大前研一_ビジネスジャーナル_バナー (2)

Chapter 2:韓国、中国、台湾、インドのグローバル化

日本との競争を避ける韓国企業、したたかな中国企業

2015/1/29
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを初めて書籍化した「大前研一ビジネスジャーナル」(初版:2014年11月7日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。今回は韓国企業のグローバル化パターンや中国企業の3強などについてお伝えする。

日本企業との直接競争を避ける韓国企業

前述のように、韓国企業ではウォン高の影響もあり、いま造船や鉄鋼など重厚長大産業の企業が苦労しています。しかし、エレクトロニクス分野のサムスンやLGエレクトロニクス、それから自動車のヒュンダイが頑張っている。ヒュンダイはいろいろとやっていますが、今、年間約700万台作って、ホンダを抜いて非常に強くなっています。

韓国企業の特徴として、日本企業との競争を避ける傾向があります。彼らはインドや中国、ブラジル、ウクライナといった国には進出していますが、日本と正面からバッティングするような欧州市場や米国では上手くいっていません。日本企業が気合を入れている地域でヒュンダイはなかなか勝てない。これは、彼ら自身もよく知っているのです。

韓国企業展開の定石

図-9は、韓国主要企業のグローバル化における展開イメージです。
 スライド9_R

韓国企業は、なかなかすぐに先進国市場に進出することがありません。まず新興国で自分たちのポジションを作り、次にオリンピックやワールドカップなどでビッグスポンサーをやって、それを足がかりに先進国市場に入っていくというパターンが非常に多い。また、一流デザイナーや一流エンジニアを積極的に使っているのも特徴です。

日本からもエンジニアを多数採用していますが、サムスンあたりになると、どこの会社のどんな技術を持った人をリクルートすればいいか、ということをよく知っています。こうして、リクルーティングも非常に器用にやっているのが韓国企業の特徴です。

アジアで強い「韓流コンテンツ」

 スライド10_R

一方で韓国は、図-10のように、いわゆる韓流コンテンツが強い。真ん中のグラフのように、AV(音響・映像)のサービス輸出額が2004年あたりで日本を抜いて、さらに伸び続けています。映画やドラマ、K-POPなどを使いながら、人気俳優やアーティストたちの派生商品を売っていくというやり方です。

右側のグラフのように、アジアでは、ドラマだけでなくメイクやファッションも韓国のものがいいという人のほうが圧倒的に多くなっています。こうした流れの中で、かつては日本のドラマなどを広告塔に、資生堂のコスメが築いたアジアのマーケットを、最近は韓国が席巻してしまいました。

韓国コスメ「アモーレ」の躍進

 スライド11_R

図-11は、韓国と日本の企業の基礎化粧品のアジア主要国でのシェアの推移を比較したものです。このグラフを見ると、中国ではまだ資生堂のほうが強いですが、アモーレがコーセーを抜いて赤丸急上昇中です。ベトナムでは、アモーレに次いで韓国の「LG生活健康」が躍進。このLGも今後非常に有力な企業です。それから、シンガポールでも、資生堂とコーセーが右肩下がり、アモーレのシェアが上昇しています。

アモーレの日本への本格進出はこれからですが、彼らにとって日本市場は一つのチャンスだと思います。日本の女性たちが韓国へ行くと、このアモーレを買って帰ってきます。うまくいけば日本でブレイクする可能性を秘めている。そういう先行指標と見ていいと思います。

SNS、メッセージングアプリの利用状況

 スライド12_R

図-12は、FacebookやLINEなどのSNSやメッセージングアプリの国・地域別の利用率一覧です。世界的に見ると米国のFacebookとWhatsAppが強いのですが、韓国はやはりKakao Talk(カカオトーク)が非常に強い。

ちなみに、2014年にWhatsAppをFacebookが190億ドルで買収しました。実はFacebookから見ると、一番嫌な会社だったのです。4億5000万人のお客さんを持っていましたから。客を握るというのがどのくらい強いかということを、やはりザッカーバーグは分かっているのです。

四角で囲っている数値は、その国のシェアトップという意味ですが、この数字を見ると、WhatsAppは米国以外の国でもほとんどトップです。日本ではLINEがトップ。ちなみにLINEを運営するLINE株式会社は、韓国のIT企業NAVERの日本法人です。

中国はレノボ、ファーウェイ、ハイアールの3強

次に中国企業を見てみましょう。図-13は、中国の3つのグローバル企業の概要です。左からレノボ、ファーウェイ、ハイアールです。レノボはPCやスマホを中心に事業展開していますが、PC販売では世界シェアトップです。

それから、通信設備のファーウェイ。ルーター等のネットワーク機器販売において、シスコに次ぐ世界第2位です。ハイアールは白物家電が中心。洗濯機と冷蔵庫のシェアは世界1位です。
 スライド13_R

しかし問題が創業者にあります。レノボの創業者リュウ・デンシ、ファーウェイの創業者レン・ツェンフェイ、ハイアールの創業者チャン・ルエミン、実はみな人民解放軍出身です。この中で、洗濯機や冷蔵庫は人民解放軍出身者がやっていてもよいのですが、通信機器だけは人民解放軍出身者が創業者ではまずい。米国で売れないのです。

「もしかしたらルーターの底に、スパイギアが入っているんじゃないか」ということで、米国への参入は議会の反対でできていません。以前、米国のある通信会社がファーウェイの製品を使おうとしましたが、議会が反対してダメでした。自分たちはNSA(米国家安全保障局)で世界中の情報を取りまくっているのに、中国に取られるのは嫌だと言うわけです。それが米国という国です。

とにかく、中国のグローバル企業ではこの3社が世界的に非常に強くなっている。特にファーウェイの通信機器には、もう日本企業もかないません。レノボもかなわない。日本企業よりもはるかにしたたかです。

レノボが携帯分野で世界トップに!?

 スライド14_R

次に、レノボの業績推移にフォーカスしてみましょう。図-14です。

レノボは2005年以降、買収をテコに業績を伸ばしてきました。IBMパソコン事業の買収、NECとの事業統合、ブラジルCCEの買収、IBMサーバー事業の買収、モトローラをグーグルから買うということで、今後は携帯分野でも世界トップに躍り出る可能性が高まっています。つまりサムスンと戦うということです。

ファーウェイの世界ブランド化

 スライド15_R

次にファーウェイに注目してみましょう。図-15は、ファーウェイの躍進ぶりを示すグラフです。

ファーウェイは先ほど述べたように、創業者が人民解放軍出身という問題があり、今のところ米国には本格的に進出できていません。しかし、左側のグラフのように、最近は海外売上比率が60パーセントを超えています。ですから途上国に行くと、通信携帯の基地局はほとんどファーウェイです。

右側のグラフ「移動体インフラ市場の国・地域別シェア」を見ると、世界チャンピオンはエリクソンですが、ファーウェイも、日本と北米以外ではシェアを伸ばしてきている。非常にいい会社です。

【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.2開催)を基にgood.book編集部にて編集】

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。

『大前研一ビジネスジャーナル No.1 「強いグローバル戦略/脆いグローバル戦略」』の購入・ダウンロードはこちら
■印刷書籍(Amazon
■電子書籍(AmazonKindleストア
■大前研一ビジネスジャーナル公式WEBでは、書籍版お試し読みを公開中( good.book WEB
journal1号表紙