2023/2/27
地方転職のリアル。あなたのスキルが今、求められている
リージョナルキャリア | NewsPicks Brand Design
スキルを磨くには、経済活動の中心地である都会で働く。そんな思考が、これまでのキャリア形成の常識だった。
しかし、人生は一直線ではない。家族が増えたり、違う場所で挑戦してみたくなったり。コロナ禍を機に、立ち止まって人生の中の優先順位を見直した人もいるだろう。
そんな中で、「地方で働く」ことが、前向きな選択肢として捉え直されている。
地方で働くことで、どんなキャリアが拓けるのか。地方での求人状況の実態とは。
コロナ禍を機に、都心部を離れた郊外での多拠点生活を始めた澤円氏と、U・Iターンの転職支援サービス「リージョナルキャリア」を運営する、リージョナルスタイルの代表取締役 高岡幸生氏との対談で読み解く。
しかし、人生は一直線ではない。家族が増えたり、違う場所で挑戦してみたくなったり。コロナ禍を機に、立ち止まって人生の中の優先順位を見直した人もいるだろう。
そんな中で、「地方で働く」ことが、前向きな選択肢として捉え直されている。
地方で働くことで、どんなキャリアが拓けるのか。地方での求人状況の実態とは。
コロナ禍を機に、都心部を離れた郊外での多拠点生活を始めた澤円氏と、U・Iターンの転職支援サービス「リージョナルキャリア」を運営する、リージョナルスタイルの代表取締役 高岡幸生氏との対談で読み解く。
コロナ禍でバレた「出社≠働く」
──これまでは、バリバリ働きたい人は都心、暮らしを重視したい人は地方や郊外、といったイメージがありました。しかしコロナ禍でリモートワークが広まったことで、その固定観念が崩れてきていると感じます。
澤 ええ、そう思います。コロナ禍によって、「出社する」ことと「仕事で価値を出す」ことに、なんの関係もないことが“バレた”。これが最大の変化ではないでしょうか。
これまでは、「働くこと=会社に行くこと」でした。ところがコロナ禍を機にリモートワークをやってみたら、出社しなくても十分価値を出せることがわかってしまったんです。
そこで重要になるのは、「どこで働くか」ではなく、「自分が価値を出せる人間かどうか」。
そう考えると、働く場所が「都心」か「地方」かという違いは、もはや大した問題ではないはずなんです。
高岡 私もU・Iターンの転職支援の仕事を15年やってきましたが、ここ数年で地域間の人材の流動性が一気に高まったと感じます。
澤さんがおっしゃる通り、働く場所に実は制約がなかったということに、多くの人が気づき始めた。
一方で、どこにいてもオンラインで働けるとなれば、U・Iターンの転職支援なんてビジネスは成り立たないんじゃないか、と思うかもしれません。
ところがコロナ禍を経て、それとはまったく逆の現象が起きています。
これまでは、U・Iターンする場合、同時にその地域で新たな職探しをしなければならなかった。
しかし現在は、現職に留まりオンラインで仕事を続けながら地方に戻る、という選択肢を持てるようになっています。
そうすると、まずは生活拠点だけを移し、その地域での暮らしに慣れていきながら、じっくりと転職について検討することもできるわけです。
ですから、従来のご相談に加えて、「U・Iターン後の転職」あるいは「その地域での将来のキャリア」といった中長期視点でのご相談が増えているのです。
澤 私自身もコロナ禍を機に、東京から電車で1時間半程度の千葉県の山武市に新たに家を建てました。さらに長野県の軽井沢にも拠点を持たないかと誘われて、実は今3拠点で生活していて。
山武で知り合った人を通じて地域の施設で講演を頼まれるなど、新たな土地での出会いが仕事につながっています。
観光客として行くのではなく、実際に住んでその土地と向き合うと、地域の課題もより鮮明に見えてくる。コラボレーションの可能性が、今どんどん生まれている状態ですね。
澤氏の軽井沢での暮らしの様子。
あなたのスキル、貴重です
澤 都心から地方に動くだけで、ものすごい価値を発揮できるようになる人も現れると思うんですよ。
というのも、たとえば地方の中小企業は、どうしてもデジタル化で後れを取りがちです。
