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動画史が予測する「動画ビジネスの未来」(3)

ゲームの歴史から考える、動画コンテンツの未来

2015/1/24
デジタル化、ソーシャル化、スマホシフトなどにより、大きく変わりつつあるテレビ業界。その中でも、最大のテーマのひとつが「動画」だ。これから動画はどのように発展していくのか、勝者となるのは誰なのか。TBSテレビ編成局コンテンツ戦略部の柳内啓司氏が、動画の歴史を紐解きながら、動画の未来を予測する。
第1回:動画100年史から探る、動画ビジネスの勝者
第2回:スマホシフトで、動画コンテンツはどう変わるのか

コンシューマーゲームとスマホゲームの違い

これまで、動画史を振り返りながら、スマホシフトにおける動画の変化を考えてきました。この項目では少し切り口を変え、動画の隣接市場においてスマホシフトで起きたことから、動画の未来にヒントを探したいと思います。

動画に似ていて、一足早くスマホに市場が移ってきたコンテンツ、それは「ゲーム」です。ゲームは、リビングのテレビを主戦場としてきたコンシューマーゲームから、スマホ向けゲームにお金の流れが大きく変わったコンテンツの一つです。スマホゲームの出現で起きたゲームの変化を挙げ、動画の未来の参考資料としたいと思います。

1プレイの長さ:「スキマ時間」へのフィット

コンシューマーゲームとスマホゲームの大きな違いとして、1プレイの長さが挙げられます。スマホゲームは電車の移動時間、友達との待ち合わせ時間などの、「スキマ時間」にうまくフィットしたコンテンツを提供し、利用者数を伸ばしてきました。動画においても、このような「スキマ時間」を埋めてくれるコンテンツを提供することが重要かもしれません。

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ビジネスモデル:「売り切り型」からフリーミアムモデルへ

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コンシューマーゲームのビジネスモデルは、ゲームを始める前にソフトを購入するという「売り切りモデル」でした。それに対し、無料コンテンツがひしめき合うスマホ内で、スマホゲームは基本無料で遊べるが、アイテム課金などでマネタイズするという新しいビジネスモデルを構築しました。

翻って、テレビにおいては、既に有料チャンネルに加えて、広告付き無料放送というビジネスモデルが確立されています。スマホ向け動画においても、有料課金モデル、広告付き無料モデル、もしくはアイテム課金のように、例えば一定時間以上視聴する場合の課金となるのか。さまざまな可能性が模索されていくと思われます。

大物クリエイターの新規市場参入

スマホ向けゲーム市場が成熟されていくにつれ、レガシープラットフォームであるコンシューマーゲームでのヒットメーカー、いわゆる大物クリエイターがそこに参入するケースも出てきました。

「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親として知られる、坂口博信氏はスマホ向けRPG「テラバトル」を手掛け、わずか20日間で100万ダウンロードされたのは記憶に新しいでしょう。動画においても、スマホ向け動画においてYouTuberがきら星のごとく登場しましたが、市場が成熟してくると、テレビや映画での制作経験が豊富なクリエイターが参入してくるケースが出てくるかもしれません。

プラットフォームの命は短く、コンテンツの命は長い

これまで動画の歴史を振り返りながら、「動画の未来」について、考えてきましたが、最後にひとつ重要な指摘をしたいと思います。それは「プラットフォームの命は短く、コンテンツの命は長い」という点です。動画のプラットフォームが映画からテレビに、テレビからスマホに変化しようとも、その中身を覗き見ると、たいして変わりません。

人間はどんなデバイスだろうと、ラブストーリーで切なくなりたいし、コメディで笑いたいし、悲劇で泣きたいのです。私は仕事の中で、素晴らしいストーリーを紡ぐ一流のクリエイターたちと交流する機会がありますが、動画のスマホシフトの波に慌てている人はいません。それは、彼らは「どこで動画を見られようと、人間の根本は変わらない」ということを知っているからでしょう。

「プラットフォームの命は短く、コンテンツの命は長い」の他の例を挙げると、ソーシャルメディアでも同じ現象が見られます。「人のつながり」というコンテンツはなくなることはありませんが、mixi、Facebook、LINEなど「人とのつながり」が乗っかるプラットフォームは、次々と登場しています。

また、コンテンツとプラットフォームの考え方に関して、AKB48の成功理由を尋ねられた秋元康さんは、インタビューで以下のように述べています。

「元々、『カルピスの原液』となるようなコンテンツを作ろうと思っていましたから。『カルピスの原液』さえあれば、それを“カルピスウォーター”にしたり、“ホットカルピス”にしたり、“カルピスアイスクリーム”にしたり、いろいろできますからね。AKB48という専用の劇場を持ったアイドルグループが『カルピスの原液』です。人気の上昇とともに、僕の所に、映像配信やモバイルコンテンツや商品化など、数限りなく持ち込まれています。つまり、それは、AKB48という『カルピスの原液』を使ったビジネスを外の人たちがいろいろ考えて提案してくれるわけです。ビジネスの基本は、“人が集まる”ということだと思います」

秋元康さんの言葉を借りれば、「カルピスの原液を作れる人」か「新しい『カルピス◯◯』を提案できる人」になることが、スマホ動画時代における成功の秘訣なのかもしれません。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。この記事はあくまで、動画の歴史を俯瞰(ふかん)し、恐縮ながら、それに基づいて仮説を立ててみたにすぎません。Pickerの皆さんには、ぜひこの仮説にどしどしコメントをいただき、この記事が今後の動画の未来を語るたたき台になれば嬉しいです。

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