グローバルタレントに会いに行く_SAP

私は海外経験不足をどう補ったか

SAP社長が「L型」から「G型」に変わった瞬間

2015/2/6
昨年9月、外資系IT会社としては異例の「生え抜き」で社長に就任した福田譲氏。当時39歳という若さで話題となったヤング・タレント人材だが、意外にも海外経験が浅いと言う。
では、どのようにして社長という究極のグローバル・タレントに上り詰めたのか? そして、SAPが注力する人材グローバル戦略とは? その全容に迫った。
第1回:SAP生え抜き社長が語る「生え抜き社長」の弊害

MBA留学で鼻をへし折られる

——前回に引き続き、福田社長はどのようにしてグローバル・タレントになったのか?について伺います。

福田:入社6年目、28歳で国内の化学・石油業界の大手顧客担当のマネジャーになり、グローバル研修に参加して来いとのお声がかかりました。

——それは、どんな研修ですか?

福田:世界中の拠点から集められた同じようなランクの人材が、これからのSAPについて討論し合うプログラムです。しかし、外国人社員が朝早くからテーブルに集まって談笑しているその輪に入れず、歯が立ちませんでしたね。そして、その後、国内で営業部長職となり、2006年、幹部候補教育としてINSEAD(MBA)に派遣されたのです。

——シンガポールのINSEADですね?

福田:ええ。そこには中国人、韓国人などさまざまなアジア人が一同に介していました。そして、みんな、アジア人ながらもミドルネームを持っているんですね。「Hi, I’m Peter」とか言って(笑)、臆せずにグローバルコミュニケーションをしている。

我々と同じ東洋人で儒教文化の中で育ってきた人も、皆、スイッチを切り替え、しっかりグローバル化しているわけです。そこへいくと、自分は、まだまだだなと鼻をへし折られましたね。

——どんなふうにへし折られたのですか? 議論で存在感が出せないなどですか?

福田:ええ。僕の場合、朝一番に自分の言いたいことを言わないといけなかった。だって議論が始まってしまうと、もうついて行けないので。朝イチで「はーい」って発言して、That’s allですよ(笑)。

——なるほど。

福田:あとはもう必死でついて行くしかありませんでした。しかし、INSEADでの経験は大きかったですね。それまではね。言い方は悪いですけど、私は、なんとなくこのまま行ったら、日本法人の中ではどうにかなる気でいたんですよね。

「グローバル人材」と「ローカル人材」を分けるもの

——それが、どのように変わられたのですか?

福田:それまで僕は、あの人は中国人、あの人はイギリス人というふうに、「○○人」と国籍で人を見る節がありました。そして、我々にとって彼ら彼女らは「外国人」だと。

しかし、例えばSAPには、南アフリカ法人に入社した南アフリカ人がアメリカ法人に行き、日本法人に来て、またアメリカに帰って、今度はドイツに行くなんてことが普通にあります。そんなふうに、「外国人」で片付けちゃいけない人が、一杯いるんですよ。

つまり、「グローバルに通用する人」と「ローカルにしか通用しない人」という区分けが正しいのであり、「あの人は何人」という区分けなんて、ないなと思ったんです。では、そのグローバルに通用する人とは、どんな人なのか?と考えると、自分がいかに通用しないかが分かりましてね。それで、INSEADから帰国後、「これはいかん」と、一念発起して、上司を外国人に変えてもらったんです。

——それは、日本法人でヴァイスプレジデントに就任なさった時ですか?

福田:ええ。日本にいながら、誰にレポートするか、その上司をシンガポールにいるイギリス人にしてもらったんです。それも、4年間ね。
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イギリス人上司を「逆指名」

——SAPではそうしたリクエストが聞き入れてもらいやすいのですか?

福田:ええ。当社には「キャリアは会社のものではなくてあなたのもの」。そして、「キャリアは自分でつくるもの」という考え方があるので。そもそも、「キャリアは会社が決めるもの」なんて国は世界中で見ても、多分日本くらいなものですよ。人事異動が会社から出て「分かりました」なんてやっている国は。

——空きポストで自分が行きたいところがあったら、自ら手をあげて申し込むなど積極性が大事だということですか?

福田:あるいは、新しいプロジェクトが始まるので、チームを組成するときに、自ら手を挙げるとか。もちろん、指名されることもありますけど。

——話を元に戻して、イギリス人上司に仕えたことにより、福田さんは、どう変わったのですか?

福田:4年の間で、まずは、英語が喋れるようになりました。それと、外国人が怖くなくなりました。逆に、自信もつきました。日本人は一般的にしっかりしていると。中身はある、と気付きました。ただ、ダメな点もよく分かりました。

——ダメな点とは?

福田:例えば、日本人は、まずやるべきことを前にして「できない理由」が頭をよぎるんですよね。真面目なんで。

——福田さんご自身も、そうでしたか?

福田:そうでしたよ。やっぱりね、外国人を見ていると、なんでこいつらこんな楽天的なんだろうって思うときが、今でもありますもの(笑)。そんな夢みたいなこと何言っているの? 妄想じゃないの?と、ね。

でも、彼ら彼女らは、そんな夢みたいな話で盛り上がった後は、ものすごいスピードで、やるべきことを分類して、やると決めたら、徹底的にそれをやるんです。そして、信号機を発動させて、状況を追いかける。「今週、やったの?」「来週は?」って。彼ら彼女らには、そういうビジネスのフレームワークがしっかりとある。

——さすがにそれは、壮大過ぎるだろうという目標も、ブレイクダウンして実行する力がある、と。

福田:そうなんです。でも、それで結果が出る時と出ない時があるじゃないですか。

——ええ、もちろん。

福田:日本人は、どちらかというと、そうならないように、他人と同じように行動して、人に迷惑をかけないようにする。一方、外国人はリスクがあってもチャンスをとりにいく。で、そのチャンスを取りにいって失敗した時、やけにあっけらかんとしているんですよね(笑)。

——あっけらかんとしている?

福田:あのね、日本人は失敗すると結構、深刻に悩むわけ。で、彼らは、悩んでいるのかもしれないけど、過ぎたことをいくら考えても仕方がないと腹をくくっている。だから、この失敗から俺が勉強したことはコレだ、学んだことはコレだと言って、いやにしゃあしゃあとしている(笑)。むしろ、失敗を指摘すると、「お前、今、それ言うか?」みたいなことをガーガー言うんですよ。非常にたくましいし、建設的ですね。

——なるほど。一方で、イギリス人上司に仕えて得た自信とは?

福田:例えば、外国人の中には、息継ぎもしないで喋り続ける人もいるわけですよ。周囲のみんなはとっくに飽きているのに、「あと1分喋らせてくれ」なんて平気で言うのが。そこへいくと、日本人は発言こそ少ないけれど、きちんと物事を考えて話す傾向がある。そして、ちゃんと自分の考え抜いた意見を言えば、外国人からも、こいつは thoughtfulだと、ちゃんと思ってもらえる。

——発言の中身が良ければ、評価してもらえる、と。

福田:そうですね。たとえ「こいつの英語は変だ」と思われても、ある程度グローバル・コミュニケーションについて行く技量さえ身につければ、中身のユニークさはきちんとリスペクトしてもらえます。逆に、自分のオピニオンがなく、「I agree.」 ばっかり言っていると、「お前は、いてもいなくても変わんない」となる。

(次回に続く)