ですが、必ずしも大袈裟なシステムを導入しなくても、月額数千円のクラウドサービスを導入すれば解決できることは、たくさんある。
それなのに、特に地方の中小企業にはIT担当者がいないケースも多く、そういったクラウドサービスの存在をそもそも知らない。
そこで、都心のSIer(システム開発を請け負う企業)で働くエンジニアが、ITの知見を持って地方企業に行き、IT担当としてデジタル改革を進めれば、すごく重宝されるはず。
仮にSIerの中ではパッとしないキャリアを歩んでいたとしても、自分のスキルが求められている場所に行くだけで、いきなりヒーローになれるかもしれないんです。
私は、鶏口牛後(注)という四字熟語が好きなんですが、まさにそれを体現した状態ですね。
注:大きな組織に従うよりかは、小さい組織の長になる方が良いとの意。
高岡 そうそう、DXが進まないボトルネックは、実は「知らない」ことだったりしますよね。
今お話しいただいたパターンは、働き手と企業の双方にとってまさにWin-Win。
実際、U・Iターンを積極的に受け入れたいと希望する企業はものすごく増えています。
今や地方都市においてもさまざまな新規事業が立ち上げられており、そういった事業を強力に推進していく人材を全国から募集している状況です。
一例を挙げれば、ある地方銀行が日本で初となる「デジタルバンク」の設立をしたこと。
デジタルバンクは言葉の通り実店舗を持たず、スマホ一台で口座開設や銀行取引などが完結する銀行です。この新規事業を推進するため、銀行は近しい経験や必要なスキルを持った人材を全国から募集しました。
すると、大都市圏で経験を積んできたエンジニアなどが、まさに「ヒーローになれる可能性」を求めてこの事業に参画。彼らは事業の大きな原動力となりました。
エンジニアに限らず、首都圏企業では当たり前のスキルや知見が、地方企業では大きな価値となるというケースは決して珍しいことではありません。
地方にいてもマーケットは無限大
澤 一方で、おそらくうまくいかない転職のパターンは、「逃げ」のU・Iターンですよね。
高岡 厳しい言葉ですが、それは一理あります。
「地方で働きたい」とおっしゃる方でも、「なぜ?」を読み解いていくと、実は今の仕事がうまくいっていないだけ。
隠れ蓑として、地方転職を検討しているというケースは確かにあります。
澤 そのマインドのままだと、仮に地方で働き始めても、都心で働いていた時と同じ問題にぶち当たってしまうと思います。
高岡 そうですね。ですからリージョナルキャリアはいま、「らしく。あつく。」というメッセージを掲げています。自分らしく暮らせる場所で、情熱を持って働こう、と。
自分も家族も、思い切り仕事ができること。そんな中でも、ゆったり暮らせること。
どちらかを選ぶのではなく、どちらも大切にしませんか、とお伝えしているんです。
澤 素敵ですね。思い切り働けるキャリアを歩むためには、一にも二にも「自分を主語に考える」ことが重要ですよね。
私は何ができるか、私は何がしたいのか。それだけです。
よくその前提を勘違いして、「今マーケットで必要とされている人材は……?」と考え始めてしまう人がいる。ですが、それはあなたの人生には関係なくないですか?と言いたい。
自分の人生は自分が主役です。今キャリアについて悩んでいる人は、一度自分に馬鹿正直になって考えてみてほしいなと思います。
また、地方は「マーケットが小さい」と決めつけてしまう人がいるんですよね。少子高齢化で人口が減っているじゃないか、とか。
でもこの時代において、自分がいる場所をマーケットにしなくてもいいと思うんです。そういう発想で世界中をマーケットと考えると、地方のビジネスは化ける。
たとえばイタリアでは、社員数名だけのワイナリーが、全て海外への輸出用にワインを生産していたり、日本には、地方の食材を高速バスの空いたトランクを使って輸送して、都心で提供するなんてビジネスがあったり。
アイデアさえあれば、Web系の仕事ではない一次産業でも、地方でイノベーションを起こすことはできる。世界をマーケットにした、やりがいのある仕事はいくらでもできると思います。
キャリアは「線」で考えよう
──実際にU・Iターンをした人は、どんな利点を感じている人が多いのでしょうか?
