グローバルタレントに会いに行く_SAP

部下に「お前どけ」と言われるのは全然ウエルカム

SAP生え抜き社長が語る「生え抜き社長」の弊害

2015/2/5
昨年9月、外資系IT会社としては異例の「生え抜き」で社長に就任した福田譲氏。当時39歳という若さで話題となったヤング・タレント人材だが、意外にも海外経験が浅いと言う。では、どのようにして社長という究極のグローバル・タレントに上り詰めたのか? そして、SAPが注力する人材グローバル戦略とは? 3日連続でその全容に迫る。

——福田さんは「生え抜き社長」として話題になりましたが、グローバルで「内部昇進型の社長」はそれほど珍しいことなのですか?

福田:SAPジャパンとしては、生え抜きのトップは始めてです。グローバルのITの会社を見渡しても、内部昇進型はIBMくらい歴史のある会社しか見当たりません。というのも、SAPジャパンは日本に上陸して23年目とそれほど長い歴史があるわけではありませんし、そもそも世界中で「新卒」を採用する文化はどこにもありませんでしたから。

——確かに、何のスキルも実務経験もない学卒を同時期に一気に採用する「新卒一括採用」は世界では韓国くらいしか類似系がありません。

福田:ええ。上陸当初、SAPジャパンは、社長を始め、人材を世界中の拠点や中途採用などで調達していました。でも日本の組織が成熟していくに従い、日本では新卒を採用し社内で育てていく企業文化があるのだから、そうした環境を作るべきではないかとの機運が高まり、新卒が採用されるようになった。私は1997年、ちょうどそんな時期に入社したわけです。

——生え抜きが社長になるメリットとはやはり、ロイヤリティが高い、オペレーションに精通している、社内人脈が豊富、あるいは社長が生え抜きだと同じく生え抜きの社員がいつかは自分もとモチベーションが高まることなどでしょうか?

福田:その効果はあると思います。しかし、弊害もあります。

生え抜き社長の弊害

——弊害とは?

福田:例えば、パフォーマンスを出していなくても、会社に居続けられるだとか。長く勤めればポジションが上がっていくだとか。もっとも私は、長く一緒にやってきたメンバーがどんどん育ち、それこそ「お前どけ」となんて言ってくるのは全然ウエルカム。

地位に固執はしません。一方で、内部人材が想定通り育たない場合は、もちろんヘッドハンターなどを介して、外部人材のスカウトを検討します。外部人材と内部人材のバランスが取れている状態が最適だと思います。

——今回の社長就任は内部、外部含めて最高の人材を探した結果、福田さんが最適だったということですね。

福田:たまたま、私が残っただけの話です。SAPが誕生して、グローバルで今年で43歳。日本で23歳。それだけ成熟し、自然にリーダーシップを発揮する人が周囲からリーダーと認められ、「やっぱり、次はあの人だよね」という雰囲気が徐々にできてきた。

昔は、そうはいきませんでした。「お友達人事」じゃないですが、ある日、社長がポーンとやってきて、その社長が連れてきた人間がどどどどっと入ってくるなんてこともありましたからね。

——かつての外資系企業ではよくありましたよね。リーダーを筆頭に、そのリーダーの子飼いとなる人材がセットでチームごと転職する現象が。

福田:1990年代は多かったですよね。会社の人事マネジメントシステムより、マネジメントのポジションにいる人の意向が強かったですから。

しかし、現在のSAPは「人に対するフィロソフィー」があり、個別の人材が何を得意で、逆に何が足りなくて、何をいつ育成すべきかを管理する「タレント管理システム」があり、人材が成長していく仕組みをフレームワークとして整備しています。
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社長就任の翌週に後継者選び

——人事評価やタレントの基準なども世界共通ですか?

福田:ええ、共通です。3年ほど前から、完全に統一されました。そうしないと、例えば日本でこの仕事をしている人はドイツの本社の場合、何にあたるのかが分からず、横に流しにくい。給料水準も揃えにくいですからね。

——SAPとしては、世界の拠点がローカライズかしすぎて独自色を強めていくのは避けたい意図がある、と?

福田:ええ。なぜなら、独自化すると、その国にしか通用しませんよね。また、日本のお客様自身が海外ビジネスを拡充する中、我々もグローバル化せずして顧客の要望に答えることはできません。

——なるほど。ところで、SAPのタレントマネジメントシステムに入っている人材リストはワールドワイドの拠点共通で見られるのですよね?

福田:そうです。見られます。

——そこには、人材のスペックや経験、評価などが書いてあるんですか?

福田:もちろんです。

——それは誰が打ち込むんですか?

福田:自分たちが目標と成果を打ち込みます。そして、それに対してマネージャーがコメントを入れ、それが毎年の結果としで残っていく。例えば、現社長が誰を後継者にしたいか、などといった情報も、管理されています。

——後継者リストまで入っているのですね。

福田:そうです。私が、社長に就任した翌週にやったことは、私の後任者を決めることでしたから。

——本当ですか?

福田:ええ。さすがに、えっ? もう、決めるのと思いましたけどね(笑)。

——ところで、福田社長は意外にドメスティック中心のキャリアだと聞いています。海外経験の不足をどのように補って、グローバル・タレントになったのかについて、伺います。

福田:そうですね。私は入社6年目で国内の化学・石油業界の大手顧客担当のマネージャーになりました。28歳の時ですね。その時に始めて、グローバルなタレント研修に行ってこいと言われまして。そこで始めて、「あれ? 何、俺、タレント候補に選ばれたの?」と嬉しい反面、驚きましたね。

一方で、タレント研修に行ってみたらやっぱり英語は分からないわ、外国人同士の談笑の輪に入れないわで、苦労しました。

(次回に続く)