビジネス面の伸びシロに乏しく、いつまでも“下請け”から抜け出せない構造にある。
制作力を持ちながら、十分な対価を得られていない制作会社は、番組の著作権を喉から手が出るほど欲しているはずだ。ネットフリックス側が制作会社に著作権を認めれば、「ネットフリックスとぜひ組みたい」という制作会社が続々と現れるのではないだろうか。
5)映画会社とのコラボ
テレビ局、制作会社に加えて、映画会社と組むケースも当然出てくるだろう。
ネットフリックスは今夏、アカデミー賞を受賞した「グリーン・デスティニー」の続編をワインスタイン・カンパニーと共同製作、劇場公開と同じタイミングでネットフリックス上にて公開する計画だ。
これと同様の試みを、日本の映画会社とともに実施することもありうるだろう。
6)芸能事務所とのコラボ
コンテンツの人気度を決める要素として、出演者というファクターは極めて大きい。スター出演の有無が、番組の成功を大きく左右する。ネットフリックスにとっても、どれだけ日本の有力芸能事務所と良好な関係を築けるかが、勝負の分かれ目となるだろう。
かつて日本の映画業界は、テレビ業界にスターが流れることを防ぐため、1953年に五社協定を結んだ。これは、松竹、東宝、大映、新東宝、東映の5社が、各社専属の監督や俳優の引き抜きを禁止した取り決めである。その後、テレビの台頭や大映の倒産などもあり、協定は実質破綻。スターが映画からテレビに流れ、テレビ黄金時代が訪れた。
もしテレビからネットに中心が移るとすれば、それはスターの移動がひとつのきっかけとなるはずだ。ネットに消極的な芸能事務所も多いが、「ネットが永続的に儲かる」「ネットでより多くの(とくに若い)ファンにリーチできる」という感触が得られれば、ネットシフトは進むだろう。
7)通信キャリアとのコラボ
世界ではすさまじい勢いを誇るネットフリックスも、日本ではまだまだ無名。地盤もブランドもない日本で、単独でリーチを得るのは難しいだろう。そこで、パートーナー候補として挙がるのが、圧倒的なリーチを持つ通信キャリアだ。
今年1月時点で、ドコモのdビデオ(月額500円で2.3万タイトルが見放題)は437万人の会員数、dアニメストア(月額400円で1100作品が見放題)は152万人の会員数を有する。ドコモはエイベックス・デジタルとの合弁会社でBeeTVを運営しているが、こうした映像プラットフォーマーが、ネットフリックスと組む可能性もあるだろう。
ソフトバンク、KDDIともども、通信キャリアの動きには注目だ。