夫婦揃って地元に戻るようなケースだと特に、親が近くにいることで、子どもをみてもらえることが大きなメリットと感じる方が多いですね。都会にいるよりもむしろ、仕事に打ち込めるという声もあります。
そもそも、時間とお金の使い方がまるで異なります。
お金の面で言えば、東京で子育てをして、たとえば小学校から大学まで私立となると、子ども一人につき平均2,000万円以上かかります。
それが地方で、小学校から大学まで全部公立だったとすると、私立の3分の1程度で済むんです。
出典:文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」、文部科学省「2021年度学生納付金調査結果」、文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」※小学校から大学まで全て公立(国立)だった場合と、全て私立だった場合の比較。大学の費用に関しては、大学への納付金額のみが含まれており、通学費や生活費は含まれていない。
プライベートの過ごし方においても、地方はすごく面白いことになっていますよ。
地方でクラフトビールをつくる醸造所が増えていたり、古民家を改装したおしゃれなカフェが大人気になっていたり。
移動手段に関しても、地方はそこまで渋滞もひどくなくて、車に乗ればスーッとどこへでも行けてしまう。自然と触れ合える場所も多く、家族で出かける機会が増えたといった声もあります。
こうした生活と、熱くなれる仕事が同時に叶えば、それは最高の転職になると思います。
──地方で働きたい思いがあっても、慣れない土地での転職活動には不安が伴います。どうすれば自分にマッチする企業に出会えるでしょうか。
高岡 私たちはいつも、ご相談に来られた皆さんに、キャリアは「点ではなく線で考えましょう」とお伝えしています。
正直にお伝えすると、地方転職でご紹介できる職の種類や数は、東京や大阪などの都心に比べたら、圧倒的に限られます。
だからこそ、今ある選択肢から妥協して選ぶのではなく、長期的に向き合って、最適な転職を実現してほしい。
そんな思いから私たちの支援のスタイルは、数ヶ月から数年のスパンの中で行います。候補者の方とは定期的にコミュニケーションを取りながら、「これだ!」という求人が出てきたらご紹介するんです。
これだけ長くお付き合いするので、転職が決まったら不動産屋さんを紹介したり、気の合いそうな方たちをつなぐ飲み会を開催したり。転職後も何かとお付き合いが続くことが多いんです。
もちろん、さまざまな事情ですぐに転職する必要がある人もいらっしゃいますので、そこは柔軟に支援させていただいています。
※リージョナルキャリアによるアンケート調査より(同サービスを利用して転職した人から2022年4月~9月に得た回答の実績)
──転職支援の企業は、求職者の多い首都圏に拠点があることも多い。リージョナルキャリアの拠点は地方に25拠点(2023年2月時点)ありますが、なぜ地方に拠点を置くのでしょうか?
高岡 ご紹介する企業を、一社一社きちんと見たいからです。
候補者の皆さんにご紹介した企業が、蓋を開けたらとんでもない企業だったというのは、絶対に避けなければならない。
そのためには、僕らもその企業がある土地に根ざして、直接企業とコミュニケーションをとり続ける必要があるんです。
そんな背景もあって僕らは、企業を発掘する営業と、転職候補者を支援するコンサルタントを分けていないんです。一人の担当者が、企業とも候補者ともコミュニケーションをとる。
それこそ「あそこの会社は今は難しいけど、組織体制が整ってきたら候補者の方にマッチするかもしれないね」など、現在だけでなく将来的な可能性を含めた話をしています。
両者の“顔が浮かぶ”状態だからこそ、互いにとって最適な企業を紹介できる。ここには自信を持っています。
澤 そのやり方は、すごく安心感がありますね。一見、テクノロジーでマッチングした方が効率的ですが、結局転職って「人対人」の相性の問題ですから。
転職という領域においては、リージョナルキャリアのようなウェットで人間臭いやり方が、実は一番マッチングの精度が高いように思います。
高岡 ありがとうございます。
実際に地方転職を成功させた後、各地でさまざまな挑戦をしている方もたくさんいます。それこそ、幕末の志士みたいな勢いで(笑)。
最近僕、その方々に会いに行くのがめちゃくちゃ楽しいんですよ。
地方はやはり課題も多い。ですがビジネスは課題から生まれることを考えれば、地方はビジネスチャンスの宝庫でもあるんです。
地域にどっぷり浸かり、その土地を楽しみながら、現地の課題にも向き合う。その感覚にワクワクする人は、地方で働くことを人生の選択肢として持っておいてもいいかもしれません。
執筆:シンドウサクラ
撮影:小池大介
デザイン:小谷玖実
編集:金井明日香
撮影:小池大介
デザイン:小谷玖実
編集:金井明日香
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この連載について
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